第15話 開き直る悪役



「ローグ、出て行く前に一つ聞いていいか?」


「なんですか、負け犬のアルフレッドさん?」


 は? テメェ何勝った気でいやがるんだ、コラァ。

 ブン殴ってやりたいが、ここはぐっと我慢する。


「今の幹部達は……シャノンはどうなる?」


「皆さん有能な冒険者には変わりませんので追放しませんよ……ただし降格となります。と言っても、ダニエルさん達と立場が入れ替わるだけです。シャノンに関しては、彼女の意向次第で今のままのポジでもいいかなって思っています」


「随分、寛大なんだな……少し安心したわ」


 皆が安泰ならそれでいい。俺と同じ轍を踏む必要はないからな。

 仲間達のざまぁルートを回避できただけでも良しとするか。


「まぁ、シャノンは貴方に奪われて処女じゃなくなりましたが……僕も童貞を卒業したのでお相子でしょう」


 奪ってねーよ。しつこい野郎だ。

 ん? 童貞卒業だと?


 すると、ラリサが俺に見せつけるように、ローグと濃厚な口づけを交わし始める。


「――んっ。そういうことよ、アルフレッドさん。あたしが彼の筆おろしに一役買ってあげたってわけ」


 あっそ。どうせもいいわ。

 けど35歳童貞の記憶を持つ俺より、早い卒業とかってなんか悔しい感じだ。


「んじゃな。せいぜい頑張れよ――」


 俺は強気な態度で部屋から出た。

 自分の部屋に行き、手早く荷物を纏める。


「糞共が、こっちから願い下げだっての!」


 どうせ俺なんて、アルフレッドほどのカリスマ性はない。

 んなの、わかっているさ。


 前世だって社畜サラリーマンの万年平社員だったんだ。

 荷が重いのは当然だろ?

