第109話 屍の操り人形



 俺は失踪したセナを探すため、ピコとソーリアを連れて探索していた。

 そして彼女が妙な連中に襲われていた場面に遭遇する。


 けど偶然じゃない。

 必然に呼び寄せた幸運が成せたこと。


 ――ピコのスキル《幸運フォーチュン》だ。


 原作でも、その能力でローグは迷子の猫を見事に探し当てている。

 俺からピコに頼み同じことをしてもらったのだ。


 主人公様のご都合展開ガバがなければ、仲間達の力を借りながら自分で展開を引き起こせばいい。

 これが今の俺流の主人公補正だ。


 そうして、セナを探し当てたまでは良かったのだが。



「……これはどういう況だ? 刀を持った爺さんに大男から若い女性まで……見たところ。みんな一般人風だが、セナは何故彼らに襲われている?」


「団長くん、セナ以外は全員死人だよ。だって魂のオーラが見えないもの、うひひひ」


 背後で呪術師シャーマンのソーリアが教えてくる。

 不気味に笑うところじゃないけどな。


「魂の無い死人だと?」


「そっ。死霊魔法にしては一切魔力を感じないけどね。にしては生きているのと変わらないほど精密に動いている……きっと固有スキルの能力だよ」


「なるほど全員死んでいるのか――ならば!」


 俺は駆け出し、聖剣グランダーの柄に手を添える。


「なっ、アルフレッドだと!? どうしてここがわかった……クッ! まずセナを始末して口封じを――」


 爺さんがそう言い、上段に構えていた刀をセナに向けて振り下ろそうとする。


「させるか! 《神の加速ゴッドアクセル》!!!」


 射程距離に入り、俺はスキルを発動した。

 爺さんを含め全員の動きが超スロー状態となる。


 俺は刃を振るう爺さんの両腕と首を刎ね、セナを抑える大男に斬撃を浴びせた。

 そのままセナを抱き寄せると、残りの男女に対しても敵と判断し容赦なく斬りつけていく。


「――タイムアップ。俺の仲間に危害を加える輩は何人たりとも赦さない」


 時が正常に戻り、一瞬で屍達は肉塊と化した。

 元々生命のない存在だからか、ほとんど流血は見られない。

 その代わり腐乱臭が鼻孔を刺激してくる。


「ソーリアの言う通り、どいつもガチの死体だ……どういう存在なんだ?」


「……アルフ様、どうしてここに?」


 抱きかかえた、セナが不思議そうな眼差しで見てくる。


「俺は仲間を見捨てたりしない。たとえ仮団員でも、セナは【集結の絆】の仲間だと思っている」


「……そうですか。貴方様は本当に、あのアルフレッドなのですか?」


「え? どういう意味だ?」


「アルフ、浮気は駄目だからね! じゃなかったわ、気をつけて近くにまだ複数人が潜んでいるわ!」


 上空から羽を広げたピコが教えてくる。

 この子は斥候を務めるだけあり、やたら目が良い。


「チッ、それが噂の《神の加速ゴッドアクセル》か……まさしく接近戦のバケモノだ!」


 不意に男の声が響く。

 そいつは舌打ちしながら、遠くの物陰から姿を見せた。


 動きやすい黒装束を身に纏う暗殺者アサシンであり、中高年の男。

 茶髪のオールバックにすっとした鼻筋で彫りの深い顔立ち。

 口には無精髭が生えており、やたら鋭い眼光で、俺を凝視してくる。


 いつの間にか男の背後には、全身に同じような黒装束を纏う、顔を布で隠した暗殺者アサシン風の者達が五人ほど立っていた。


「……あ、あいつがボス! ミルズ・ダカルターなのか!?」


 セナは驚愕の声を荒げる。


「ミルズだと? 【殺しの庭園マーダーガーデン】のリーダーか!?」


「そうだ、勇者アルフレッド。私がミルズだ……こうして任務中に姿を晒したのは10年ぶりだがな」


 まさか討伐対象が自ら現れるとは……って待てよ?

 こいつがセナを狙っているということは……やはり。


「――セナ、やはりキミは元暗殺者アサシンだったのか?」


「はい、アルフ様……黙っていて申し訳ありません」


 そうか……俺はずっと盗賊シーフだと思って原作を読んでいたけど、そういう裏設定だったのか。


 だとしても何故、俺とローグに怨みを持つんだ?

 【英傑の聖剣】時代に彼女と何かトラブルでもあったのだろうか?

