第16話 本気になった悪役



 声が聞こえた方向に振り返ると、仲間だったガイゼンとパールが手を振って近づいてきた。


「お前ら……どうした?」


「どうしたじゃねーよ! お前さんがいきなり追放されたって言うからよぉ! しかも突然、ローグの野郎が新団長とか言われてよぉ……もうわけわかんねーよ!」


「ダニエル達から説明を受けたろ? そういうことだ……お前ら幹部とカナデ以外の団員による一致で俺は【英傑の聖剣】の団長として相応しくないと見なされ、この有様だ……お前らも降格みたいだけど、それなりの地位は保証されている。だから無理して俺に関わる必要なんてないんだぞ」


「そんなの嫌ッ! パル、アルフと一緒がいい!」


 パールは大声で叫んだ。

 いつも大人しく魔法以外のことに関心がなく、自己主張の少ない子とは思えない。

 原作でも見たことがない、初めて目の当たりにする本気の態度だ。


「パール……気持ちは嬉しいよ。けど俺と一緒にいると、裏切り者としてローグから追放されてしまうぞ。奴の固有スキル《能力貸与グラント》を解除されたら、お前達の能力値アビリティは大幅に低下し、自分らのスキルさえ使えなくなる。俺みたいにな……」


 そう説明し、自分のギルドカードを見せた。

 無論、ただの登録書なので詳しいステータスとか記載されてないけど、冒険者としての等級が記されている。


 第一級から第四級に降格。

 これだけも見せれば、ローグを裏切るということはどんな末路を迎えるのか理解できる筈だ。


「――知ってるぜ。だがんなもんどうだっていいんだ!」


「なんだって?」


 ガイゼンからの思わす言葉に、俺は聞き返してしまう。


「あんなローグによぉ、一生尻尾振って媚びながら冒険者するくらいなら……アルフ、お前と楽しく冒険者していた方が余程マシだと思ったんだぜ!」


「……ガイゼン、お前」


 実は気のいい奴なのは知っていたけど、これほどまでとは思わなかった。

 原作じゃ共にざまぁされる運命にあるってだけで、どうせ信頼関係なんて無い奴だと決めつけていたからな。


「パルも同じ! 《無限魔力インフィニティ》が使えなくたって魔法士ソーサラーには変わりないもん! パルはずっとアルフの傍にいたい!」


 パールまで……ガチ嬉しいんだけど。


 この子は原作でもアルフレッドを兄のように心から慕っていた。

 にもかかわらず、このクズ野郎は落ちぶれた後、彼女を蔑ろにして金目当てで人買いに売りやがったんだ。

 そのことを思えば申し訳なく、自分の顔をブン殴ってやりたくなる……痛いからやらないけど。


「……本当にいいのか? お前達、古参メンバーは特にローグの恩恵を受けまくっている。レベルダウンは半端ないぞ」


「実はよぉ、オレらとっくの前に【英傑の聖剣】を辞めているんだよ……追放云々以前にな」


「なんだって!?」


「ガイゼンの言う通り。アルフを追放するなら、パル達も辞めてやるって啖呵切って抜けちゃった」


 マジかよ……てことは二人とも既に《能力貸与グラント》を解除された状態なのか。

 そこまでして俺を慕って……。

 やばい……嬉しすぎて涙が溢れてきた。


「アルフお前さん、泣いているのか?」


「う、うるせぇ! んなわけあるか! これは夕陽が目に沁みっただけだ!」


「ここギルド内だよ?」


「だから違うっつーの! ああもうわかった! んじゃ、みんなで楽しくやっか!」


「ああ!」


「うん!」


 こうして抜け出した元幹部の二人と再びパーティ組むことになった。


 けどやっぱり能力値アビリティが低下しているようだ。

 更新したギルドカードの等級が下がっている。

 ガイゼンは第五級まで低下し、パールは第四級に下がっていた。


「……パル、《無限魔力インフィニティ》は使えなくなったけど、魔法なら中級程度までならなんとか使えるよ」


