第30話 悪役が怯える魔族
移動してから三日後。
タニングの街付近まで移動してきた俺達パーティ。
不穏な空気を感じ、連れであり10名の騎士団達と小休止しながら待機していた。
きっかけは
「――風に乗って焦げ臭いが鼻につきます。決して良い臭いではありません!」
それに伴い、遥か遠方の空から狼煙のような黒い煙が幾つも昇っていたからだ。
間もなくして、小さな飛翔体がこっちに向かってくる。
偵察に向かわせていた
「アルフ、魔王軍だよ! 奴らが都を襲っているわ!」
「やっぱりな……待機して正解だった」
「ではアルフレッド殿! ハンス王子、いえ我らの騎士団長は既に……」
副騎士団長のブルクという男が動揺している。
凛々しい顔立ちでぴっちり横分けにチョビ髭が生えた堅物そうな兄さんだ。
「ブルク殿、まだそう決まったわけじゃありません。ですが最悪な事態は常に想定して行動に移さなければならない……リスクマネジメントというやつです」
「マネジ?」
「いえ、なんでも」
いかん、つい前世の社畜癖が出てしまった。
俺は軽く咳払いして誤魔化す。
「とにかく、ここからは隠密行動が必要となるでしょう。優先するべきは、ハンス王子の安否確認です。もし魔族に囚われているなら救出する方法を、既に亡くなられていた場合は、その事を報告するため撤退いたしましょう」
「アルフレッド殿……魔族は如何なさるのですか? 騎士として奴らの暴虐は見過ごせませぬ」
言うと思ったぞ、ブルク。
だからフレート王に念を押したてきたんだ。
「我らのクエストはハンス王子の捜索と救出。無理して戦闘行為はしなくて良いと言われています。それに相手は都に襲撃を仕掛けるほどの軍隊……おそらく百は有に超えているでしょう。この人数じゃどうにもならない」
生憎、悪役キャラの俺にそういった補正などない。
「確かに仰る通りです……しかし! もしハンス隊長が奴らによって戦死されているのであれば、我ら騎士団は敵討ちをせねばなりませぬ!」
やっぱ頭堅いなぁ、ブルク君。
部下の騎士達も真剣な眼差しで力強く頷く始末だ。
参ったな、やれやれ。
いざって時はこいつらだけ放置して、俺達だけで撤退するか。
万一の戦闘になった時の保険をかけているとはいえ、闇雲にパーティを危険に晒すわけにはいかない。
「とにかく進みましょう」
俺達は馬を走らせ、タニングの都に向かった。
都付近に馬を止め、そこからは徒歩で移動する。
ピコの報告通り、都は魔王軍の襲撃に遭っていた。
建物から炎が上がり、幾つも死体が晒され燃やされている。
まるで地獄絵図だ。
こりゃ、ハンス王子……ヤラれちゃっているな。
「おのれぇ、魔王軍め! 赦さんぞぉぉぉ!!!」
ブルクは憤怒し感情むき出しに剣を引き抜く。
迂闊な奴め、辺りには誰もいないのが幸いだ。
「ブルク殿、落ち着いてください。我らは隠密行動であることをお忘れなく」
「しかしアルフレッド殿ッ! 騎士としてこのような暴挙を見過ごせませぬ!」
始まったぞ、この堅物騎士め。
ウザい……てか絶対に足を引っ張るキャラだな、こいつ。
部下の騎士達も副団長に則り臨戦態勢を取り始める。
おいこら誰もいねーよ。
これ以上、こいつらとの隠密行動は不可能と見た。
「落ち着いてください。ブルク殿と騎士団の皆さんはここで待機してください。何かあれば、このピコ伝手に私から指示を送ります」
「アルフレッド殿、我らが邪魔だと申されますか!?」
うん、邪魔だよ。お前ら凄ぇ邪魔。
