第70話 悪役と悪女の邂逅
ここに来て魔王軍だと?
まさか連中が、ラダの塔に魔改造を施したマンティス・アーガを解き放ったと言うのか!?
「あり得る話ではあるな……しかしこれまでの連中は大軍を率いる侵略行為が主であったが、我がオルセアに限りこのような工作紛いなことを行うとは……何かしら意図があるのだろうか?」
バイル王の問いに、宮廷魔法士でもあるフィーヤが「はい」と返事する。
「まだ確証がなく考察段階ではありますが、おそらくは実験ではないかと」
「実験? 強化したマンティス・アーガの性能をラダの塔で試していたと?」
「はい。マンティス・アーガの強さだけでなく、他の魔蟲を呼び寄せ寄生や繁殖能力に至るまでです。魔蟲達の習性から、自ら
そして実際、侵入してきた騎士団や冒険者を襲わせ数を減らせば、オルセア神聖国の弱体化に繋がり一石二鳥となるわけだ。
数と武力によるゴリ押し戦法から、謀を企てる計略に切り替えたというのか?
「魔族共め……神聖なる塔を汚すとは赦せん!」
「確かに魔族ならやりそうな手口だなぁ! 忌々しい奴らだぜ!」
リュンとザックも怒りの声を上げている。
だが国内で魔族を見かけたというだけで、実際にラダの塔の異変に関わったという証拠がないようだ。
「まだ確定ではないが、魔族共が関与している可能性は大いにある。これからも引き続き調査を続けてほしい。特に貴公らは冒険者として情報網が幅広いだろう。是非に協力の程をお願いする」
バイル王がそう告げると報告会は終わった。
最後の最後でとんでもない話を聞いた気がする。
◇◆◇
翌日、俺達は冒険者ギルドに訪れた。
国王から頂戴した10億Gの貯金とギルドカードを更新するためである。
ギルドは大陸共通なので、わざわざルミリオ王国に持ち帰る必要がないから助かる。
けど今の【集結の絆】。相当、潤ってきたな……そろそろガチで屋敷でも買おうかな。
「ギルドカードの更新は如何いたしましょうか?」
受付嬢は丁寧な口調で訊いてくる。
ルシアと違い以前はそこまで親身じゃなかったのに、俺達が「英雄の称号」を得てから態度が一変したような気がした。
「……んじゃ頼むよ」
複雑な心境を抱きつつ、手っ取り早いのでお願いすることにした。
すると、俺の等級が爆上がりしていることに気づく。
「――第一級冒険者だと!? この俺が……ガチで?」
「はい。あの難攻不落だったラダの塔を攻略された功績で、二等級ほど上がっております」
ついに返り咲いたか……まぁ単独で固有スキルも使えるようになったからな。
俺自身の実力と評価して良いだろう。
ガイゼン達も大幅に等級が上がっているようだ。
みんな自分のギルドカードを眺めながら「おお~っ」と身震いしている。
「ちなみに【集結の絆】様は
当然ながらパーティランクも上がったようだ。
以下の通りの内容となる。
【集結の絆】:
第一級冒険者
アルフレッド、ラウル、ソーリア
マカ、ロカ、ルカ
第二級冒険者
ガイゼン、パール、シャノン、カナデ
第三級冒険者
シズク
テイムモンスター
スラ吉、その他
おまけ
ピコ
以上
「どうしてアタシがおまけなのよ! テイムモンスターより格下扱いじゃない! 心外よ!」
前回と同じブチギレ方をする、ピコ。
俺は「まぁまぁ」と宥めると「もう彼氏に免じてあげるわ!」と開き直る。
もうツッコむ気にならねーっと思った。
どうやら俺だけじゃなく、大半の団員が二等級ほどランクアップしたようだ。
特にガイゼンとパールとシャノンが上がっているのは嬉しい。
いずれ彼らも一年前と同様に俺と肩を並べられるだろう。
もう弱体化なんて言わせねーぞ。
