第69話 悪役達、英雄となる



「アルフレッドよ。貴公の気遣いにはまことに感謝する」


 バイル王からお礼の言葉が述べられる。

 俺は跪き頭を下げて見せた。


「もったいなきお言葉。先程のご無礼をどうかお許しください」


「そんなことはない。テスラが申した通りだ。身内が身内を裁くということは極刑ありきでないと皆が納得せぬだろう……余も正直、亡き第一王妃の件でウェンディに負い目がある。それ故、あ奴を甘やかしてきたことが発端なのだ」


 事情に詳しいソーリアから聞いた話だと、バイル王が本当に愛していたのは第一王妃であり、ラウルの母親だったとか。

 亡くなってからもその想いは変わっていないようだ。


 一方、ウェンディは政略結婚であり愛情は希薄だったと言う。

 ウェンディ自身もそれを感じており、事あるごとに第一王妃に食ってかかり息子の  テスラを溺愛する傍ら、ラウルを差別し蔑ろにしていたようだ。


 王家の事情があるにせよ、一夫多妻制も面倒くさいと思う。

 ラウルもそんな大人の事情ばかりを幼い頃から見せられ体験してきた。

 だから余計に王位継承を拒むのだろう。


 バイル王はそのラウルに視線を向ける。


「ラウル、お前の意志はしかりと受け止めたぞ。本当に王位は継がぬのだな?」


「はいお父さん……いえ陛下。私はすっかり冒険者という職業に浸かってしまいました。もうそちら側には戻れないでしょう。せっかく頼もしく信頼できる仲間達に出会えたことですし、今のまま冒険者ライフを満喫していきます」


「……わかった。お前にも色々と負い目がある。もう強制しないでおこう……それで良いな、テスラよ。余もウェンディの件で大いに責任を感じている……国勢が落ち着き次第、王位を退任したいと思う。次期国王はテスラ、お前が継承することになだろうが良いな?」


「はい、父上。兄さんの頑固な性格は父上譲りであります故……だが兄さん、王位を継がなくても、僕にとって兄さんには変わりない。いつでも戻って来てほしい」


「ありがとう、テスラ。それに父さんも……戻って来て良かったです」


 これでようやく、親子と兄弟間のわだかまりが解消された。


 ラウルはこれからも【集結の絆】に居てくれると言う。

 そのことで俺を含むパーティ全員が、ほっと胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべる。

 特にガイゼンは「危うく貴重な男メンバーを失うかと思ったぜ……」と呟いていた。

 

 緊迫した場が落ち着き、今から「ラダの塔攻略達成」の功績を称える場となる。


 間もなくして待機していた【大樹の鐘】リュン達と【戦狼の牙】ザック達が招集された。

 また勇者テスラ率いる【太陽の聖槍】が並び、彼らの隣で俺達【集結の絆】がバイル王の前で跪き畏まる。


 皆、超難関クエストを達成し聖武器を手に入れただけに誇らしげな表情だ。

 バイル王が「うむ」と頷き沈黙を破る。


「この度の『ラダの塔攻略』、まことに見事だった。多くの優秀な冒険者達が挫折する中、相当困難であったと聞く」


「ハッ、陛下。こうして英傑達が集い一致団結することで、最終ボスのマンティス・アーガを打ち倒しております!」


 代表として勇者テスラが答えた。


「うむ、そうであろう。異変が起こる以前から、長きに渡り難攻不落とされていた塔だ。加えて魔蟲共が蠢く魔窟と化してしまった……もし貴公らがおらねば、このオルセアはどうなっていたことか。特に皆を纏め上げたとされる【集結の絆】には感謝している。無論、他の者もな。全ての民に代わり礼を言うぞ」


「有難きお言葉、謹んでお受けいたします」


 流石、現役の王子であり勇者テスラだ。

 礼節がしっかりしている……俺も良い方(少なくても主人公ローグなんかより)だと言われるけど超参考になるわ。


 それからバイル王より「起立せよ」と指示を受け、全員が立ち上がる。

 陛下の隣に立つ大臣から「後ろを見てください」と促され視線を向けた。


 気がつけば複数の台車に山積みとなった金塊がある。

 そのあまりにも眩さに、俺達は「うわっ」と声を漏らし双眸を細めた。


「余からの気持ちだ。いちパーティにつき、10億G用意した。少ないが褒美として受け取ってほしい」


 え!? 一つのパーティで10億ずつ!?