けど俺も前世じゃ35歳の記憶と人格を養う立派な社会人だ。
ドストレートには言わないけどね。
「フレート陛下より、このパーティのリーダーは私に一任されています。指示には従って頂きたい。でなければ反逆罪で軍法会議モノですぞ」
念のため、パールには魔法でこの一部始終を
後々、言った言わないで揉めなくていいよう証拠にするためだ。
俺に諭され、ブルクは「うぐっ……わかりました」と理解を示して剣を収める。
身軽になった俺達は騎士団を待機させ、隠密行動で街中を探索した。
辺りには燃やされた遺体が転がり、どこからか悲鳴が聞こえてくる。
胸糞悪ぃ……。
昂る感情を抑え、燃え広がっていない見晴らしの良い建物へと上り周囲を見渡した。
「パール、魔法であそこの部分を拡大して見せてくれ」
「わかった」
パールは俺の指示した方向に魔杖を翳すと、目の前に立体化された映像が浮かび上がる。
既に防壁が破壊され、百体以上を超える魔族兵とモンスター兵は「ヒャッハー!」とケダモノの如く吠え、街へと雪崩れ込み暴虐の限りを尽くしていた。
「――略奪しろ、兵共よ! 奪い犯し皆殺しにしろ! 我ら魔王軍の偉大さを骨身に刻んでやるのだ、ガハハハハハッ!」
魔族兵とモンスター兵に指示する大男がいる。
強者の風格を放つ、頭部に猛牛のような大きな二本角を生やした筋肉隆々の魔族戦士だ。
ぶっ太い腕に巨大な戦斧を担ぎ、まるでオーガのような凶悪な形相。
威圧的な風貌といい――間違いなく奴だ。
(やはり……ゴルゴアか)
無論、そいつと直に会ったことはない。
あくまでラノベ版の挿絵とコミック版で見た記憶。
そう、アルフレッドはあのゴルゴアと一騎打ちに敗れ、完膚なきまでボコられて撤退を余儀なくされたのだ。
――突如、俺の手が小刻みに震え始める。
(……怯えているのか、アルフレッド?)
何故かそう理解した。
きっと俺の記憶とリンクした肉体、あるいは潜在的な何かが反応しているのだろう。
どちらにせよ、俺達じゃ無理な相手だ。
ローグでないと奴に勝てない。
関わっていい相手じゃないのは明らかだな。
「……酷ぇな。アルフ、どうする?」
凄惨な光景を見て、ガイゼンが問うている。
「俺達の任務はハンス王子の捜索と救出だ。魔族共の討伐じゃない……」
マニュアルに則ったかのように俺は割り切ってみせた。
そうだ、俺は主人公じゃない。
主人公の補正もないし、そう
死んだら終わりの惨めな悪役だ。
勇敢な男でもないし、自分から貧乏クジを引く必要はない。
前世だって、そうして生きてきたじゃないか?
「た、助けてくれ!」
「お願いやめてぇ!」
「きゃあああ、誰かぁぁぁぁ!」
住民達だろうか、阿鼻叫喚の悲鳴が耳に入ってくる。
建物からすぐ真下からだ。
さっき見た光景と似たような蹂躙が行われていた。
胸糞悪ぃ……。
気づけば奥歯を強く噛みしめ、ギリっと音を立てていた。
俺は震える手をぐっと掴み、強引に震えを抑える。
「……マカ、ロカ、ルカ、頼みがある――」
そう告げ、俺は建物から飛び降りた。
丁度、真下にいる魔族兵の頭部から一刀両断に斬り裂く。
「な、なんだ!?」
「テメェ、何者だ!?」
仲間を斬られた魔族兵が叫んでいる。
ざっと見て、10人か……。
「うっせーっ、下っ端の魔族共が! 全員、細切れにぶった斬ってやるから覚悟しろぉぉぉ!!!」
俺は血塗られた剣を掲げる。
自らを奮い立たせながら威勢よく叫んだ。
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