第66話 新たな聖武器の入手



 見事、ゼルネスの《煙霧の幻影ヘイズ・ミラージュ》を破り勝利した俺。


 左肩の負傷はシャノンの回復魔法で治癒してもらい事なきを得た。

 まぁ彼女の能力を期待した上での無茶ぶり戦法だったんだけどね。


 一方のゼルネスも治癒を受けて命を繋いでいる。

 今はフィーヤの魔法の鎖でガチガチに拘束され眠らされていた。


「……ゼルネスまで治癒してもらってすまない。このような男でも僕にとって恩師には変わりない。だからこそ僕が責任を持って、父であるバイル陛下に突き出そう……これまで母上が犯した悪事と共に」


 勇者テスラが申し訳なさそうに言ってくる。

 もろ母親の仕業とはいえ、彼に何も落ち度はない。


「テスラが謝ることじゃない……それに戦ってみてわかった。ゼルネスこいつは口では狂人じみたことを言っていたけど、言う程の悪人じゃない。きっと俺がラウルの上に立つ人物か試したんだろう……もう終わったことだ」


 案外、ゼルネスは俺に凶行を止めて欲しかったのかもしれない。

 だからああして自分から正体をバラし、ベラベラと煽るように全てをブチ撒けたんだ。

 

 ゼルネスは誰が見ても超一流の暗殺者アサシンだと思う。

 本来であれば危険リスクを避け、最初から《煙霧の幻影ヘイズ・ミラージュ》で俺かラウルの暗殺を成し遂げ、そのまま姿を晦ませられたに違いない。


 だが俺の言葉に、テスラは首を横に振るう。

 

「いや、アルフレッド君、それは違う。まだ終わっていない、これからだ。母ウェンディは裁かれなければならない。兄ラウルの殺害未遂に加え、アルフレッド君の暗殺未遂……さらに数々の悪行を白日の下に晒し責任を問われることだろう」


「いいのか? 自分の母親だぞ?」


「構わない。僕は勇者であり第二王子だ。真面目に生きる民と仕える者達のため、不正は確実に正さなければならない。身内なら尚更だ」


 流石、勇者だ。聖武器に選ばれたのは伊達じゃない。


 それから仕切り直し、再びオリハルコンが置かれた台座の前に全員が並んだ。

 いや一人だけ並ぼうとしない奴がいる。

 テスラだった。


「どうして並ばないんだ? 一斉に手を触れないと聖武器が手に入らないんだろ?」


 俺の問いに彼は首を横に振るう。


「今の僕にはその資格はない。ここでゼルネスを見張っているから、キミらで手にすればいいだろう。既に僕には聖槍ボルテックスがあるから問題ないしね」


「そうか、なら聖剣グランダーを持つ俺も……」


「いや、アルフレッド君には大いに資格がある。寧ろ手にするべきだと思う」


「どうして?」


「キミは僕よりも力を手にしなければならない。これから魔王との戦いに備えるためにも……これまでの手腕や戦いを見る限り、いずれキミはその運命に立たされるかもしれない」


