第63話 悪役、ついに覚醒する



「テスラ様!? 嫌、嫌ァ――ッ!!!」


 【太陽の聖槍】の副団長フィーヤが激しく取り乱している。


 思わぬ番狂わせで、勇者テスラと仲間達が深手の瀕死に陥ってしまった。

 その悲鳴に反応したのか、進化したマンティス・アーガは双眸を光らせ襲い掛かってくる。


「おのれぇ、させんぞ――《裁きの矢ジャッジメント》!」


 リュンが高速の光粒子レーザーの矢を射るも、マンティス・アーガは残像を残し難なく回避し突撃を再開させる。


「させるかぁ!」


 ガイゼンはフィーヤを庇う形で前に出た。

 大楯を掲げ斬撃を受け止める。


 普段のガイゼンでも《鉄壁アイアン》スキルは使用できるが、《三位一体トリニティ》効果が切れた状態では能力値アビリティ不足で動くことができない。

 したがってスキル無しで防御するしか成す術がなかった。


「うおっ!」


 辛うじてフィーヤを護るも、大楯が真っ二つに両断された。


 凄まじい斬撃力だ。

 次の攻撃は回避できない。

 ガイゼンごとフィーヤの命脈が断ち切られてしまう。


「弐ノ刃――《弧月》!」


 カナデは刀剣を振るい真空の刃を発生させ放つ。

 飛燕の刃をマンティス・アーガは超反応で躱すと旋回して、その場から離れて行く。


 ヒット&アウェイ。

 それが第二形態となったマンティス・アーガの戦闘スタイルか。


 甲殻を脱ぎ捨てたことで、おそらく魔法攻撃は通じるかもしれない。

 しかし矢ですら軽々と躱しきる俊敏性を前に当たるかどうか。

 まさに高い攻撃力とスピードを持つ最強の回避盾だ。


 今のマンティス・アーガに対抗できるのは、俺の《神の加速ゴッドアクセル》しかない。

 しかし次にマカ、ロカ、ミカの《三位一体トリニティ》が使えるまでには5分ほどかかってしまう。

 その間はシャノンの《聖女息吹セイントブレス》も使用できず即効の回復は不可能だ。


 かと言って、このまま放置していたら瀕死のテスラ達が持つかどうか。

 せめて止血くらいの処置は必要だってのに、今の状況でシャノンを動かすのは彼女が危険すぎる。


 不味いぞ……どうする?


「俺があの野郎の注意を引きつける! 回復役ヒーラー共、その隙にテスラ達を治癒しろ――《雷撃の牙サンダー・ファング》!」


 ザックが呼びかけ、鋼鉄手甲ガントレッドの拳を振るう。


 蓄積された雷撃が上空にいるマンティス・アーガに放出されるも、瞬時に躱されてしまう。

 カウンターと言わんばかりに、ザックに向けて突撃してきた。


「《封印手札シールカード》――召喚、フェンリル!」


 ラウルはカードを翳し、魔狼フェンリルを出現させた。


 フェンリルは青白い毛並みをした巨大な狼であり、素早い移動力と牙と爪だけではなく、体内から炎を放出させることができる。

 ラウルの指示で、フェンリルは青い炎を吐き出した。

 魔蟲にとって炎攻撃は最も有効である筈だ。


 だがやはり回避されてしまう。

 気づけばマンティス・アーガはザックの背後に回り込み両腕の鎌で斬りつける。


「ぐうっ、クソがぁ!」


 ザックも獣人族の身のこなしで辛うじて躱すも、背中がざっくりと斬られてしまった。

 深手を負った者に興味をなくしたのか、マンティス・アーガは標的を変えて今度はフェンリルに襲い掛かる。


「いけない――うぐっ!」


 モンスター愛が半端ないラウルが身を挺してフェンリルを護る。

 そのまま片腕を切断されてしまった。


「ラウル! クソォッ!」


 仲間をやられては黙ってられない。

 俺は無意識に駆け出した。


 幸いザックとラウルのおかげで、テスラ達が標的から外れフリーとなった。

 その隙にシャノンと【太陽の聖槍】の回復役ヒーラーが止血の治癒を施している。


 今度は俺が時間を稼ぐ!

 いや違う!


