第64話 悪役と思わぬ刺客



 やっとの思いでマンティス・アーガの討伐に成功した。


 タイムアップにより《神の加速ゴッドアクセル》が解除され、元の時間に戻る。

 マンティス・アーガの肉体は消滅し、妖しい輝きを放つ魔力石が床に落ちた。


「これが元凶の《魔核石コアストーン》ってやつか……いったい誰が?」


 そう呟き《魔核石コアストーン》を回収する。


「アルフ!」


 ガイゼン達が駆けつけてきた。


「ま、まさか一人でマンティス・アーガを斃しのか!?」


 リュンが訊いてくる。


 原作の主人公ローグなら、しれっと「僕ぅ何かやっちゃいました?」とか「こんなの出来て当然だろ?」などホザくところだが、俺はそんな誰かの勘に触るようなことは決して言わない。


「ああ、みんなのおかげでな。特にピコには助けられたよ、サンキュ」


「アタシ彼女でしょ? 彼氏を護るのは当然だわ」


 いや違げーし。いちいち彼女ヅラすんのやめてくれる?

 とは言えない……貢献してもらったのは事実だからな。


「アルフ、もしかして《神の加速ゴットアクセル》が使えたの? 《三位一体トリニティ》も無しで?」


 パールの問いに俺は正直に頷く。


「まぁな。これも日頃の積み重ねと武者修行の成果ってところかな……あとはピコの《幸運フォーチュン》で経験値を爆上げしまくったこともある」


「信じられませぬ。戦闘中に極められるとは……流石、アルフ団長! まさに武人の鏡ですぞ!」


「ご主人様、流石ですぅ! 凄いですぅ! 私、心配しちゃいましたぁ、うぇ~ん!」


 カナデが称賛してくれる傍らで、シズクが感涙し俺に飛びつき抱擁してくる。

 やべぇ、超柔らかすぎる胸が顔に当たるんですけど……。


「こ、こらぁ、シズク殿! 抜け駆けはやめてくだされぇ!」


「そうですよ、シズクさん! アルフさんが困っているじゃありませんか!」


 離れた場所で、シャノンが勇者テスラの止血をしながらブチギレている。

 そういやザックとラウルといい重傷者も多かったな。


「……うひひひ。【集結の絆】、やっぱり面白すぎる。入団して良かった」


 石柱の影からソーリアが覗き込み、こちらを見て微笑んでいる。

 相変わらず不気味な子だ。仲間なんだから、こっちに来ればいいのに。


 それから5分が経過し、マカ、ロカ、ミカの《三位一体トリニティ》が使えるようになった。


「――《聖女息吹セイントブレス》」


 シャノンの固有スキルにより仲間達が全回復される。

 瀕死だったテスラは意識を取り戻し、ザックとラウルの損傷も治った。


「……すっかりキミ達に借りを作ってしまったようだ。感謝するよ、アルフレッド君」


 テスラはふらつきながら立ち上がり感謝の言葉を述べている。

 多くの血を失ったからか、まだ思うように動けないようだ。


 シャノンの《聖女息吹セイントブレス》は死者蘇生はできないが、それ以外の大怪我や損傷、あるいは病気や状態異常はなんでも回復させるスキルだ。

 また失った血液なども回復対象から外れるという縛りもあり、その場合は回復薬ポーション等で補うしかない。

 生憎、これまでの戦闘により回復薬ポーションは僅かしか残ってなく、テスラも全快とまでには至らなかった。


 そんな勇者の身体を副団長のフィーヤが献身的に支えている。

 なまじ美男美女だけに、実はそういう仲なのか?


