第99話 魔剣グロイス



 魔剣グロイス。


 その剣を鞘から引き抜けば、僕に暗黒将軍の地位が与えられると言う。

 いきなりの大出世チャンスだけど、抜けなかったら精神が破壊されてしまう呪いがあるらしい。


『我が知る限り、魔剣グロイスも聖剣と同様に自らの意志で所有者を選ぶそうだ。波長が合えば抜けるかもしれん。そうでない者は廃人と化すだろう』


 同様じゃねーし。明らかに聖剣よりリスクを伴い質が悪いじゃないか。

 結局、超危険なデスゲームじゃん。


「どうするの、ローグ団長? やりますか、やりませんか?」


 ネイダまで妙なノリで煽ってくる。

 僕は考えに考えまくるが、そもそも深く考えるのが苦手なタイプだ。


「やりま――……っす!」


 っというわけでチャレンジすることになった。

 使用人から魔剣を受け取り、両手で柄と鞘を掴む。


 やばっ、超緊張してきた。


 僕は緊張する場面だと笑いが込み上げてしまうタイプでもあるのだ。

 孤児院の頃、爺さん院長が亡くなり葬儀に参加した時もつい吹き出してしまい、シャノンに「不謹慎ですよ!」と怒られたっけ。


「……プッ、ワハハハハハ――あっ! スッポンって抜けた!」


「「「「なんだとぉぉぉぉ!!!?」」」」


 一斉に驚愕したのは四天王だ。

 笑った勢いであっさり抜けるとは……そういや、アルフレッドはくしゃみして聖剣を抜いてたわ。


 その瞬間、刃から『負の魔力』が漲り放出される。

 形状も片手剣から、より凶悪そうなデザインとなった巨大刃の大剣に変化した。


『うむ。見事だ、ローグよ! 魔剣グロイスは貴様を所有者として認めたぞ!』


「やったわね、団長ッ! きっと厚かましく信念のない空っぽな性格が魔剣に認められたのよ!」


 魔王とネイダが称賛してくれる。

 けどネイダさん、厚かましく信念のない空っぽの性格って……キミがダニエルだった頃から、僕をどういう目で見ていたのか良くわかったよ。


「アルフレッドの聖剣と同様、僕の意志で形状が変えられるようだ。しかも鞘も同じ邪武器の材質か」


 片手剣を収めていた鞘も変化し、大剣サイズの大きさとなっている。

 活用次第では、これも何かしらの武器や防具になりそうだ。


 しかも斬った者の精神を破壊する《精神崩壊マインドロスト》も備わっている。

 おそらく聖剣なんかよりも余程強力な武器だ。


 気が付くと、ネイダを始めとする四天王や使用人達が僕の前で跪き始める。


「どういうつもりだ?」


『当然だ、ローグよ。魔剣グロイスの所有者となった時点で、貴様は暗黒将軍として我の右腕となったのだ』


 え? ってことは魔王様の次に偉くなっちゃったワケ?

 この僕が……ガチで?


「やれやれ、超よゆーで出世しちゃったんですけど。本当は目立ちたくなかったのにな……参ったぞ、やれやれ」


((((こ、こいつ……あれだけイキリ散らかして目立ちたくなかっただと? こんなのがNO.2で大丈夫か、我ら魔王軍は?))))


 四天王の懸念を他所に。

 こうして僕は、暗黒将軍ローグとして異例のスピード出世を果たしたのであった。


 ククク、急に運が爆上げじゃないか……。


 何せ魔王軍の大半が僕の意のままに操れるのだからな。

 あんなしょぼい【英傑の聖剣】で団長しているより余程マシだわ。


 闇堕ちして良かった――テレッテッテッテテェ♪ (レベルアップ音)



◇◆◇



 それから僕は暗黒将軍として、魔王様と今後について何度か打ち合わせを行った。


 けど魔王様は一向に姿を見せてくれない。いつもカーテンレース越しでのやり取りだ。

 NO.2だしチラ見くらいいいだろうと思い、カーテンに触ろうとすると『絶対に開けるなよ!』とキツく注意を受けた。

 おまけに名前も教えてくれず、『魔王と呼べ』と言う。


 疑問に思った僕は、直属の部下であるネイダに訊いてみたが。


「魔王様はね。その時代の勇者達に斃されてから、数百年の周期で新たな魔王様が誕生するのよ。今回の魔王様は特に秘密主義でワタシですら姿を見たことがないの……けど強さは本物よ。ローグ団長、いえ将軍・ ・の首枷を消滅させたのが何よりの証拠ね」