 やべぇ、超多くね!?


 あまりにも破格ぶりに、誰もが驚愕している。

 リュンなんて白目を向いて気を失い、仲間のベイルとエリに抱えられていた。

 強面だったバイル王はフッと表情を緩ませ優しい笑みを浮かべる。


「もう一つだ。登頂を果たした貴公ら全員に『英雄』の称号を与える。これは勇者に等しき称号である。他国、特に同盟国でも同等に扱われるだろう」


 つまりここに立つ冒険者達が、勇者並みの特権を与えられたことを意味した。

 まぁ全員が聖武器を手にしたのだから当然だろうな。


「失礼ながら陛下、我ら他国の【集結の絆】も該当するのでしょうか?」


「無論だ。特にアルフレッド、貴公はルミリオ王国の勇者候補でもある。正式な勇者となった暁には、テスラと並ぶ……いやそれ以上の勇者となるに違いない」


「まさか……それは流石に過褒なお言葉でしょう」


「いや、アルフレッド君。キミは聖武器を二つも入手している。それは歴史上、前代未聞の快挙と言えよう。まさしく我ら人類の英雄となるわけだ」


 テスラまで便乗する形で言ってくる。


 まさかこいつ、それを見越してあの時辞退したのか?

 いずれ自分は国王をやらなきゃいけないから、あとの面倒ごとは俺に押し付けようと……。


 嫌だなぁ……ここに来て、よくラノベで「俺は目立ちたくないんだが……」とイキりながらボヤく主人公の気持ちがわかってきたぞ。


 こうして俺達全員が国王から英雄の称号として『英雄の証』と刻まれたネックレスを授与された。


「ご主人様、やっぱり凄いです! まさに私の誇りです!」


 シズクは自分より俺が英雄となったことを喜んでくれる。

 奴隷っ子が英雄になるのも歴史上初だと思うけどな。


 他の団員も思わぬ快挙に戸惑い表情を強張らせている。

 ちなみにピコには妖精族フェアリー用のネックレスが与えられていた。


 なんだか名誉には違いないけど、首輪をつけられた感が半端ない。

 こりゃルミリオ王国に帰還しても、英雄の称号を貰ったことはしばらく黙っておこう。

 密かにそう思った。

 

 こうして和やかなひと時が終わり、俺達は謁見の間から退出する。

 だがそれで終わりというわけにはいかない。


 何故ならこの後、報告しなければならないことがあるからだ。


 それはこの度の「ラダの塔」の異変について――。

 何者かが作為的に引き起こした可能性がある。



 場所は決起会が行われた広間だ。

 全員が案内されると、中央の席にはバイル王と側近達が座っており、テスラの姿もあった。


 各々が用意された席に座ると、テスラが立ち上がり一同を見渡した。


「皆、疲れているところすまない。ラダの塔が魔蟲共に侵されたことについて、我ら到達を果たした冒険者側とオルセアが事前に入手した情報がある。晴れて英雄となった貴殿らには共有する資格があるだろう。また貴殿らの見解と意見も参考にするため、こうして集まってもらった」


 そう前置きしつつ、ラダの塔に異変が起こった経緯について語られる。

 大体は俺達が知る内容だ。

 だが最も興味を引いたのはやはり、あのマンティス・アーガについてだろう。


「わざわざ魔法で改造を施し、マンティス・アーガを塔に放った不届き者がいる」


 テスラはそう言い、回収した『魔核石コアストーン』をテーブルの上に置いて見せた。

 あの時は妖しく禍々しい光を放っていたが、今は消えてただ鉱石っぽくなっている。


「我らオルセアが入手した情報では、以前より王都内で複数の魔族らしき姿が見られていると言う」


「魔族だって? まさかそれって……」


 俺の問いに、テスラは力を込めて首肯する。


「――そうだ。そいつは魔王軍の密偵ではないかと思っているのだ」



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