第100話 悪役と団員の有名税



 この俺アルフレッドが勇者なってから、魔王軍の目立った動きは見られていない。


 オルセア神聖国でも、ネイダの消息は不明のようだ。

 せめて魔王城こと移動要塞島である『魔城マシラゴア』の場所さえわかれば、直接乗り込み先手の打ちようがあるのだが……色々あたっているがまるでわかっていない。


 はっきり言えば、ずっと待機状態で暇な状況だった。

 だからと言って遊んでいるわけにもいかない。



「トドメだ――《神の加速ゴットアクセル》!」


 そこは新たに出現した未開拓のダンジョン内。


 俺は固有スキルを発動し、ボス格モンスターである「バーニングオーガ」を音速領域の射程内へと誘った。


 バーニングオーガとは巨漢の鬼に似た姿を持ち、全身に刻まれた刺青タトゥーのような模様から灼熱の炎を宿した変異体の上級モンスターだ。

 手には巨大で棘付きの戦棍メイスが握られており、隆々とした腕で軽々と掲げられ今にも俺に向けて振り下ろす体制となっていた。


「その攻撃が俺に当たることは永久にない」


 冷静に呟き、聖剣グランダーで縦横無尽に斬りつける。

 タイムアップ後、バーニングオーガの肉体は細切れとなり四散した。


「終わったな、アルフ。今じゃ上位モンスター相手でも、すっかり楽勝じゃないか?」


 戦いを終えた、ガイゼン達が近づいてくる。


 彼らも今では第一級冒険者となり聖武器もてにしているので、最早それ以上の存在だ。

 特にガイゼン、パール、シャノンは、強化付与バフせずとも全盛期のように固有スキルが使用できるようになった。

 いや、きっと【英傑の聖剣】に在籍していた頃よりも強くなっていると思う。


「まぁな。だが油断しちゃ駄目だ……常に俺達は高みを目指さなければならない。来るべき魔王戦に備えてってやつだ」


 一度、挫折を味わっているのもあり、俺に某ラノベ主人公のようなお気楽思考はない。


 何しろご都合展開ガバなしで、魔王と戦わなければならない身だ。

 原作を知る身としても、よりレベルアップが必要だと思うのは必然だろう。


「聡明なアルフさんの仰る通りです。魔王軍は神出鬼没ですからね。油断している時こそ、用心して構えるべきでしょう」


「パルはアルフを信じているよ。こうして強くなれたのも、全てアルフのおかげだもん」


 シャノンとパールが、俺に同調し持ち上げてくれる。


「ありがと、二人とも。もう少し頑張ったら息抜きもしよう」


 俺は笑みを浮かべつつ、他の団員達の様子を見た。


 シズクは固有スキルに覚醒してから調子が良く、カナデも刀剣術士フェンサーとして技のレパートリーが多く活躍の場が増えている。


 マカ、ロカ、ミカも《三位一体トリニティ》だけじゃなく、他の強化付与バフ魔法で仲間をサポートするなど腕を上げていた。


 ラウルも新しいモンスターをティムしたらしく育成に励み、ソーリアは陰に隠れて不気味に微笑むも「デバフの魔女」らしく自分の役割はしっかりとこなしている。


 スラ吉も最近では、ラウルにも懐くようになり扱いやすくなっていた。


 対して唯一変わらないのは、ピコだ。

 やはり俺にしか《幸運フォーチュン》スキルを与えようとしない。

 原作じゃ主人公ローグ以外でも、仲良くなれば易々とスキルを施していた筈だ。


「アタシは彼氏に一途なだけよ。それの何がいけないの?」


 指摘する俺に、はっきりと言い切る妖精族フェアリー

 嬉しい反面、公私混同はほどほどにしてくれと言ってやりたい。


 ダンジョンを制覇した俺達は、地上に出てギルドへと向かった。



◇◆◇



「そういやアルフ、また入団希望者が殺到しているんだって?」


 道中、ガイゼンの問いに俺は「ああ」と頷く。


「受付嬢のルシアに、良さげな支援役サポーターはいないか問い合わせたのが広まったらしくてな……団員が少ない割には白金プラチナクラスになったこともあってか、俺が大々的に募集し始めていると思われたようだ」


