第110話 暗殺組織との死闘



「セナ、ソーリア! そこを動くな! 奴らは俺がなんとかする!」


 俺は二人を置いて迫りくる敵陣へと突進した。


 特攻に近い戦法に、10名の暗殺者アサシン達は立ち止まる。

 逆手に握った短剣ダガーを構え、奴らの殺意という視線が俺一人に向けられた。


「だが好都合だ――《蠱惑の瞳アルーリングアイ》起動ッ!」


 俺は右目の眼帯を外し魔眼の力を解放した。


「うっぐ……」


 待ち構えていた暗殺者アサシン全員が、妖しく紅い光輝を放つ魔眼によって心を奪われ蠱惑されていく。


 以前、俺と戦ったオルセア神聖国の最強暗殺者アサシンゼルネスは特殊訓練により、そういった類の抵抗力レジストはカンストし蠱惑などされないと豪語していた。

 こいつらも暗殺者アサシンの端くれだ。本来ならそう容易く蠱惑などされないだろう。


 だが連中はソーリアのデバフ魔法と固有スキルにより身体能力フィジカルだけでなく、全ての抵抗力レジストが一斉に弱体化した状態である。

 したがって暗殺者アサシン達は、こうもあっさり蠱惑され術中に堕ちたわけだ。


「――お前ら全員が盾となり、セナとソーリアを守れ!」


「は、はい……」


「……お任せください」


「愛しき貴方様のために……」


 完全に魅了され惑わされる暗殺者アサシン達。

 原作のアルフレッドも女性ばかりじゃなく、こうした活用をすればまだ衰退は免れたかもしれないのにな……どうでもいい話か。


 そして忠実な下僕となった10名の暗殺者アサシン達は一斉に駆け出した。


「おい、貴様ら! 何をしている! 勝手な行動をするな!」


 組織のボスであるミルズが必死で叫び指示を送るも、連中は聞く耳を持たない。

 暗殺者アサシン達はセナとソーリアに接近すると同時に、その場で高々と跳躍した。


 刹那



 ドドドドドドドドドド――ッ!!!



 同時に屍の鴉群が豪雨の如く上空から降り注ぐ形で強襲してきた。


 だが俺の指示通り暗殺者アサシン達は身を挺した盾となり、セナとソーリアを護っている。

 予想以上に凄まじい威力だった。


 盾となった暗殺者アサシン達は身体を貫かれ絶命していく。

 それでも重なり合う形で二人の盾となり、攻撃の軌道をずらして最後まで護りきった。


「バ、バカな!?」


「この位置、俺も危ない――『聖鎧セイガイ』!」


 俺は聖武器の鎧を展開させ、一瞬で全身装甲機能フルアーマー・モードの姿となる。

 こう見ても異世界最高の強度を誇るオリハルコン製だ。

 屍の嘴如きの攻撃など、かすり傷一つ負うことはない。


 まるで意に介さず、全装甲フルアーマー状態の俺は悠然した足取りで前に進んだ。


「ぐっ! アルフレッド、貴様ぁぁぁ!」


「ミルズ、お前の敗因は俺を以前のアルフレッドと比較しすぎたことだ。俺はお前が言うほど善人ってわけじゃない。人族だろうと悪には容赦しないし、利用できるモノはなんでも利用する。何せ、俺には主人公補正やご都合展開ガバがないからな……」


「補正? ガバ? 貴様、何を言っている!?」


「もうじき30メートル、俺の射程距離だ。そこに踏み込んだ瞬間、お前は倒される。後方に逃げても無駄だぞ。この重装甲状態でも能力値アビリティが強化され、通常よりも数段早く動ける。聖武器は伊達じゃない」


「……へ~え」


 ミルズは動じず寧ろ薄ら笑みを浮かべている。


 こいつ、まだ何か企んでいるのか?

 その時、俺は足元に何かいることに気づく。


 地面を這って素早く動く複数の物体……いや小動物だ。

 それは腐敗が進んだ屍の鼠だった。

 鼠の背中に何か筒のような物を背負わされている。


 ちょこまかと動きながら俺の足元まで近づく、複数の鼠達。



 ボウッ!



