第14話 追放された悪役



「ラリサじゃありませんがやり方は色々とあったと思います。私のようにローグさんと交渉するなどね……アルフ団長、貴方はそれすら怠ったわけでしょ?」


「ローグと交渉? ダニエル、お前が?」


「ええ。最初に違和感を覚えたのは、古代遺跡のダンジョンからでした。ローグさんの独り言を聞いて、引っ掛かるところがありましたからね。しばらく様子を見て、共にクエストを行う間で確信したんです。そしてローグさんの話を聞き提案したんですよ」


「アルフレッドさん、無能なあんたを【英傑の聖剣】から追放し、この僕が新たな団長となって全団員達を強化貸与バフで支えていくってね。これこそウィンウィンってやつでしょ?」


「元々【英傑の聖剣】は五年前、団長のアンタとローグさんで立ち上げたパーティだ。にもかかわらず、アンタはローグさんの固有スキルを俺達に隠し、付与術士エンチャンターであるこの人を家畜以下の雑用係として扱っていた。そこは間違いじゃねぇよな?」


 フォーガスが指摘してくる。

 しかも意外とまともな主張だ。


 スキル使用云々は別として、俺が転生して入れ替わる前のアルフレッドは約四年間もローグをぞんさいに扱っている。それは事実だ。

 けどそれ……原作者の鳥巻八号に言ってくれない?


「ぐっ……そこは悪かったと思っている。だから、ここ一年で改善したつもりだ」


「つまり四年間は黙っていたどころか、超有能なローグさんを無能者扱いし、そう我らにも印象付けて彼を苛めるよう煽っていた。これってぇ、パワハラを超えた虐待じゃないでしょうか?」


「あ~あ、ローグくん、かわいそーっ。あたし達も知っていたら、ちゃんと優しくしてあげたのにね~ん」


「僕ぅ、アルフレッドさんの虐待が原因で固有スキルを打ち明けるのを拒んでいたかもしれませ~ん。どう責任取ってくれるんですかぁ?」


 ローグも開き直り、自分のスキルジャンキーになった経緯を俺のせいだと言ってくる。

 や、やばいぞ……一年間の素行なら胸を張れる自信あるけど、それ以前はガチクズのアルフレッドがやらかしたことだ。


 過去のことだけはどうしょうもねぇ!

 例えるなら数十年前の不祥事を週刊誌に取り沙汰され、今更炎上してしまう芸能人になった気分だ。

 そのうち嘗て関係を持ったA子からZ子まで証言者が出てくるんじゃね?


「た、確かに俺が原因かも……いや俺のせいだ。悪かったよ、ガチで。そこは本気で反省しているんだ。だから俺はこの一年間、自分の素行を正し慈善事業に尽力した。多くのルミリオ王国の民からも感謝され評価してくれている……そこは認めてもらいたんだ」


「んなのはどうでもいい! 俺らは今のアンタのやり方にも不満があるんだぜ!」


「どういうことだ、フォーガス?」


「はっきり言うぜ、今のアンタには欲がねぇ! 現にせっかく得られる筈だった名誉職である『勇者』の称号を自分から放棄して棒に振っただろ!?」


「そ、それは、俺は王族が苦手で……それに勇者でなくたって【英傑の聖剣】は第一級冒険者が多数所属する白金プラチナクラスのパーティとして認められている。それで充分じゃないか?」


「はい出ました、充分発言! 以前のアルフ団長はそう言いませんでした! 貪欲のまま欲望の限り突き進み、カリスマ性に溢れていましたねぇ!」


 ダニエルは丸眼鏡のレンズをキュピーンと光らせ指摘してくる。


 こいつらが言う通り、原作でも孤児院出身のアルフレッドは貴族になろうと出世を目指していた。

 けど末路を知る俺としては王族と絡んだことで、ろくな目に遭わないと思っているので逃げていた部分は否めない。

 それに原作通りに進んだら、ローグ以外のお前らだって凄惨な末路を迎えているんだぞ!