 俺なりに頑張って来たつもりだったが、ほとんどの団員には伝わらなかったようだ。

 所詮は鳥巻八号の原作だけに、まともな奴ほど馬鹿を見る異世界なのだろう。


 ――けどよぉ。


「実はそれも想定済みだっての」


 俺はベッドしたに隠した袋を取り出した。

 袋の中には大量の金貨が入っている。

 以前から貯めていた貯蓄金だ。

 団長として貰った報酬金はほとんど使わず貯蓄に回していた。

 これだけあれば当分困ることはない。


 装備も没収されてないのでソロで冒険者しながら、自分のペースで活動できるだろう。

 どうせローグ追放を回避したら、悪役キャラの俺に何かが降りかかる予感はしていた。


 だって鳥巻の原作だもん。

 主人公のご都合展開ガバ上、テンプレとして想定すべきなのは当然だ。


「あとは、こいつをどうするかだけど……」


 俺は棚の引き出しから、掌サイズの魔道具を取り出した。


 ――呪術具、《蠱惑の瞳アルーリングアイ》だ。


「このまま置いていくわけにはいかない……今のローグ達なら悪用し兼ねないからな」


 そう呟き、ポケットの中に入れた。


 本当ならこんな超因縁深い呪術具、壊して抹消することもできる。

 しかし使い方次第では万能な武器になるので、万一の切り札として取っておくことにした。



 こうして追放された俺は【英傑の聖剣】の屋敷を出て行く。

 ムカつく気持ちには変わりない。

 けど不思議に心が軽く清々しいほど安堵している。


 何故なら、


「――原作の凄惨な末路に比べたら、これはこれで幸せかもな」


 そう思うようになっていたからだ。


 今の俺はこうして五体満足で装備や資金もそこそこある。

 地味に生きていけば、なんとかやって行けるからな。


 だがやはり――。


「……追放されたことで《神の加速ゴットアクセル》が使えなくなっている。おまけに能力値アビリティも大幅に低下したようだ」


 感覚だがそう実感する。


 ローグの固有スキル《能力貸与グラント》が解除され、これまで強化貸与バフを受けた能力値アビリティとスキル経験値ポイントが没収されたようだ。

 今頃、ローグの経験値として強化されているに違いない。


 けどそれも原作内容から想定済み。

 だと思って、ずっとカナデと共に剣の鍛錬だけは必死で取り組んでいた。

 クエストもローグやスキルに頼らず頑張ったし、努力した分の経験値は残されている。

 ちなみに、この異世界にもステータスやウィンドウ表示などの概念はあるようだけど、開いたり覗けるのは主人公のローグのみという酷いガバ設定だ。


「……今の俺の実力だと第四級冒険者、いや下手したらそれ以下か? おまけにスキルも使えない無能力者扱い……前途多難には変わりない」


 けど逆に言えば、これ以上は落ちることはないとも言える。

 なんだか肩の荷が下りたからか、前よりポジティブになったかもしれない。



◇◆◇



 冒険者ギルドに訪れた。

 すると既に追放された事を知っているのか、周囲の冒険者から妙な視線を浴びせられる。


 所謂、ざまぁ視線ってやつだ。


 他の冒険者の中にはアルフレッドを疎ましく思っている奴も多いからな。

 まっ、どうでもいい。

 別に何かしてこなきゃ、どうぞ好きに見て笑ってくれ。


「……アルフレッドくん、大丈夫ぅ?」


 唯一、受付嬢だけは優しくしてくれる。


 彼女の名はルシア。

 ブラウン色の髪を丁寧に後ろに編み込んだ年上風の綺麗なお姉さん。

 スタイルが良く制服越しからでも十分に認識できるほど。

 特に胸部分のブラウスが限界なほどパツパツだ。


 以前はアルフレッドから顔を会わす度に口説かれていたようで、思いっきり軽蔑され嫌悪される間柄だった。

 しかし彼女が生まれ育った村がモンスターの襲撃で被災地と化し、今の俺が慈善事業の復興支援で村の再建に手を貸したことで見直してくれて仲良くなったのだ。


 ほら見ろ、俺の一年間の活動だって無駄じゃないぞ。


「ああ大丈夫だよ。寧ろ身軽になったと言うか……それよりルシア、このお金を預かってもらっていいかい?」


 俺は資金である金貨の入った袋を渡す。

 冒険者ギルドは銀行みたいな役割もあり、お金や貴重品類を預けることができる。

 特に金銭類は領収書さえあれば、どこのギルドでも引き下ろすことが可能なシステムだ。

 作者の知能デバフでガバばかりの異世界だが、俺が認める数少ない設定でもあった。


「これだけの金貨……また新しいパーティを立ち上げるの?」


「まさか、当面はソロだよ。それと、もう第一級冒険者じゃないから、ギルドカードの書き換えも頼むよ」


「え? はい……あら、第四級レベルまで下がっているわ。解雇されても、等級まで下がることはないのに……」


 やはりそうか……ギルドカードの仕組みはガバ設定でようわからんけど、個人の実績と能力に合わせた等級となっており、おおよそ第一級から第七級までの等級ランクが付けられ序列化されているらしい。

 等級が高いほど難解で高報酬のクエストを請け負うことができた。


 やはり第四級まで低下していたのか。冒険者として真ん中くらいだな。

 けど思いの外、レベルダウンしていない。

 これもカナデが鍛錬に付き合ってくれたからだろう。


 あのまま何もせずローグの強化貸与バフばかりに頼っていたら、きっと第六級くらいまで低下していんじゃないだろうか。

 そういう意味でも、カナデにはガチ感謝だ。


 一通りの手続きの更新を終え、冒険者ギルドを出ようとする。


 とりあえず、このまま冒険者が続けられそうな目途は立った。

 別に冒険者であることに固執するつもりはないけど、アルフレッドのキャラクターじゃ他の職に就けるとは思えない。


 一年間、この身体で活動したが、やはりこいつは生粋の冒険者なんだ。


 でも早々にこの国から去った方がいい。

 俺が悪役である以上、ローグ達と関わるときっとろくな目に遭わなそうだ。

 幸い資金もあることだし、別の国で心機一転に頑張った方がいいだろう。


 などと考えていた時だ。


「「――アルフ!」」


 ふと、どこかの男女に呼ばれた。



―――――――――――

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