第101話 支援役ぼくっ娘の正体

 


 セナ・ローウェル。


 人族で確か年齢は14歳だったな。

 若くして数々のパーティを渡り歩き、様々な技能スキルを修得したベテラン支援役サポーターであり、第一級の冒険者だ。


 普段からキャスケット帽を被っているが、癖っ毛がある橙色のショートヘアと同色の大きな瞳、白肌で整った素顔を持つ中々の美少女である。

 また太めの眉毛に、短パンにジャケットを羽織ったボーイッシュな見た目。一人称を「ぼく」と呼ぶ『ぼくッ娘』だけあり、パッと見はよく少年と思われていた。

 セナ本人も「男子」と見られた方が都合良いからか否定することはない。

 

 原作だと主人公ローグとパーティを組んだ時期は、シズクが成長しピコを仲間に加えた後だった。

 魔王軍が侵攻した『タニングの都』での戦いにも参加している。

 支援役サポーターとして雑務は勿論、斥候役にも長けており、戦闘も器用に参加し支援する万能ヒロインだ。


 さらにあらゆる分野の知識にも長けており、知能デバフのある主人公と他のヒロイン達を影で支えるツッコミ兼フォロー役でパーティの大黒柱と言っても過言ではないだろう。

 実際ローグがどんなに奇行ぶりを働いても、セナが上手く計らい場を治める場面も原作で書かれている。


 え? 

 そんなに有能キャラなら、どうしてシズクとピコのように仲間に加えなかったのかって?