「あたしぃ、以前のアルフ団長にはガチで惚れてたよぉ。いつもギラギラした感じとかね……けど今の団長はなんてゆーか、保守的でスローライフを満喫する隠居したお爺ちゃんみたいなのよん」


 悪かったな、ラリサ。隠居したお爺ちゃんみたいでよぉ。

 好きに言ってくれ。そもそも俺はお前のようなビッチに興味がないんだ。

 前世でも、似たようなキャバ嬢の客引きに引っ掛かり警察沙汰になった記憶しかない。


「その結果が、この追放処分の嘆願書です。別に強制的に書かせていませんよ。皆、これまでの貴方の素行とローグさんの固有スキルの優位性を考慮して同意してくれました」


「しかし、副団長のガイゼンやパール、シャノンの名前はないじゃないか? それにカナデだって……満場一致ってわけじゃないだろ!」


「幹部達は外していると言ったじゃないですか? あの人達はどういうわけか、貴方には信頼を寄せていますからね。カナデも腕は立ちますが我らの中では浮いている存在です。まっ、入団してまだ一年ちょっとですしノーカンでいいでしょ?」


 くっ、ダニメルめ!

 俺の味方になってくれそうなメンバーにはあえて話を通さずに、その嘆願書を作成しやがったな!


「……シャノンだって最初の頃は、アルフレッドさんのこと嫌っていたんだ。なのに今じゃ、ことある事に『アルフさんは優しくて凄い方です』ってよぉ……あんたが僕の恋人を寝取ったからだぁぁぁぁぁぁ!!!」


「はぁ!? ローグ、ちょっと待て! どうして俺がシャノンを寝取ったことになってんだ!? 身に覚えがないんですけど!?」


「とぼけるなよ! 僕は見たんだ! 以前、寝巻姿のシャノンがあんたの部屋から出くるのをこの目でなぁぁぁ!!!」


 げっ、あの現場を見られていたのか!?

 よりによってローグに!?

 それで俺から距離を置くようになり、ダニエル達と結託したのか!


「ち、違う! 聞いてくれ! シャノンは相談に来ただけなんだ……ローグ、お前のことを心配して!」


「ローグくんが可笑しくなったのだって、そもそも団長のせいでしょ? 案外、それが狙いで慈善事業し始めて、シャノンちゃんの気を引いて初めてを奪ったかもね」


「んなわけあるか、ラリサ! ふざけんなよ、このビッチが!」


「勿論、僕からシャノンにも事情を聞きましたよ。そしたら彼女、なんて言ったと思います? 『わたし転びそうになり、ついアルフさんに抱き着いてベッドに押し倒してしまいましたが、神に誓ってやましいことはしてません』って……いや、お前ら抱き合っているじゃん! ベッドでよぉ!!!」


 シャ、シャノンてば!

 何、堂々とぶっちゃけてるの! いくらやましくなくても少しは誤魔化せよ!

 どんだけ正直者の聖女様なんだ!?

 社畜時代の新入社員にも「言えばいいや」的な奴はいたけどさぁ!


「誤解だ! あの時はラッキースケベが働いただけなんだ! 現に何もないって彼女も言っているだろ? あれは事故なんだよ!」


「普通の団員なら信じられるけどよぉ。あんたはアフルレッドだ。たった一年、素行を良くしたからって、今までの過去が清算できたってわけでもねーだろ? 今更信じられねぇなぁ」


「ぐっ、そ、それはそうだが……」


 フォーガスの野郎、ずっと内心じゃアルフレッドのことを嫌っていただけに、ここぞとばかりに言ってきやがる。


「もう弁明の余地もありませんね、アルフ団長……いえ、アルフレッド! ここまで述べた通り、今の貴方は【英傑の聖剣】のリーダーに相応しくありません! これからはローグさんを中心に我々が盛り上げていきます! ささ、新団長のローグさんから、お決まりの台詞を……」


 ダニエルに促され、ローグは咳払いをする。


「――アルフレッド! お前はクビだ! 荷物をまとめてとっとと出て行けぇぇぇ!!!」


 二軍共にそそのかされ、すっかりその気になったのか。

 イキリながら、バーンとか言って俺に指を差してくるローグ。


 こいつらムカつくわ~。


 もう、いい……。

 ほとんどの団員が認めているんだ。

 俺が足掻こうと追放は決定されている……言わばデキレース。


「そうか……わかったよ――受け入れてやる」


 こうして、あっけなく幕を引いた。



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