第67話 悪役、クズ王妃を断罪する



 オルセア王城の待機室へ通され、二時間後。


 まず俺達【集結の絆】が呼び出され玉座の間に案内された。

 そこはルミリオ王国と似たような造りの室内だ。


 奥側の玉座には、バイル国王が鎮座している。

 オールバックの焦げ茶色髪と口髭、がっしりとした体格で威厳と風格を放っていた。

 軽めのフレート王に比べると威圧的で鋭い眼光を持つ怖そうな雰囲気だ。


 国王の左右には勇者テスラと大臣風の貴族が立っている。

 他には【太陽の聖槍】と護衛の騎士達が壁側の方で整列しており、敷かれた赤絨毯の真ん中には鎖で拘束されたゼルネスが両膝をついて蹲り、兵士達に囲まれ槍で抑えつけられていた。


 随分と重々しい雰囲気だ。


 俺達は証人として招かれたらしく、騎士の案内で【太陽の聖槍】の隣側に立たされる。

 第一王子のラウルも同様だった。


 沈黙後、バイル王が口を開く。


「皆、集まったようだな。難攻不落だったラダの塔攻略達成に関することは後ほどの話としよう。まずは神聖国の王としてケジメをつけなければならん。連れて参れ――」


 そうお指示すると扉が開かれ、兵士達がロープで縛られた紺色髪の華やかなドレスを纏う貴婦人を連れてきた。

 女性は強制的に、ゼルネスの隣で跪かせられる。


「無礼者! わたくしにこのような真似をしてただで済むと思っているのですか!?」


 やたらと喚き散らす、年増のおばさん。

 わかったぞ、こいつが第二王妃のウェンディだな。

 噂通りの高飛車で傲慢そうな女だ。


「黙れ、ウェンディ。話はテスラから全て聞いたぞ。貴様は10年前、余の息子であり第一王子ラウルの暗殺をそこのゼルネスに命じたそうだな? 結果、ラウルはオルセアに居られなくなり現在まで至っている。間違いないな?」


 バイル国王の説明に、ウェンディは首を大きく横に振るう。


「違います、陛下! 誤解です! わたくしがそのような事を命じるわけがないではありませんか!?」


「この期に及んで、しらを切るつもりか? ではラダの塔でその者、ゼルネスがやらかした事に関してどう説明する? 捕らえたのは、そこに立つ実際に命を狙われた【集結の絆】団長アルフレッドだぞ。ゼルネス自らも貴様に『ラウル暗殺』を命じられたと証言している。おまけに二日前も民の少年に難癖をつけ、【集結の絆】の団員達と揉め事を起こしていると多く民から証言を得られているぞ――」


 これまではゼルネスによって隠蔽されていた真実も、こうして捕らわれてしまった今、ウェンディに成す術がない。

 そして他にも今までやらかした悪行の数々が暴露されていく。


 民衆からのクレームは勿論、貴族達に対してのパワハラや虐待、贅沢罪による国税の無駄使いなど多くが取り沙汰された。

 傍聴しているだけでも、ろくな王妃じゃないと理解できる。


 被害者のラウルは証言台に立たされ「全て紛れもない事実です」と告白し、実際に彼を匿っていた親戚のソーリアも「うひひひ、本当だよ」と不敵な笑みで証言した。

 俺達も「間違いない」と告げる。他国の冒険者だけに、忖度なく信憑性が高いと評価された。


 それでもウェンディは一貫して罪を認めない。

 挙句の果てに「ゼルネスが勝手に暴走しただけですわ!」と擦り付ける始末。

 前世の政治家並みに往生際が最悪だった。


 肝心のゼルネスも貝のように口を閉ざしたまま何も語ろうとしない。

 特にこいつの場合、ウェンディへの忠誠心が半端ないので下手に言及すると舌を噛みちぎって自害しそうだ。

 したがってバイル王もゼルネスへの執拗な追及は避けている。


 そんな中、テスラがも厳しい形相でズガズガと歩き出した。

 近くに立つ騎士の腰元から剣を引き抜き、ウェンディに切っ先を向ける。

 最愛の息子の思わぬ振舞いに、流石のウェンディも目を丸くして驚愕した。


「な、何をするの、テスラ!?」


「母上、見苦しいですぞ! 全ての罪を認め、裁きを受けてください!」


「何を言っているの!? 自分が何をしているかわからないのですか!? 貴方は母に刃を向けているのよ! ここまで立派に育てたのは誰のおかげだと思っているのです!」


「無論、心から感謝しています……ですが最愛の母であるからこそ、王妃として不正は正すべきなのです! 特にラウル兄さん……いえ第一王子に貴女は詫びなければならない!」