 と説明を受けた。


 どういう経緯で魔王が誕生するか謎だけど、僕は深く考えると知恵熱を起こしてしまうので、「そうなんだぁ。まぁカタルシスを味わえればいっかぁ~」と軽く受け止めることにする。


『――ローグよ。早速、貴様のスキル《能力貸与グラント》で魔城マシラゴア中に待機する全ての魔族兵を強化貸与バフで強化せよ。一週間の猶予を与えよう』


「ハッ。お任せください、魔王様」


 既に魔王の忠実な犬と化した僕。

 でもまったく気にしない。寧ろ首輪をつけてくれって感じ。


 威張ってばっかの無能でアホな王族なんかより、魔王様の方が実力もあるし慧眼も確かだ。

 何せ僕の才能を見極め暗黒将軍の地位にまでしてくれたからな。

 ぶっちゃけ、魔王様のご機嫌を伺っておけば後は割と好き勝手できるしね。


 現に使用人の子とは何人か男女の関係を持った。

 魔族娘、めちゃ最高だぞ……いやガチで。


 その勢いで調子づいた僕は、ネイダにワンチャン頼んでみる。


「ネイダ。キミ、サキュバスだろ? 一発ヤらせてくれ」


「駄目よ、将軍(誘い方よ……)。ワタシは魔王様のモノだから、命令なくしては貴方と関係を持つことはできないわ、フフフッ」


 半笑いで呆れられ拒否される。


「え? けどキミだって魔王様の姿を見たことがないんだろ?」


「そういう意味じゃないわ。魔王様直属の監視役である以上、私情を持たず全ての魔族に対して平等でなければならない。ローグ将軍、貴方に対してもよ」


 つまり僕も監視対象ってわけか。

 なら魔王様に認めてもらうしかない……まずは功績を上げること。


「わかったよ。今は諦めよう」


「ありがと。ローグ将軍って下半身は猿以下だけど、団長だった時も無理強いだけは絶対になかったわね?」


「まぁね、アルフレッドもそうだったし――ハッ!」


 僕は反射的に口元を押える。


 何故、ここで奴の名が出てくるんだ?

 心の奥で、僕はアルフレッドを意識しているってのか?


 そういや立場や場面こそ違うけど……どこかアルフレッドと似たようなことを今の僕はしているのかもしれない。

 だから僕は奴を超えてやろうと……ずっと兄のように慕い憧れていた、アルフレッドを。


 ズキッ!


 突如、激しい頭痛に見舞われてしまう。


「あ、頭が痛い……なんだ?」


「背中に携えている『魔剣グロイス』の反作用よ。もうローグ将軍は向こう側には戻れないわ。まだ羨望や憎悪は有りだけど、情を抱くのはNGだから注意してね」


「……じょ、情だと? この僕が? アルフレッドなんぞに? んなワケねーだろ! ふざけんなっての!」


 すると、スッと痛みが消失する。

 なるほど魔剣を手にするとはそういうことか……そういう意味では良い勉強になった。


「流石、ローグ将軍ね。知能デバフに侵された浅慮のおかげで状況の呑み込みだけは異常に早いわ……『ご主人様、しゅごぉぉぉいですぅ!』と持ち上げてあげる」


「……ネイダ。キミは時折、やたらと僕に毒を吐くよね? ダニエルの時よりも性格悪いんじゃない? まぁいいや、とりあえず魔王様の指示通りに動くとしよう」


「魔族兵の強化ね? 猶予は一週間だっけ……マシゴア中だと、およそ五千人規模になるけど大丈夫なの?」


「まぁね、考えはあるさ。だがその前に、僕自身の強化だ――」


 今の僕は以前と異なり最弱状態だ。

 せいぜい一日一回の5名程度しか強化貸与バフを与えることしかできない。


 なので僕自身のレベルとスキル経験値ポイントを上げていかないと、強化貸与バフできる人数や回数が増えないという制限があった。

 それを一週間ぽっちでやれというのだから、魔王様のパワハラと無茶ぶりは半端ない。


 けど必ず成し遂げてやんよ。

 アルフレッド、お前に復讐するためにもな!



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