 なので、まったく需要のない職種の連中ばかりが応募に来てしまう。

 肝心の支援役サポーターはさっぱりだ。


「おまけに【集結の絆】は勇者パーティでもありますからね。名誉職であり在籍するだけでも冒険者として箔がつくのもあるのでしょう」


「うむ。私が勇者パーティに属していることで、祖国でも大出世扱いのようでお祭り騒ぎだと、父上と母上も手紙に書かれていたな」


 ラウルとカナデが話てくる。

 何やら俺だけじゃなく、仲間達も何かしら影響が及んでいる様子だ。


「ですけど、ご主人様……私最近、知らない友達が増えて困っています」


「シズク、本当か?」


 俺の問いに、シズクはこくりと頷く。


「マカ達もだよ。よく知らない人から声掛けられるようになったね」


吟遊詩人バードのお客さんとは異なり慣れ慣れしい人が多いです」


「何かと理由をつけて近づこうとしてくるけど、明らかに怪しいんだぁ」


 マカ、ロカ、ミカも同じような目に遭っていると言う。


「実はオレもだぜ。女房の話じゃ会ったことのない謎の親戚が出没しているってよぉ」


「ガイゼンまで……そういう連中は胡散臭いから気をつけろよ」


「団長くん、そんなのまだいい方だよ。ボクなんて先日生き別れたと自称する父親が現れたからね。他国の部族出身だってのに……うひひひ」


 ソーリアもか? しかも笑うところじゃないぞ。


「酷ぇな……有名人になると色んな輩か増えるのはつきものだ。中には悪意を持って近づこうとする連中もいる。何かあったら真っ先に団長である俺に相談してくれ」


 俺からの指示に団員全員が「了解」と首肯してくれる。


 しかし、まるで人気芸能人や宝くじに当たったばりの影響力だな。

 どうやら魔王軍だけじゃなく、こうした詐欺っぽい連中にも気をつけた方がよさそうだ。


 特に俺な。


 何せ元とはいえ、女好きの悪役アルフレッドとして知られている。

 ハニートラップとか平気でありそうだ。



◇◆◇



「アルフレッドくん、いらっしゃい。また入団の応募が沢山来てたわよ」


 ギルドに到着した途端、受け付け場でそう言われてしまう。

 俺はうんざりして溜息を吐いた。


「マジかよ……ルシア、支援役サポーター以外の応募は全部断ってくれ」


「そうしているわ。あと、キミが話してくれた怪しげな島についてだけど、一応大陸中のギルドに問い合わせたけど、該当するような島はないみたいね」


「そうか……ルミリオの巡視船でも海域には見当たらないと言うし……わかったよ、ありがとう」


 ギルドでも『魔城マシラゴア』について、これといった有力な情報がないようだ。

 原作の知識を活かし、思い当たる海域を中心に調べているが一向に見つからない。


(まさか俺が原作のムーブを変えたことで、何かがズレてしまったのか?)


 ローグが死んだと報告を受けてから、ずっとその事が頭に過っている。

 あるいは、夢で鳥巻八号が話した「異世界の乗っ取りを目論む、虚無の神ミヅキナイト側の物語の破綻者デウス・エクス・マキナ」がシナリオを変えて動いているのか……。


 だとしたら、やはり魔王側に潜伏している可能性がある。

 などと考えていると、


「あのぅ、【集結の絆】の勇者様が支援役サポーターを募集していると聞いたんですけど――」


 ふと俺達の脇で、一人の冒険者がカウンター窓口に向けて別の受付嬢に問い合わせてきた。

 橙色の髪にキャスケット帽を深々と被っているが、幼さを残した可愛らしい少年だ。

 小柄で華奢な身体つきの割には、とても大きなリュックサックを軽々と背負っている。


 ん?

 この少年、どこかで見覚えがあるぞ。


 いや直接会ったことはない……そうだ、原作の中だ。


 思い出したぞ!

 こいつは少年じゃない――そう装っているれっきとした美少女。


 名は、セナ・ローウェル。


 原作では主人公ローグとパーティを組み、支援役サポーターを担っていた、ヒロインの一人であり性悪な小娘だ。



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