 すると突如、背負っていた筒が爆発した。


 さらに複数の鼠が足元からよじ登り、俺の胴体や頭部辺りで爆発を繰り返す。

 思わぬ奇襲に俺はフルェイスの兜越しで顔を顰める。


「ぐっ、足止めか!? しかしこの程度でダメージなど負うものか!」


「違うな、それは貴様への攻撃ではない。全身をよく見ろ」


 ミルズに促され、自分の身体に視野を向けた。

 すると、爆発した箇所から奇妙な形をした小さな魔法陣が幾つも浮き出ている。


「こ、これは!?」


「――《恩寵切断魔法ギフトカット》と《重圧力魔法プレッシャー》だ。貴様の固有スキルと動きを封じる魔法粉を仕込ませていた。携行用だから約60秒ほどの効力だがな」


 つまり俺の《神の加速ゴッドアクセル》と動きを封じたというのか?

 現に足元が地面にめり込み身動きが取れない。両腕は辛うじて動けるが……。


「その隙に逃げるつもりか? だがお前の顔は覚えたし、部下は全員死んだぞ。どちらにせよ、ハンス王子の暗殺は失敗だな」


「ああ、アルフレッド……貴様の言う通りだ。だからこそ、ここで決着をつける!」


 ミルズは背中から隠し武器を取り出した。

 それは一刀の奇妙な形をした片手剣ブロードソードだ。


「聖武器を持つのは何も勇者だけじゃない……オルセアの『ラダの塔』のように、超難関をクリアすることで得られる聖武器も存在する」


「まさか、その剣も……?」


「そうだ、アルフレッド! 貴様の聖剣と鎧と同様の聖武器でありオリハルコン製だ! これが私の切り札だ! 今の貴様でも、その首を掻っ切ることぐらい容易にできるだろう――残り40秒!」


 ミルズは身を屈め突進してくる。

 暗殺者アサシンのボスだけあり身体能力低下フィジカルダウン状態でも相当速い。


 奥の手である魔眼 《蠱惑の瞳アルーリングアイ》で魅了してやりたいが、生憎『聖鎧セイガイ』の全身装甲機能フルアーマー・モードとの同時使用はできない縛りがある。

 どうやら魔法属性と同様、聖武器と呪術系魔道具は相性が悪いようだ。


「だが舐めるな! 動きを封じられても、近接戦闘で剣士セイバーの俺に敵うものか!」


 俺は聖剣グランダーを抜き、迫りくるミルズに向けて斬りかかる。

 だがミルズは素早く回避し、暗殺者アサシンスキルを駆使して俺の背後へと回った。


「一流の剣士相手に暗殺者アサシンが正面で戦うわけがないだろ!? 背後から首を掻っ切る――残り10秒!」


 クソッ、両足が重くて振り返れない!

 直感で聖剣を振るうも、あっさりと躱されてしまう。


「残り3秒――終わりだ、アルフレッド!」


 やばい! と焦った瞬間。


「――《強制奪取スティール》!」


 それはほぼ同時だった。

 俺の後頸部を斬ろうとした瞬間、ミルズの手から片手剣ブロードソードが消失したのだ。


「こ、これは……クソォ、セナか!?」


「アルフ様、今です!」


 セナは遠い距離にいるにもかかわらず、その手にはミルズの片手剣ブロードソードが握られている。


 なるほど……セナの固有スキル《強制奪取スティール》で攻撃する瞬間に奪ってくれたのか。


 そして魔法効果が切れた。


「サンキュ、セナ! 終わりだ、ミルズ――《神の加速ゴッドアクセル》!」


 俺はスキルを発動し、周囲を超スロー状態にした。

 ミルズは焦った面持ちで逃げようとしているも、非常にゆっくりのためどこか間抜けな表情となっている。


「……ふぅ。こいつ、今までの敵の中で一番手こずった相手かもしれない。あのローグよりもな……実力派のゼルネスとは違う、頭脳派の暗殺者アサシンだ。強敵だったぞ」


 俺は感想を漏らしつつ、聖剣グランダーを鞘に収めた。

 拳を強く握りしめ、ミルズの全身をボコ殴りにしてやる。


 殺しはしない。


 再起不能にして、ハンス王子に突き出してやる。

 その方が何か有力な情報が得られるかもしれない。

 まぁ搾取された後、極刑には違いないけどな。


「タイムアップだ」


「ぶほぉぉぉぉぉぉ――!!!?」


 速度が戻り、ミルズは悲鳴を上げ吹き飛ばされて行く。

 何度も地面に転がりながら壁に激突して、その場でぐったりと動かなくなった。

 全身に凹凸痕が見られる。四肢があらぬ方向へと折れ曲がっていた。


「終わった……これでハンス王子の暗殺も阻止できたわけだ」


 俺は『聖鎧セイガイ』の全身装甲機能フルアーマー・モードを解除し素の姿に戻った。

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