第29話 それぞれの旅立ち



 ギルドマスターの推奨で合流した、三人の付与術士エンチャンター

 あまりにも小さく幼すぎる女の子達につい戸惑ってしまう。

 本当に第二級冒険者なのか?


 ん? よく見たら三人とも同じ顔をしている。

 どうやら三つ子のようだ。

 それにこの子達……よく見たら人族じゃないぞ。


「そうよ、リトルフ族のマカよ」


「同じくロカです」


「ミカだよ、よろしく」


 そう小人妖精リトルフ族だ。

 見た目こそ身長1メートルも見たない子供のような容姿で、耳が尖っており丸みを帯びた身体つき。

 子猫のような大きな瞳に小さな鼻と唇の可愛らしい容貌が特徴的だ。

 また三人とも短めで似たような癖っ毛のある髪型だが、瞳と髪の色はそれぞれ異なっていた。

 赤毛がマカ、青毛がロカ、緑毛がミカだ。


「俺はアルフレッド、剣士セイバーだ。よろしく」


「色々と噂は聞いているわ、元【英傑の聖剣】の団長さん」


「けど私達はビジネスなので、貴方がどういう方だろうと気に致しません」


「ギルドマスターから直々の依頼だし報酬もいいからねぇ」


 マカ、ロカ、ミカは続けて言ってくる。


「ああ助かるよ。クエストの詳細はここで説明できない。移動しながらになるけどいいか?」


「構わないわ」


「それでいいです」


「了解だよ」


 三つ子だからか、やたら息の合った話し方をしてくる。

 少し疲れてしまうが、まぁいいだろう……。


 俺はギルドを出て、外で待機しているガイゼン達と合流した。

 ギルドマスターから推奨された三人を仲間達に紹介をする。


「別に子供は嫌いじゃないから、オレは構わねぇけど……なんだか保育園みたいになっちまったな」


 ガイゼンはパーティメンバー達と見比べながら感想を漏らした。

 安心しろ、俺も同じこと思っていたぞ。


小人妖精リトルフ付与術士エンチャンターは珍しい。普通は吟遊詩人バード盗賊シーフ職だね」


 博学のパールがぽつりと呟く。

 確か小人妖精リトルフ族は魔法との相性が悪く、その小柄な体躯を活かした俊敏性と幸運度が高い言われる種族だ。

 一方で魔法抵抗が高く、幻術や洗脳系にはかかりにくい特性があるとか。


「奴隷商のアクバから《自由変換コンバージョン》してもらっているからね」


「おかげで付与術士エンチャンター職になれました」


「その代わりだけど、他の小人妖精リトルフ族より敏捷性が低くなったから斥候役とかは期待しないでね」


 つまりアクバの固有スキルにより職種変更ジョブチェンジしたってことか。


「……ってことは、キミ達は元奴隷なのか?」


「そうよ。冒険者だった主様に買われ、支援役サポーターとして冒険者になったのよ」


「主様は老衰で亡くなられたので、今は三人一組でソロ活動をしています」


「こうみても、あたしら28歳だからね。子供じゃないよ」


 ガイゼンより年上じゃねーか。

 てかシズクといい、実際のお子ちゃまはパールだけってことじゃん。


 そういや小人妖精リトルフ族は人族の倍くらい長生きらしい。


 しかし、その主様っていう冒険者……どうして三人も引き取ったんだ?

 付与術士エンチャンターは一人いれば十分だろ……。


 何気に思った疑問だが、その理由は後々知ることになる――。


 こうして準備を整えた俺達。

 騎士団と合流し、「タニングの都」を目指すため出発した。



◇◆◇



「――アルフさん達がつい先程までいらっしゃったのですか!?」


 わたしシャノンは【英傑の聖剣】抜け出した後、すぐ冒険者ギルドに訪れていました。

 ここならアルフさんの居場所がわかると思ったからです。


 わたしの胸にはボールサイズのスライムこと、『スラ吉』を抱きかかえている。

 低級とはいえモンスターを連れて来て良い場所ではありませんが、調教師テイマー職の冒険者もよくティムしたモンスターを肩に乗せ歩いているので、特に咎められることはありません。

 とはいえ、わたしは神官プリースト職なのですが……。


「ええそうよ。アルフさん、早朝にギルドに来ているわ。待ち合わせした三名の付与術士エンチャンターを連れてクエストに出発しているところよ」


 受付場のルシアさんが答えてくれる。


「そうですか……それでどちらに行かれたのでしょうか?」


「本来なら話ちゃいけないんだけどね……アルフさんの様子もなんだかいつも違っていたし、聖女のシャノンちゃんならお話しても良いかな……」


 ルシアは顔を近づけこっそり耳打ちしてくれた。

 なんでも、アルフさん達はフレート国王直々のクエストに参加しているようだ。

 しかも極秘裏なクエストのようで、詳しい内容はギルドマスターしか知らされていないとか。


 そして三人の付与術士エンチャンターはアルフさんの要望で集められた方達らしい。

 どうしてアルフさんがそのようなクエストを請け負ったのでしょう?

 確か彼も第一級冒険者から降格された身です。

 とても不思議でなりません。


「それで、アルフさん達は何処に?」


「確かタニングの領地辺りかと……私もそこまでしか聞かされていないのよ」


 タニング、「大自然の都」ですね。

 馬を借りても三日は掛かるでしょう。

 ここでアルフさん達が戻ってくるのを待つべきか……。


 でも……会いたい。

 会いたいです、アルフさん――。


「行きましょう、スラ吉。アルフさん達を探しましょう!」


「ちょ、シャノンちゃん! まさか一人で行くの!? 流石に危険だわ……ここだけの話だけど、タニング付近の森で魔族を見たっていう冒険者もいるのよ!」


「魔族? なるほど……アルフさん達のクエストはきっと……何か胸騒ぎがしてきます。わたしの予想が正しければ回復役ヒーラーが必要の筈。路銀も多少はありますし馬くらいなら借りられるでしょう!」


「ストップ! 冒険者を案内ナビする受付嬢として行かせられないわ! シャノンちゃんだって第四級まで降格されているでしょ!? 一人は無謀よ、絶対に駄目なんだから!」


「いえ一人じゃありまあせん。スラ吉がいるので大丈夫です」


「いやスライムじゃない……無害そうだけど、どうして神官プリーストの貴女が連れているか謎だわ……それよりも、お姉さんにいい考えがあるの」


「はい?」


 わたしは首を傾げる中、ルシアさんは小声である提案をしてくる。

 彼女の話では本日から丁度、王都からタニング付近まで物資の搬送を護衛するクエストがあり、第三級から四級の女性冒険者のみ編成されたパーティが請け負うことになっているらしい。


「そのパーティにシャノンちゃんが回復役ヒーラーとして参加できるよう、私から話してみるわ。丁度、募集を呼び掛けていたから受け入れてくれる筈よ」


「ですが、わたしの目的はアルフさんを探すこと……途中で抜けてしまうことになります」


「それを含めてお願いしてみるわ。だから報酬とかは期待しないでね。少し時間は掛かるかもしれないけど、シャノンちゃんだけで行くより危険は大幅に減少できるでしょ?」


「はい! ルシアさん、ありがとうございます!」


 それから間もなくして、ルシアさんから紹介されて女性冒険者パーティと合流し、輸送用の馬車でタニングを目指すことになる。


 これで、ようやくアルフさんに近づくことができそうです。



―――――――――――

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