 テスラに感謝されるも、俺は首を横に振るった。


「いや、俺は別に……感謝ならシャノンに言ってくれ。あと時間を稼いでくれた、ザックとラウルにもな」


「そうだな……みんなありがとう」


 あれだけ傲慢だったテスラが、全員に向けて素直に頭を下げて見せる。


「いいえ、わたしは聖職者として当然のことをしたまでですから」


「ここまで来れたのも半分はオメェのおかげだ、気にすんな」


「大切な弟を案じるのは兄として当然です」


 シャノン、ザック、ラウルが言葉を投げかける。

 特にラウルとのわだかまりは少し緩和された雰囲気だ。


 その後、俺達は奥側の方へと歩んで行く。


 奥には大きな扉が設置されている。

 扉を開けると広々とした一室になっており、中心には大きな台座が設置されていた。

 その台座には、巨大な卵のような鉄球もどきが置かれている。


「これこそが神々の残したとされる聖武器の素材――オリハルコンだ」


 テスラが説明してくる。


 オリハルコン? 伝説の金属か……それが聖武器の素材だったわけだ。

 なんでも絶対強度を誇る故に、ドワーフの技量を持っても加工が不可能だとか。

 しかし聖武器は選んだ所有者の意志で形を変えるという特徴がある。

 その辺は問題ない筈だ。


「僕の聖槍ボルテックスとアルフレッド君の聖剣グランダーと異なり、素材状態だから所有者を選ぶことはない。触れた者達に均等に行き渡るだろう、キミら登頂者には全員その資格がある」


 テスラの言葉に沿い、登頂を果たした冒険者達が台座を囲む形でオリハルコンの前へと並ぶ。


 その時だ。


「――アルフレッド君、危ない!」


 不意にテスラが俺に飛びついた。

 その場で二人が共に倒れる形となる。


「痛ぇ、どうしたテスラ!?」


「ニック、どういうつもりだ!?」


 テスラが起き上がり、ある男を睨みつける。


 そいつは【太陽の聖槍】に所属するニックという盗賊シーフの男だ。

 最初のマンティス・アーガ戦で、シズク達と共に囮と誘導役を担っていた。

 そのニックの手には短剣ダガーが握られている。


「流石はテスラ坊ちゃま……やはり殺気までは隠しきれませんでしたな」


 ニックは不敵に微笑み、自分の顔の皮を無造作に剥ぎ取る。


 そこには別の素顔があった。

 端整な顔立ちに血色のない青白い肌、丁寧に分けられた漆黒の髪を持つアラフォー男。

 男は懐から丸い片眼鏡を取り出して左目に嵌める。


「「ゼルネス!?」」


 真っ先にその名を叫んだのは因縁が深い、シズクとカナデだった。


 ゼルネス? 第二王妃のウェンディに仕える執事だ。

 確か元暗殺者アサシンで、テスラにとって武術の師であるとか。


「ゼルネス、どうしてお前がここに? いや、ニックはどうした!?」


「あの者ならギルドの厠で寝ているでしょう。流石にもう職員に発見されているとは思いますが……」


 ゼルネスの話によると、1階のギルドで集結した時から既に入れ替わっていたと言う。

 そして何故、俺を襲おうとしたのかというと。


「――全てはウェンディ様のご命令です」


「母上の? 何故、母上がアルフレッド君の命を狙っているんだ? 彼は何もしてないだろ?」


「いえ、テスラぼっちゃま。正確にはラウル様のお命です」


「なんだって? 兄さんの命を母上が……バカな!」


 実の息子テスラはウェンディがやらかしたことを知らない。

 そのテスラに向けて、ゼルネスは首を横に振るう。


「事実でございます。このクエストが達成次第、ラウル様を暗殺せよと命じておりました」


 俺は立ち上がり、「フン!」と鼻を鳴らして見せる。


「理由はわかるぞ! ラダの塔を攻略すれば、貢献した冒険者は国王と謁見する場が設けられる! その時、第一王子のラウルとバイル王が接触すれば保留となっている王位継承の件が取り沙汰される、それを恐れているんだろ!?」


「ご名答です、流石はアルフレッド様。これまで避けていた筈のラウル様が陛下とお会いになろうとしている事に、ウェンディ様は懸念されているようです」


「やはり義母さんはそこまで私を……ですが誤解ですね。私は父に王位を継ぐ気はないと、はっきり伝えるために謁見すると決めています。でなければ、わざわざ冒険者として会おうなんてしませんよ」


 そりゃそうだ。

 なんなら最初から決起会で自分の名を出し、そのままバイル国王に会えばいいだけの話だろう。

 ラウルがそうしなかったのは、第一級冒険者の調教師テイマーとして会うことで、自分の実力を証明させ「王位は継がない」と国王に断言するためだ。


 ちょっと頭を捻ればわかりそうなもんなのによぉ。

 いやそれよりもだ。


「んで、なんで俺が王妃に命を狙われなきゃならないんだ? 前回のシズク達とのトラブルだって、そっちが意図的に吹っ掛けてきた話だろ?」


「いえ。貴方様を狙ったのは。あくまで私の意志でございます」


 ゼネラルはお辞儀をしながら堂々と告白した。


 は?

 こいつ舐めてんのか?



―――――――――――

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