 元々備わっていた魔力もそう高くなかったとか。

 まぁ、11歳という年齢を考えればそれでも凄く優秀な子だ。


「十分じゃね? ガイゼンは《鋼鉄壁アイアン》が使えるのか?」


「まぁな……けど能力値アビリティが激減したせいで使用中は身動きが取れなくなる。置物と化しちまうポンコツスキル状態だ」


「けど用途はあるだろ? 俺も《神の加速ゴッドアクセル》が使えなくなったからな……まだいい方だと思うぞ」


「でもパル達、アルフのおかげでこの程度で済んだと感謝しているよ」


「なんで?」


「お前さん、オレ達に能力値アビリティが低下してもいいように色々と助言してくれたろ? みんな言われた通り、そこそこ真面目にやってたんだぜ」


「まるで先々を見据えた感じ。アルフ、天才」


「え? そ、そう……まぁ俺もローグに不信感を抱き始めていたからな」


 本当は原作を読んだ上でのざまぁ回避で忠告しただけなんだけど……いくら信頼できる仲間とはいえ、そこまで正直に言えないか。


 けど二人とも思いの外、真面目に取り込んでくれていたようだ。

 感心感心。

 まぁ、これでなんとかやって行けそうな目途が立ちそうだ。


 それはそうと。


「――シャノンは、それとカナデはどうしている?」


「彼女達なら、まだ【英傑の聖剣】にいるぜ」


「そうか……ならいい」


「けど二人とも、アルフのために頑張ってくれている」


「パール、それはどういう意味だ?」


 彼女の話によると、シャノンとカナデは俺の追放に納得せず取り消させるため、あえて残留してくれているそうだ。

 シャノンは血迷ったローグの目を覚まさせるため、カナデは他の団員達を説得するために動いてくれているらしい。


「……そうか、二人とも俺なんかのために」


「アルフ、シャノンとカナデもお前さんのためだから頑張っているんだぜ」


「どういう意味だ?」


「この一年でアルフ、凄く変わった。パルはどんなアルフでも好きだけど、今のアルフは一番大好き」


「オレもだ。お前さんといると誇らしい気持ちになる……田舎の嫁や娘にも胸を張って自慢できるんだ。以前じゃ絶対に知られたくねぇと思って隠していたのによぉ。この鎧だってそういう意味もあったんだぜ」


 そうだったのか?

 確かに以前のアルフレッドは決して素行が良い男じゃなかった。

 イキリすぎて敵ばかり作っていたようだしな。

 たった一年とはいえ、ここまで俺を信頼してくれるなんて……。


 ――そうだよな。


 ガイゼンとパールに、ざまぁなんてさせない!

 シャノンやカナデもそうだ!

 大切な仲間に主人公ローグご都合ガバ展開なんて与えさせねぇぞ!


 俺は決めた!

 この異世界で、みんなで楽しく生きてやる!


「……見てろよ、ローグに鳥巻八号――お前らのガバを俺が奪い取ってやる!」


「アルフ、ローグの野郎はまだわかるとして、トリマキってなんだ? ガバってどういう意味だ?」


「ある意味、この世の神と呼べる存在だ……これから俺はそいつに反旗を翻そうと思っている。このまま奴らの掌に乗せられ踊らされてたまるか! 俺は運命を変えるぞ! そのために利用できるモノはなんでも利用してやる! ただし良識の範囲でな――だから二人とも俺について来てくれ!」


「お、おう(何言っているかわかんねぇ……まぁいっか)」


「うん(よくわからないけど、アルフが言うならパル、どこまでもついて行くよ)」


 よぉし! なんか気合入ってきたぁぁぁ!


 ローグ、お前らが俺から【英傑の聖剣】を奪ったように、俺もお前にとって大切なモノを奪ってやるからな!


 決意した俺は二人を連れてある場所へと向かう。


 そう、原作のメインヒロインがいる場所だ――。



―――――――――――

お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る