「第一級の冒険者様がこれだけいらっしゃるパーティです。
「ついに俺と同等になったな、アルフレッド」
不意に誰かが声を掛けてくる。
振り返ると、そこにザックとリュンが立っていた。
険悪だった二人が一緒にいるのは珍しい。
「よぉ、二人共。どうしたんだ?」
「目的はお前と一緒だぜ。賞金を収めに来たんだ」
「私も同じだよ。それとザックと今後について相談していたところだ」
「今後についてだと?」
俺の問いに、リュンとザックは頷いた。
「しばらくの間、俺ら【戦狼の牙】とリュンの【大樹の鐘】は共同することにしたんだ」
「共同? つまり共に活動するってことか?」
「そうだ、アルフ。知っての通り、我が【大樹の鐘】は団員が3人しかいない。だから【戦狼の牙】と共同することで、パーティランクを維持しようと思ってな」
「リュンのところだけじゃねぇ。俺達もラダの塔で半数の団員を失う結果となっちまった……本来なら降格になっても可笑しくねぇ。だから共に聖武器を持ち『英雄の称号』を持つリュンと手を組むことにしたってわけさ。ギルドマスターにも、テスラを通して許可を貰っている」
そうなのか。パーティの維持を目的ってわけか。
ラダの塔の異変で、多くの冒険者を失ってしまった。
攻略したとはいえ、爪痕がしっかりと残っている。
「本当なら、ラダの塔攻略した暁はパーティの解散も考えていた……だが【大樹の鐘】は先代達が残してくれた遺産だ。引き継いだ者として残すべきだと思っている」
「リュンがそう思うならそれでいいんじゃないか? これだけ有名になったんだ。いずれ優秀な団員も増えるだろう」
「ああ、アルフ……実は、【集結の絆】に入団させてもらおうかと思ったんだけどな」
リュンがそう言い頬を赤らませると、シャノン、シズク、カナデ、ソーリア、ピコといった面々が笑みを浮かべながら俺の周りを囲み始める。
てかみんな笑顔なんか怖ぇーんだけど。特にソーリアは最早ホラーだった。
リュンは「ははは」と笑う。
「……冗談だよ。私が入り込む余地はなさそうだ(今はな)。して、アルフ達はこれからどうする?」
「このままオルセアに居てくれるなら歓迎するぜ」
二人の問いに、俺は微笑むも首を横に振るう。
「いや、ルミリオ王国に戻るよ。そう向こうの国王にも約束しているし……二、三日ほど観光してからね」
「そうか、アルフらしい。どうか楽しんでほしい」
「アルフレッド、何か困ったことがあったらいつでも俺らに声を掛けてくれよ」
「サンキュ。リュンとザックも頑張ってくれ――」
俺達は二人に手を振ってギルドを出た。
すっかりみんなと仲良くなったな。凄ぇ居心地がいいんだけど。
この国にローグのアホもいないし、いっそホームグランドにしたい気分だ。
けど仮にも俺はルミリオ王国の勇者候補だ。
いや今回の活躍と昇格で確実に勇者と見なされるかもしれん。
追放された時、気の合う仲間達と気ままな冒険者ライフって意気込んでいたけど、今じゃすっかり目標がズレている気がする。
まぁ聖女シャノンを始め、みんな案外乗り気だからいいんだけどね……。
などと考えていた時だ。
王都を歩く、俺の目の前に一人の女が通り過ぎる。
そいつは見覚えのある女だった。
灰色の髪と褐色の肌を持ち、抜群のスタイルにエキゾチックでグラマスな衣装を纏う冒険者風の美女。
「――ネイダ!?」
俺は思わず声を荒げてしまう。
無理もない。
何故なら、この女は魔族にして魔王の腹心。
原作でアルフレッドを闇堕ちさせた張本人だからだ――。
―――――――――――
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