 セナと会った記憶なんてないけど……。


「勇者アルフレッド、別に我々は貴様と争うつもりはない。素直にセナを渡せば、このまま大人しく姿を消そうじゃないか」


 中年男の暗殺者アサシンことミルズが提案してくる。

 俺は「フン!」と強気に鼻を鳴らした。


「嘘だな。わざわざお前らがそうして姿を現したってことは、セナごと俺達を葬るためだろ? 目撃者を生かすほどお人好しでもあるまい」


「……ほう、セナの言う通り慎重な男だ。嘗て悪評高きアルフレッドとは思えん」


「まともに向き合えば誰にだって過去はやり直せる。少なくとも俺はそう思っている」


「……誰にだって過去はやり直せる」


 俺の言葉に、セナは呟きじっとこちらを見つめてくる。

 何か言いたそうな顔だが、今は気にしている場合じゃない。


「綺麗ごとを――お前らはデバフの魔女と妖精族フェアリーをやれ!」


 ミルズは背後の部下達の指示を送る。

 クソッ、全員で袋叩きにするつもりか!?


「ピコはこの場から離れてガイゼン達を呼べ! ソーリアはデバフ魔法で連中を弱体化させてくれ!」


「わかったわ、アルフ! 気をつけて!」


「うひ。了解、団長くん――スキル《絶対領域アブソリュート》! そして呪法 《身体機能低下フィジカルダウン》!」


 俺の指示でピコは奴らの届かない上空へ飛び立ち撤退し、ソーリアは固有スキルと魔法の合わせ技でその場に居合わせる敵の能力値アビリティを大幅に低下させる。


 あとは俺の《神の加速ゴッドアクセル》で射程距離に入った連中を全員ブッた斬ればいい。

 瞬時にそう作戦を組み立てる。


 が、


 何か胸騒ぎがした。

 俺は体よくミルズという暗殺者アサシンに誘導されているような感覚。


 現にミルズは部下を差し向けておいて、自分は安全圏で突っ立ったままだ。

 それに奴もデバフ魔法で能力値アビリティがダウンしたのに、まるで動じていない。

 寧ろ余裕の微笑を浮かべてやがる。


「アルフ! 上から何か落ちてくるわ、逃げてぇぇぇ!!!」


 逃げた筈のピコが留まり大声で危険を呼びかけてきた。

 俺は「ハッ!」と上空を見上げる。

 いつの間にか、黒く巨大な塊がこちらに向かって飛来していた。


「なんだ、あの巨大な物体――ち、違う! 巨大じゃない!?」


 それは複数の鴉だった。

 まるで上空を覆うと言わんばかりに密集して、こちらへと急降下する形で迫って来る。

 その鋭利な嘴は刺突剣レイピアを彷彿させ、地上にいる俺達の頭上を目掛けていた。


 目測だと数百羽……いや千羽は優に超えるだろうか。


「――《屍の操り人形コープスパペット》。私のスキルは人族だけとは限らない。モンスターの種類に括られてなければ動物の死体も操作可能なのだよ」


 なんだと!? 野郎さっきの屍だけじゃなく、あの千羽以上の鴉の屍も同時に操っていたっていうのか!?


「操る屍が多ければ多いほど、ミルズはターゲットに近づかなければならない! だから、ああしてぼく達の前に姿を現したんです!」


 セナが説明してくる。

 同時に正面からは10名の暗殺者アサシン達が短剣ダガーを握りしめて向かって来る。


 クソッ、上空と地上からの挟み撃ちか!?


 まだ暗殺者アサシン達はソーリアのデバフで弱体化して動きが鈍いのが幸いだが、鴉達の攻撃範囲はやたら広すぎる。ここ一帯を埋め尽くすようだ。

 おまけにここは袋小路、俺達に逃げ場はない!


 だが既に60秒が経過している。

 俺の《神の加速ゴッドアクセル》は使えるぞ。


 射程距離にいる暗殺者アサシン達はそれでなんとかなる。

 頭上の鴉も『聖鎧セイガイ』で防御が可能な筈だ。


 しかし助かるのはあくまで俺一人――。


 セナとソーリアはどうする? 

 あれだけの鴉の数……とても10秒間じゃ全部対処するのは不可能だぞ。


「アルフレッド、貴様のことは調べている。悪評高き以前ならともかく、今の貴様は仲間を見捨てることができない筈だ。セナを含めてな――さぁどうする!?」


 ミルズは勝利を確信し喜悦の声を発している。

 野郎……暗殺者アサシン組織のボスらしく、人の心理を突く姑息なやり方じゃないか。


 だがよぉ。


「――俺は仲間を見捨てない! そして諦めたりもしない!」


 俺は叫び、単身で駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る