第13話 来るべき追放イベント



 逆ラッキースケベ展開があった後。


「アルフさん、相談に乗ってくれてありがとうございます……それと、ご迷惑お掛けしてすみませんでした」


 扉の前でペコリと頭を下げて謝罪する、シャノン。


 あれだけの事があったにもかかわらず、やたらあっさりしている。

 どうやら俺に好意を持ってくれているようだけど天然だけに、まだ自覚がないというか……自分の気持ちに整理がついてないようだ。


 俺なんてまだ余韻が残っており、今でも超ドキドキしているってのに……。

 そのような子に下手な真似などできなるわけもなく……するつもりもないけど。


「シャノン、そんなことないよ。もう気にしないでくれ……寧ろ相談してくれて嬉しかった。また何かあったら遠慮なく言ってくれ」


「はい、それじゃ」


「うん、また明日」


 俺は去って行くシャノンの背中を寂しく見つめる。

 本心じゃ傍にいてほしい。もういっそ恋人として彼女と付き合いたい。


 しかし、もうじき忌々しい「追放イベント」が訪れてしまう。

 あの凄惨な末路を迎えないためにも、全てのフラグをへし折り回避できるまで我慢しなきゃ駄目だ。

 そう自分に言い聞かせてお見送りした。


 だがこの時、俺は気づいていない。

 あの男が廊下の隅に隠れて密かに一部始終を見ていたことに――。


(……シャノンがアルフレッドさんと!? う、嘘だ! 信じられない!! うわぁぁぁぁぁ――っ!!!)


 そう主人公ローグだ。


 フラグをへし折るどころか、既に別のフラグが立っていたことに気づけなかった。

 どうやら俺はこの異世界の神こと原作者、鳥巻八号のご都合展開ガバを甘く見ていたらしい。



◇◆◇



 それからさらに数カ月が経過した


 表立って大きな問題はなかったが、日に日に団員達の様子が可笑しいと奇妙な違和感を覚え始める。


 特にローグ。

 今まで何かと俺に懐いていた奴が距離を置くようになっていた。

 現にシャノンから相談を受けた後、ローグに固有スキル《能力貸与グラント》の無断使用について咎めるも……。


「――すみません、アルフレッドさん。今後は二度と断りもなく強化貸与バフはいたしません。スラ吉もペットとして責任を持って飼育しますので許してください」


「え? そぉ。ならいいけど……」


 やたらと物分かりの良いローグに俺は拍子抜けする。

 スライムのスラ吉に関しては害がなければと黙認した。


 しかもローグの奴、最近では二軍メンバーとやたら仲良くしている光景が度々見かけられているとか。

 特に鷲ゴボウの魔法士ソーサラーダニエルと何やら親密に話し込んでいるらしい。

 それに加え蛮族戦士バーバリアンフォーガスが加わり、女盗賊シーフラリサも入っている。


 ラリサは原作ではそろそろアルフレッドのセフレとなる筈だが、そういった気配はない。

 寧ろ以前はあれだけ言い寄ってきた癖に、どこか俺と距離を置いている気がした。

 別にビッチだからどうでもいいけど。


 唯一変わらないのは幹部メンバーと刀剣術士フェンサーのカナデだけだ。

 あれからもカナデとは共に剣の腕を磨き合う仲で、参加しなくなったローグの代わりに俺の慈善事業に手伝ってくれている。

 またローグの強化貸与バフに頼らなくても腕が立ち、もう少し経験を積めば幹部入りしても良いと思えるくらいだ。


「――アルフ団長、私はこの【英傑の聖剣】に入団して心から良かったと思っております」


「そぉ? カナデがそう言ってくれると自信になるよ」


「ええ、アルフ団長も尊敬できるお方ですし、何より慈善事業の精神が素晴らしいです。私も祖国では貧困であったため、心を打たれております。今後とも私達を正しく導いてくださいませ!」


