第102話 原作におけるぼくっ娘
原作では第三のヒロインだった、セナ・ローウェル。
優秀な
そんな危険極まりないヒロインが、俺の【集結の絆】に入団したいと土下座までしてきたのだ。
こいつの悪行を知る俺としては無論、入団させる意志はない。
はっきり言って手に負えないからだ。
主人公補正があったローグならまだしも――。
先に説明した通り、このぼくっ娘はとにかく手癖が超悪い。
原作においても、共に行動を共にするローグを度々試すかのように振る舞っていたのを覚えている。
けど、そんなのまだ可愛いほうだ。
一番やっちゃいけなかったのは、パーティ同士で仲違いさせ分裂させようとしたこと。
読者であった俺は、とにかくそれが許せなかった。
ローグの仲間になった後、セナは同様のことを先輩ヒロインのシズクとピコにやらかすしている。
けど二人はラノベヒロインらしく、「ご主人様がそんなこと言う筈がありません」「嘘ね、マスターに限って信じないわ」と従順かつ性格の良さを見せていた。
流石にこの時だけは感心して、シズクとピコの二人が天使に見えたね、いやマジで。
まぁアンチ読者からは「知能デバフに侵されたヒロイン達にそこまで考える力はないしw」と感想欄でディスられていたけど、俺も「ユーザー名:社畜くん」として初めて鳥巻八号の味方をしたものだ。
そして分裂が不可能と思ったセナは、今度は意図的に魔王軍とガチンコするように誘導し仕向けた。
あの原作における「タニングの都」で惨敗したアルフレッドが撤退後、ローグ達が駆けつけたのも偶然じゃない。
セナが巧みにそう仕向けたからだ。
でもご存知の通り、ローグが無双し魔王軍を全滅させたけどな。
間もなくしてセナの悪事がようやくバレることになり、彼女はシズクとピコから厳しく言及され追い詰められてしまう。
ここでローグが「まぁまぁ」と仲介に入り、「セナ……キミは女の子だったんだね? じゃこれまでのことは全て赦すよ」と主人公の器を見せたのだ。
多くの読者(信者)から「凄ぇローグ! 超優しい!」とか「漢気を見せた!」とか「流石、主人公!」だの「ガチ憧れます!」という大フィーバーぶりだった。
けど俺はふと気づいた。
「え? でも、あれ? ローグくん……女の子だから赦すって何? う、嘘だよな?」
てっきり読み間違いかと思い、俺は何度もスマホ画面を確認したものだ。
どうやらローグはそれまでセナを男の子だと思っていたらしい。
んで美少女だと判明した途端、掌を返したという解釈だ。
無論、アンチ読者から「ローグってばなんか怪しくね?」「赦したのはハーレム要員を増やしたかっただけじゃないの?」と言及されたが、原作者の鳥巻先生はスルーだった。
その後、セナは絆され「これからは心からローグ様に尽くします!」となり晴れてハーレムを入りしたというわけだ。
ならアルフレッド、お前も同じことすりゃいいじゃん……って思うだろ?
だが知っての通り、俺にはラノベ主人公様の
セナを絆すにも
それくらい、このぼくっ娘はイカレ病んでいる――。
少なくても原作を知る俺はそう思っていた。
ましてや目の前にいるセナは、ミヅキナイトが送り込んだ『
「……シャノン、すまない。俺はどうもセナ君のことが信用できない。キミ、確か一部の冒険者から『
俺の問いに、ずっと土下座していたセナが顔を上げる。
「はい、アルフレッド様……不本意ながらそう呼ばれている部分はあります。ですが、たまたま入団したパーティに問題があったというか。何故か、ぼくが入ったパーティは不仲になり解散してしまう次第でして……まぁ元々、等級が高い割には悪評が多い
「何故、わざわざそういったパーティを選ぶ? 第一級の
「お言葉ですが、アルフレッド様。それは今に至る、第一級の
確かに、もっぱら雑用がメインの職業だ。
それにソロ活動ができない分、常にパーティに所属する必要がある。
冒険者の中には「寄生職」と皮肉くる輩もいるくらいだ。
歪んだ思惑があるにせよ、そんな職種で第一級まで上り詰めたのは優秀である証拠。
にしても、このぼくっ娘は口が上手い。
問われたらポンポンと適切に返してくる……頭の切り替えが早い証拠だ。
ハーレム思考の主人公ローグが一時にせよ男の子だと思っても雇ったわけだ。
「理由はわかった……しかし【集結の絆】はパーティみんなの
俺は横目でチラっとみんなを見据える。
「アルフ、別にオレはいいぜ。男だったら大歓迎だったけどな……まぁラウルもいるから女子率の多さは開き直るしかねーわ」
「パルも問題ない。
「わたしも異論はありません」
ガイゼン、パール、シャノンは賛成の意見だ。
「私はご主人様の望むままです」
「アタシもよ。彼氏の好みに合わせるタイプだからね」
シズクとピコは中立の意見だ。
てかピコは相変わらずの彼氏ヅラでブレない。
「私も特には。根性と覚悟があれば問題ないでしょう」
「「「賛成でーす」」」
カナデとマカ、ロカ、ミカも賛成派だ。
「私も賛成とします。ただし
モンスター愛に溢れたラウルは条件つきで賛成した。
その一方で、
「――ボクは反対だよ。その子、危険だねぇ……うひひひ」
「どういう意味でしょうか?」
シャノンが率直に訊く。
「言葉のままだよ……セナって言ったね? キミ、綺麗な瞳の色だけど……奥がくすんでいるよ。そういった瞳を持つ者は大抵不吉をもたらすんだ、うひひひ」
ソーリアにずばり言われたセナは、すっとぼけているのか「え? え?」と首を傾げて見せる。
おお、流石はデバフの魔女!
笑顔が病んで怖いけど超的を得ているぞ!
よし、俺も便乗して猛反対してやんよ!
「ソーリアの意見にも一理ある。さっき問い詰めた通り、俺も不安要素がある者を加入させるわけには――」
「それに団長、このセナって子……ボクとキャラ被ってんじゃない?」
「は?」
突拍子のないことを言ってくるソーリアに、俺は言葉を詰まらせ躊躇した。
「いや、何言ってんの? 意味わからないんだけど……」
「だから『ボクっ娘』だよ……そういうの、ボク一人で十分でしょ? うひひひ」
うひひひ、じゃねーよ!
おま……まさかそれが理由で難癖つけて反対してんのか!?
やべぇ! こいつ、オリキャラの癖になんかやべぇ!
多数決の結果、セナを迎え入れても良いという方向に流れつつある。
あとは団長である俺が決断する流れだ。
とはいえ、このまま入団させるのは危険すぎる。
かと言って断りづらい状況であるのも確かだ。
ならば、
「……わかった。じゃこうしよう――セナ君、当分の間、キミは仮入団扱いだ」
「仮ですか?」
「そうだ。さっきも言った通り引っ掛かるところもあるからな。だがキミの【集結の絆】に入団したいという本気も感じられる。キミの働き次第で正式に団員として迎えるか検討しようじゃないか」
こうなったら、つかず離れず見極めてやんよ。
尻尾を出した時点で、その場でクビにしてやればいい。
ついでにミヅキナイト側の『
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