 さっき言ったろ。

 こいつはとんでもない性悪ぼくっ娘なんだ。


 セナは優秀な支援役サポーターであると同時に盗賊シーフでもある。

 ぶっちゃけ盗賊シーフの側面が強いだろう。


 だからか、手癖がとにかく悪い。


 毎度、窃盗を働いてバレた際はリーダーであるローグがよく責任を負わされていた。

 まぁ奴は主人公補正もあってか、土下座だけで大抵のことは赦してもらっていたけどな……。


 酷い時は何も知らないローグが敵と間違えて、追いかけてくる店主を返り討ちにする始末だ。

 ご都合展開ガバがない俺じゃ間違いなく、数日間の牢獄行きか下手したら百叩きの刑だろう。


 しかも、このぼくっ娘……知る人ぞ知る一部の冒険者から恐ろしい通り名でこうよばれている。


 ――『不運をもたらす者アンラック』っと。


 セナはあえて評判の悪い、あるいは気に入らないパーティに入団しては窃盗を頻繁に繰り返し、多くのパーティ解散に導いている外道だ。


 だいたいの手口は自分で盗んだモノを仲間に押し付け、あるいは悪評を流すことで、パーティ間に亀裂を入れ崩壊へと追いやっている。

 見た目こそ美少年風であり口調も気弱で丁寧なことから、誰もセナの仕業だと思う者はいない。

 なのでセナが『不運をもたらす者アンラック』と呼ばれているのは、悪質な手口がバレたわけでなく、その経歴からであった。


 まぁ、そこまでセナの性格が歪んだのも、生まれた環境のせいでもあるんだけどな……。


 とはいえだ。


 そんなデンジャラス・ヒロインを俺の大切なパーティに加えるわけがないだろって話。

 もう【集結の絆】どころじゃなくなってしまうわ。


 何度も言うが、俺には主人公補正などない。

 主人公ローグのように都合よく更生させることは不可能だ。


 だからずっと、こいつをシカトしていたわけよ。

 いくら有能だろうと、面倒事はごめんだと思って。


 まさか自分から姿を見せるとは――。



「……あの子、セナくんね。第一級の支援役サポーターね。どうやら【集結の絆】に入団したいみたいね」


 横で聞いていた、ルシアが言ってくる。

 さも「アルフレッドくん、どう?」と言いたげだ。


 はっきり言って嫌でしかないけど、世話になっているルシアの手前、大人の俺は本音は隠さなければならない。


「悪いが無理だな。第一級の冒険者だから誰でも良いわけじゃない……彼の風評は小耳に挟んだことがある」


「あら、セナくんは女の子よ。素顔だって可愛いんだから」


 知ってるよ。あえて男扱いしてんだ。

 俺は美少女なら何でも取り込もうとする、見境のないラノベ主人公とはわけが違うんだよ。

 ここは男女平等、チームの輪を乱す奴はバッサリと切り捨てる。


「ルシアだって受付嬢なら知っているだろ? 彼、いや彼女か……『不運をもたらす者アンラック』という通り名を」


「まぁ、ね……けど、たまたま入団したパーティ側に問題があっただけで、セナくんはほとんど関与してないはずよ」


 ほらな。

 大抵の無関係な周囲はこうやって騙されるんだ。

 これもセナの手口……だから末恐ろしい、ぼくっ娘と言える。


「勇者アルフレッド様、こちらの支援役サポーターさんが【集結の絆】に入団したいと希望されているのですが――」


 セナとやり取りしていた受付嬢がカンター越しで身を乗り出して声を掛けてくる。

 そのセナも深々と被ったキャスケット帽越しで瞳を輝かせ、「あの方が、勇者アルフレッドさん……」と呟いていた。


 チッ、バレたか……まぁ普通にバレるか。

 しゃーない。

 あの手を使うしかあるまい。


「――え? 俺ぇ、別に支援役サポーターなんか募集してないよ。なぁ、ガイゼン?」


 背後でボーッと立っている副団長の盾役タンクに話を振る。


「はぁ? アルフ、何を言っている? お前さん、あんだけ『支援役サポーター支援役サポーターが欲しい』って連呼していたじゃねーか?」


「ん? そうだっけ……いや記憶いないな。別に急いでないし今は必要なくね? っというわけだ、ルシア。今すぐ支援役サポーターの募集を中止してくれ」


 名付けてすっとぼけ作戦。

 前世の社畜時代、俺の上司が使っていた手口だ。

 そういや問い詰められると、某政治家並みに「記憶にありません」が口癖だったな、あいつ。


「え、ええ……いいけど、いきなりどうしちゃったの、アルフレッドくん?」


「どうもしないさ。そんじゃ、みんなぁメシでも食いに行こーぜ」


「あ、あのぅ、勇者アルフレッド様ぁ!」


 セナが声を張らせ、俺の名を呼ぶ。

 流石にここは無視するわけにはいかない。


「なんだ? 今言った通り、支援役サポーターは募集しちゃいない。悪いが他を当たってくれ」


「ですが、ぼくはどうしても【集結の絆】に入団したいんです!」


 深々と頭を下げてやたら食いついてくる、セナ。

 こいつ……いったい何を考えてやがる?


 今じゃ有名な勇者パーティとはいえ、原作だと悪評ばかりの集団クランしか興味がなかった癖に。

 少しだけ突っついてみるか。


「キミ、名前は?」


「セナ・ローウェルです!」


「……セナね。何故、そこまで【集結の絆】に入りたいんだ? 第一級の支援役サポーターなら他のパーティでも引っ張りだこだろ?」


「それは勇者であり団長である、アルフレッド様の武勇を拝見したからです! 先日のクーデターの鎮圧、実に見事でした! だからぼくも貴方様のお傍でお仕えしたいと思い、志願しに参りました!」


 セナは力強く答えると、その場で両膝をつき俺に向けて土下座して見せる。


「アルフレッド様ぁ! どうかぼくを【集結の絆】に入団させてください!」


 その覚悟を決めた健気な姿勢に、パーティの仲間達は疎か周囲がざわつき始める。

 参ったな……まさかここまでするとは。

 セナの本性を知らなければ、大抵の奴はこの時点で絆されてしまうだろうぜ。


 けど俺は違う。


 原作を知っているだけに、こいつがどれだけ危険なのか嫌ってほど理解している。

 それによぉ。土下座なんぞ、社畜時代で後輩の佐々木君と嫌ってほどしてきたんだよ!


「……アルフさん。実力もある方のようですし、ここまで仰っているのなら入団させてもよろしいのでは?」


 心優しい聖女シャノンが心配そうな表情で促してくる。

 うっ、大好きな子に言われると心が揺らいでしまう。


 他にもシズクやカナデなど、この手のタイプに弱い女子達も同じような瞳で俺を見ている。ルシアも同様だった。


 それに、これだけの大衆の前……ちゃんとした理由がないと断りづらいんですけど。

 おそらく、やたらと拒む俺は「アルフ団長、どうしちゃったの?」的な感じになっているだろう。


 つまり、これもセナの手口――原作でも知能デバフの侵された他のヒロイン達とは違い、そこまで計算できる周到なぼくっ娘である。


 にしても、セナが俺に執着する理由は何故だ?

 さっきから可笑しいぞ。


 俺の脳裏にある疑惑が過る。


 ま、まさかこいつ……。

 虚無神ミヅキナイトが送り込んだ、『物語の破綻者デウス・エクス・マキナ』か!?

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