 まるで鳥巻八号みたいなことを言う勇者テスラ。


 夢の中で鳥巻も俺が動くことでムーブが発生するかもしれないと言っていた。

 なんのことかは不明だが今回のラダの塔といい、原作とは違う何かが起きようとしているのは確かだ。


 だからこそ、俺は強くなり力を身につけなければならない――。


「わかったよ、テスラ。それじゃみんな、いっせーのっで触るぞ」


「了解だ、アルフ。しかし、くれぐれもくしゃみするとかボケをかますなよ。お前さん、以前それで聖剣を抜いたんだからな」


 やかましいわ、ガイゼン。ちょっとした黒歴史じゃねぇか。

 ほら見ろ、みんなが苦笑しているじゃん。恥ずかしいわ。


 俺は強く咳払いをして、「いっせーの」と音頭を取り始める。

 そしてみんな同時にオリハルコンに触れた。


 するとどうだろう。

 オリハルコンから眩い閃光が発せられた瞬間、不意に消失してしまった。


「消えた、マジか!?」


 一瞬、失望感に見舞われるが周囲は違っていた。


「おお、アルフよ! 見てくれ大楯だ! 大楯の聖武器だぞ!」


 ガイゼンが大声ではしゃいでいる。

 その手には鮮やかな模様が施されていた漆黒の大楯が掲げられていた。

 しかも奴の意志で自在にサイズ変更ができるので、間違いなくオリハルコンの素材だ。


 パールとソーリアは先端に魔法石が付いた棒魔杖ロッドが握られ、シャノンは錫杖という法具タイプの聖武器である。


 シズクは両手に短剣ダガーを持ち、カナデは業物の刀剣だった。

 ピコは小さな腕輪であり、自在に質量と形状を変えてドーム状に全身を包むことができるらしい。これで自分の身は自分で護れるようになった形だ。


 そしてマカ、ロカ、ミカは短魔杖ワンドであり、ラウルはなんと拳銃のような独特の形をした射出型の武器が握られている。

 どうやら銃身にティムしたモンスターを封じた《封印手札シールカード》を投入させることで射出させる召喚獣、いや召喚銃のようだ(ひょっとして文字ってる?)。


 また【大樹の鐘】のリュンは弓と数本の矢であり、【戦狼の牙】ザックもオリハルコン製の鋼鉄手甲ガントレッドが両腕に装着されていた。

 他、俺以外の触れた者達はそれぞれ職種にあった聖武器を手にしている。


 てかなんで俺だけ手に入らないんだよ?

 既に聖剣を持っているからハブられたのか? それでもなんか酷くね?


「――アルフさんの聖武器は鎧のようですね。とても素敵ですよ」


 シャノンは優しい微笑を浮かべ、じっと俺を見つめている。


 鎧だと?


 手で探りながら確認して見ると、確かに形状が異なっている鎧を纏っていた。

 白銀色シルバーの美しい光沢を発した頑丈そうな板金型鎧プレートメイルだ。


 いつの間にか従来の鎧と融合したのだろうか?

 考えてみれば剣士セイバーの俺は既に聖剣を手にしているからな。

 それ以外となると鎧って感じになるようだ。


「オレと同じ面頬付の兜だな。カッコイイじゃねぇか。これからは鎧コンビを組もうぜ」


 ガイゼンが嬉しそうに言ってくる。


 おっ、本当だ。気づけばフルフェイス型の兜を装着していた。

 まるっきり重さを感じない。視界もクリアだ。


 けどいらねーっ。てか戦闘時だけで十分だわ。

 間違っても、ガイゼンみたいに四六時中つけてられねーし。


 などと思ったら、兜が自動に折りたたまれ背中の装甲部分へと収納されていく。

 他の装甲部分も同様で必要な部分のみが保護される形へと変化した。


 なるほど、俺の意志で自在に変形できるのか。

 こりゃ便利だ。

 よし、この聖武器は『聖鎧セイガイ』と名付けよう。



 それから【大樹の鐘】支援役サポーターエリの固有スキル《脱出口エスケープ》でショートカットして10階の神殿まで帰還した。


 《脱出口エスケープ》はマーキング箇所まで瞬間移動できるスキルであり、発動の際は大きな開閉式の扉が出現し、エリが開けて入るとその位置まで戻っているという能力だ。



「お、終わった……」


 生還した誰もがそう呟いた。

 全員から溜息が漏れ、どっと疲れが押し寄せてくる。


 かくして俺達は無事にラダの塔を攻略して聖武器を入手した。

 ボスであるマンティス・アーガを斃したことで、塔の中に巣食っていた魔蟲や食人植物が消滅し次第に本来の姿に戻っていく。


 これで階段に避難していた他の冒険者達も自力で帰還することができるだろう。



◇◆◇



 ギルドに戻り、預かってもらったスラ吉と合流する。

 ラダの塔攻略達成の知らせを受け、ギルドマスターと受付嬢を始め誰もが驚き歓喜した。


「まさか本当にラダの塔を攻略したってのか!?」


「けど全員、聖武器を持っている……信じられないわ」


「流石は勇者テスラ様……いや最も凄いのは【集結の絆】だ。白銀シルバークラスで脱落者ナシなんだからよぉ」


 冒険者達から称賛と羨望の声が聞かれる。

 特に俺達は他国の冒険者であり低ランクと思われただけに驚異のようだ。

 

 間もなくして騎士団が近づいてくる。

 テスラが事情を説明し、拘束されたゼルネスを引き取らせた。

 そのまま俺達は騎士団の護衛で王城に行くことになる。


 攻略したから一休みというわけにはいかない。

 寧ろここからが本番かもしれないからだ。


 忠実な執事ゼルネスがやらかした後始末。


 ――第二王妃ウェンディを粛清するため。


 ラウルが抱える因縁に終止符を打つためだ。



―――――――――――

(お知らせ)

諸般の事情により、頂いたご感想欄での作者側のご返信は当面控えさせて頂きます……本当に申し訳ございません。

皆様から頂いたご感想には必ず目を通し、誤字報告も修正いたします。

必要と判断すればご返信することもあるかもしれません。

どうか今後とも末永くお付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m

―――――――――――

(ささやかなお願いごと)

当作品で表示されるルビ等の多くは漫画などで表現される当て字が多用されています。

 苦手な方は申し訳ありませんが自己回避をお願いします。

―――――――――――

お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る