「ぐっ……誰が忌まわしい辺境部族の呪術師シャーマン女が産んだ子に頭など! あの者が優秀な貴方を差し置いて次期国王などあり得ません! テスラ、貴方だってそう思っている筈よ!」


「……それは父上がお決めになること。私は異母兄弟といえど、兄ラウルを心から慕い尊敬しておりました。彼の実母、第一王妃にも分け隔てなく可愛がっていただいた恩もあります……母上、貴女とは違い、民にも優しい女性だったと記憶していますよ」


「わたくしがあの女より劣ると言うのですか!? そんなの認めませんわ! テスラ今すぐ訂正しなさい!」


「母上、貴女という人はどこまで……」


 テスラは一瞬だけ悲しい表情を浮かべ、すぐに目尻を吊り上げる。

 握っていた剣を上段に構え、ウェンディに目掛け今にも斬らんとする体勢だ。


 こいつ、まさか実の母親をガチで斬る気か?

 未遂とはいえ王子暗殺の教唆は重罪だ。これまで明かされた余罪を含め極刑に値するだろう。


「息子として……息子だからこそ貴女は僕が裁く!」


「ひぃい、やめなさい、テスラ! やめてぇぇぇ!!!」


 ウェンディの絶叫を皮切りに、テスラは容赦なく剣を振り下ろした。



 ガッ!



 誰もが唖然とする中、ウェンディの眼前で刃が止められる。

 だがそれは、テスラが寸止めしたからじゃない。


 ――この俺が止めたからだ。


「《神の加速ゴッドアクセル》――テスラ、お前が斬る必要はない」


 そう。

 俺は咄嗟にスキルを発動し、テスラを背後から押えつけていた。


 てかこいつ、ガチで母親を斬ろうとしていたぞ。

 どこまで容赦のない……いや、これもテスラの優しさだ。


 クズとはいえ最愛の母には違いない。

 誰かに裁かれるくらいなら自分が裁く。それで体裁が保たれ皆が納得する。


 そう思ったんだろう……心を鬼にしてな。


 確かに間違ってないし、鳥巻八号の原作を好む信者から「やっちまえ、ローグ!」「ナイス、ざまぁ!」「救済なんていらねぇ、ギャハハハ!」ってな感想コメで溢れているところだ。


 だからと言って、子が親を殺めていいわけじゃない。

 ざまぁムーブなんて糞くらえだ。


 俺は俺のやり方で正義を全うしてやる――。


「アルフレッド君……」


「剣を貸せ。このおばさんには貸しがある――俺がブッタ斬る!」


 俺は、まだ王妃であるこの女を煽るように、あえて「おばさん」と呼ぶ。

 そしてテスラから剣を奪い取る。

 今度は俺がウェンディに刃を向けた。


 すると再びクズ王妃は酷く狼狽し始める。


「ひぃぃぃい、誰か助けなさい! 嫌ぁぁぁ助けてぇぇぇ!!!」


「やかましいぜ、おばさん! ラウルは【集結の絆】にとって大切な団員なんだよ! ラウルの敵は俺の敵だ! 団長として、ラウルに代わり断罪してやる!」


「やめてぇ! 殺さないでぇぇぇ、誰かぁぁぁ!!!」


 俺の迫力に泣き叫び赦しを請う、ウェンディ。

 その無様な姿を晒しても、周囲は誰も助けるどころか止める者さえいない。

 夫であるバイル王は勿論、忠実なゼルネスさえも俯いたままだ。


 王妃を剥奪され惨めに断頭台で晒されるより、今ここで処刑された方が面目も立つと思っているのか。

 結局、誰もが俺に斬られても仕方ないと暗黙の了解で容認している。


「メッキが剥がれたな、おばさん……あんたの人望なんて所詮そんなもんだ。んじゃ覚悟はいいか?」


「いゃぁぁぁぁ、誰かぁぁぁぁ!!!」


 じたばたと逃げようとするところを兵士達に抑えつけられる、ウェンディ。

 俺は一歩、前に踏み込もうとした。


 その時だ。


「――アルフ団長、その辺でいいでしょう!」


 唯一、この場で制止を求める者がいた。


 ラウルだ。

 一番の犠牲者である筈の彼が叫んでいる。


 その真剣な眼差しに、俺はニッと口端を吊り上げた。



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