 推しだけありガチでいい子だ。

 最近シャノンといい感じだけど、つい目移りしてしまいそうになる。

 童貞の性だろうか。


 そんな感じで順風満帆に過ごしている中。

 ついに来るべき追放イベントの日がやってきた。


 ――が、



 その日、俺が冒険者ギルドから戻ってきた時だ。

 不意にラリサに呼ばれ、ある場所へと連れて行かれる。


 そこは団長と幹部達だけが入ることが許される部屋だ。

 何故かテーブル席の中央にローグが座っており、左右にはダニエルとフォーガスが立っている。

 どいつも俺をじっと見つめながらニャついていた。


「これはどういうことだ? 幹部達はどこにいる?」


「シャノン達は僕の部下達・ ・ ・が別の要件で誘導し、少しの間だけ席を外してもらっています。勿論、幹部の方達にも後でちゃんと説明しますよ。それより、アルフレッドさん。まずは貴方からだ――」


 ローグは用紙の束を取りだしテーブルの上に乗せ提出してきた。

 こいつ今、部下達と言ったな? つい最近までぼっちキャラだった癖に……。


 俺はそう思いながら、提出された用紙に目を通す。

 そこには各団員の名前が連なって書かれており、おまけに血判まで押されていた。


「……これは?」


「嘆願書ですよ。普通の団員なら、団長である貴方と幹部の皆さんで取り決められますが、組織のトップが相手となると各団員の意思表示が必要となります。ちなみに幹部の方とカナデは外れてもらっています」


 ダニエルがニヤついたまま説明してくる。

 確かに幹部とカナデだけの名前と血判はない。それ以外の団員24名分だ。


「つまり、アルフレッドさん――貴方に対しての『追放処分の嘆願書』ですよ!」


 そうローグがはっきりと言い切った。


「俺を追放だと? 意味がわからん。何かしたか?」


「……貴方は何もしていない。いや、させてくれなかったじゃないですか? 僕の《能力貸与グラント》で皆を強化貸与バフさせるのを禁じていた!」


「んなもん、お前が当人達に無断でやっていたからだろ? 現に俺は皆の同意があれば別に構わないと付け加えた筈だし、俺から説明してやろうかと提案もした筈だ。それをお前が『言わないでください!』とブチギレたから、その意向を汲んで放置していたんだろうが、違うかコラ!」


「うぐ……それは」


 俺の指摘でローグは言葉を詰まらせる。


 はい論破。

 ガバ世界の主人公如きが、一年前から周到に動いている俺に討論で勝てるわけねーだろ。

 なんならスキルジャンキーのテメェが隠れてスラ吉を飼っていることもブチまけてやろうか?


「しかし団長であれば、ローグさん・ ・の《能力貸与グラント》について説明する義務はあったんじゃないでしょうかね?」


 ダニエルが指摘してくる。まさか、こいつが年下のローグを「さん」付けとはな。


「どういう意味だ?」


「【英傑の聖剣】の向上のため、団員全員に言うべきだったという意味ですよ。確かにローグさんは性癖故に拒んだでしょう。ですがアルフ団長、貴方は組織のトップだ。皆のためと思えば彼を説得するか、あるいは強制権を発動して言うべきじゃなかったんですか?」


「理由はある。確かにローグの《能力貸与グラント》は永続的に能力値アビリティ強化と固有スキルの進化が可能となる万能スキルだ。反面、ローグがスキルを解除した際、あるいはそいつが死んだ場合など、これまで強化貸与バフを受けていた能力値アビリティとスキル経験値ポイントが没収され、弱体化を招いてしまう。俺はそれを懸念して控えるよう指示したんだ」


「けど団長、それならあたしらでローグくんを護って上げればよかったってことじゃない? 身も心もねん」


 ラリサは艶やかな嬌声のような喋り方で主張し、ローグの背中に抱き着き腕を回している。


 なるほど、このビッチめ。

 俺からローグに乗り換えたってことか。

 別にいーけど(笑)。



―――――――――――

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