「俺が奴を仕留める――ピコいるか!?」


「いつも一緒よ、アルフ」


 ピコは俺の背後について来ている。


「《幸運フォーチュン》スキルで俺の幸運を限界値まで引き上げてくれ! それで奴の攻撃は当たらない筈だ!」


「わかったわ。けどあれだけ速いんじゃ、今のアルフでも攻撃が当たらないわよ。運だけじゃどうにもならないこともあるわ……奇跡でも起きない限りね」


「奇跡ってのは、自分で引き起こすことができるものさ――」


 そう、決して無策じゃない。

 俺はピコのスキル《幸運フォーチュン》の特性を知っている。


 原作での話だ。


 主人公ローグが最終決戦辺りでピコの《幸運フォーチュン》を利用し、《極大能力貸与マキシマムグラント》という新しいスキルに覚醒させていた。


 確か世界中の種族達から強制的に《能力貸与バフ》を与え、勝手に徴収させることでローグ自身が神格化するスキルだ。

 その際に、「世界中のみんなぁ! この僕に力を分け与えてくれぇぇぇ! やれやれ」と絶叫して、みんなしばらく立てなくなるほど力を搾取されていた。

 考え方によっては超極悪スキルだった気がする。


「……これが僕の中に眠っていた真の力なのか。信じられん、やれやれ」


 っと、最後ローグはさも自分の内に秘めた実力だという感じで自己陶酔していたっけ。


 いやお前、普通に駄目だろって読んでいて思った。

 どんだけご都合展開ガバやねん。


 原作では語られてなかったけど、勝手に強化され徴収されたら世界中がパニックを起こしても可笑しくなかった筈だ。

 しかも全員、赤の他人だぞ。

 この作品って他人の迷惑やモラルという言葉が皆無にも程がある。


 まぁそれは良しとして……。


 どうやらピコの《幸運フォーチュン》は様々な因子を繋ぎ合わせ、その状況にとっての最適解へと誘うスキルでもあるようだ。


 つまり対象者に簡易的なご都合展開ガバを発生させる能力。

 案外、俺に奇跡とやらが起きるかもしれない。

 だから今はそれに期待するしかない。そう判断した。


「《幸運フォーチュン》――ラッキータイムよ!」


 ピコのスキルが発動される。


 俺は聖剣グランダーを翳し、マンティス・アーガに向けて突進した。

 案の定、奴はラウルから標的を俺に変更し襲撃してくる。


 だが幸運度MAX状態の俺に攻撃は当たらない。

 こちらもカウンターと言わんばかりに剣を振るってやるも、やはり超反応で躱されてしまう。


 しかしヒット&アウェイ戦法を得意とするマンティス・アーガだが、仕留め切れない敵に対し苛立ちを覚えたのか標的を俺に絞り執着してくる。


 気づけば斬撃の応酬となっていた。

 おかげで時間稼ぎにもなっている。


 が、


「アルフ、駄目よ! もうじきラッキータイムが終わるわ! 早くそいつから離れて!」


「いや、ピコ! これでいい、十分だ――」


 懸念するピコを他所に、俺はある手応えを感じている。


 まだ5分は経過していない。

 マカ達の《三位一体トリニティ》のクールタイム終了まで、残り1分ほど。


 けど俺ならできる筈だ。


 ピコの《幸運フォーチュン》により、マンティス・アーガを撃ち合うことで経験値を爆上げしまくった今の俺なら――。


「《神の加速ゴッドアクセル》発動!」


 刹那、俺の周囲が超スロー状態となる。

 マンティス・アーガは辛うじて動けているようだが、それでも俺にとっては断然遅い状態だ。


「……やっとこだ。やっと自力で固有スキルが使えたぞ、この野郎!」


 呼吸を整えながら独走状態となった周囲を見渡した。


 俺には主人公ローグのように自分のステータスを見ることができない。


 だが感覚でわかっていた。

 今の俺は一年前、《能力貸与グラント》で強化された全盛期のアルフレッドと同等の高みに達していると――。


 無論、今だけの経験値じゃない。

 この身体に転生してから、ずっと積み重ねてきた努力の賜物だ。


 加速領域の中、そう感慨深く目の前の敵に狙いを定め聖剣を振り翳す。


「随分と舐めた真似してくれたじゃないか。やれやれやれやれやれ……」


 俺は皮肉を込め、あえて主人公ローグの口癖に則り、聖剣グランダーで渾身の斬撃を与えまくる。

 怒涛の如くマンティス・アーガを両断し、ようやく討ち斃して撃破した。



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