第31話 悪役の決意と勇気



「剣士如きが、たった一人で粋がっているんじゃねぇ!!!」


「やっちまぇぇぇぇ!!!」


 仲間を殺され憤怒する魔族兵達。

 武器を手にして、俺に向けて一斉に襲ってきた。


「雑魚が――《神の加速ゴットアクセル》!」


 約10秒間(体感にして約10分間ほど)、射程距離30メートル圏内が俺の無敵空間となる。

 魔族兵達は醜悪な形相を浮かべたまま超スローモーション状態で動く。

 神速状態の俺は躱すまでもなく、9名の魔族達に制限時間いっぱいまで斬撃を与えた。


「――タイムアップ。貴様らはキルされたことも気づかず死ね!」


 ぶしゅっと噴水の如く血飛沫が舞い、刻まれた魔族兵達は肉塊と化して転がった。

 

 ところで何故俺は、封じられた筈の固有スキルを使用することができたのか。


 それは付与術士エンチャンターのマカ、ロカ、ミカのおかげだ。

 彼女達の付与魔法バフにより、俺の能力値アビリティとスキル経験値ポイントを全盛期並みに強化してもらった。

 そのため、一時的だが《神の加速ゴットアクセル》の発動条件を満たすことができたのである。


 第二級冒険者である三人から同時に施してもらえば、ローグに没収された分のバフ効果が得られると見込んで強化してもらったが思惑通りに成功したぞ。


 しかも、この三つ子。

 連携力だけじゃなく、他にもとんでもない固有スキルを持っていた。


「あ、ありがとうございます!」


 助けた住民がお礼を言ってくる。

 彼は父親だろうか。傍には娘と幼い少年が抱き合い涙を流していた。


「……いえ別に。ここは危険だ。向こう側まで行けば自国の騎士団が待機しています。不安だったら身を隠していた方がいい……魔族達は我々がなんとかしょう」


 淡々とした口調で説明する。

 もう少し早く行動に移せば良かっただろうか……ふと後悔の念が過ってしまった。

 だから主人公ローグのように決してドヤ顔でイキれる立場じゃない。


「わかりました! どうかご武運を!」


 父親は子供達を連れて去って行った。


「……さて」


 俺は地面に転がっている魔族の死体に近づき、その一体に蹴りを入れた。


「死んだふりするな、起きろ!」


「ぶはっ! なんで俺だけ生きているの!?」


 魔族の一人が目を覚ます。ただし手足は切断された達磨状態で身動きが取れない。


 あえて生かしておいたのだ。

 これから尋問するために――。


「アルフ、無事か!? おお、《神の加速ゴットアクセル》復活しているじゃねぇか!」


 ガイゼン達が建物から降りて近づいてくる。


「まぁな。それより、これからこの糞を尋問する。みんなも立ち会ってくれ」


「ひぃぃぃい、殺さないでぇぇぇ!」


「そうして欲しくないなら、これから問うことに2秒以内で答えろ。まず、お前ら魔王軍は何名で襲撃を仕掛けてきた?」


「モ、モンスター兵を合わせて二百くらいです!」


 二百人の兵力か……数が多すぎる。

 まともに対抗するのは不可能だ。

 やはり大将を討ち取るしか方法はあるまい。


「俺と会う前に、他の騎士団とも戦っている筈だ。その者達はどうしている?」


「こ、殺しました――ぶほっ!」


 俺は拳でそいつの顔面をブン殴る。


「全員か?」


「い、いぐぇ……ゴルゴア将軍の命令で騎士団長だけ生かしていましゅ……」


 生きている? ハンス王子が……そうか、良かったと思うべきだろう。

 どうやら王子を人質にしてフレート王と交渉でもするつもりか。

 あの脳筋そうなゴルゴアが? いや魔王か別の上位魔族の指示だな。


「騎士団長はどこにいる?」


「わまりましぇんが……きっとゴルゴア将軍の傍にいるかと――ぐえっ!?」


 俺は魔族の喉持ちに短剣を突き立て絶命させる。

 こんな糞外道など最初から生かすつもりはない。

 悪役キャラはこういう場面で無情になれるってもんだ。


「ハンス王子が生きている以上、やはりクエストを優先させるしかないか……」


「だな、アルフ。んでどうする? そいつの情報だと、王子を救出するのにゴルゴアってボスと一戦交えなきゃなねぇぞ」


「……わかっているさ、ガイゼン。やってやるさ……《神の加速ゴットアクセル》も使えるようになった。原作とは違う……敗北ムーブではない筈だ」


「アルフ、ゲンサクって何?」


 パールの問いに、俺はハッと口元を押さえる。

 危ねぇ、つい口走ってしまった。


「な、なんでもないよ……マカ、ロカ、ミカ。それにはキミ達の力は必須だ。協力してくれるか?」


「勿論よ! 魔族は赦せない! やるしかないわ!」


「こんな時のために魔力回復薬エーテルは多めに所持しています!」


「ウチらの固有スキル――《三位一体トリニティ》があれば、アルフ達だけじゃなく仲間である騎士団にも適応されるからね!」


 《三位一体トリニティ》――それがこの三つ子が持つスキルだ。


 それは約5分間ほど、三人分つまり三倍分の強化付与バフを一度に施せる強力な能力である。

 さらに人数制約もなく射程距離もない。たとえ即席だろうと同じパーティであれば全員に適応される効果を持つ。

 したがって俺だけじゃなく、ガイゼンやパールも全盛期並みの戦闘力に戻れるというわけだ。


 何故、以前の主は奴隷だった三つ子の小人妖精リトルフ族をわざわざ三人とも引き取った理由がここにある。

 それは三人一組で超優秀な付与術士エンチャンターだからに他ならない。


「おっし! それでスキルを含めて、あとどれほどバフを施すことができる?」


「大体だけど、10回はいけるわ」


「ただし《三位一体トリニティ》は一度使用したら、5分間は使えません」


「あとウチら三人の誰かがやられたらスキルは強制解除されるから、しっかり守ってね」


 温存させていたからか、思ったより戦えそうな気がするぞ。

 とにかく、この子ら雇って正解だった。


 俺達の各装備も魔力石も埋め込まれ攻撃と防御も普段より向上しているからな。

 おまけに日々鍛錬も怠っていない。

 たとえ弱体化していようが、そう易々とやられることはない筈だ。


「わかった! んじゃ目指すはゴルゴアというボス魔族の討伐だ! そいつを斃しハンス王子を救出する! ピコはその旨をブルクに伝え、生き残った衛兵と共に住民達の避難誘導と防衛に徹するよう指示してくれ!」


「わかったわ、アルフ!」


 俺の指示を受け、ピコは羽を広げ飛び立ち漆黒の夜陰へと消えた。

 基本、非戦闘員だが斥候及び伝達役として役に立つ妖精族フェアリーだ。


 よし、あとは俺達の戦い次第だ――!



◇◆◇



 都中心部にて。


「急報です、ゴルゴア将軍!」


「何だ? もう飯の時間か?」


「ち、違います! 制圧していた筈の区域が少数の冒険者達の奇襲に遭い壊滅!」


「は?」


「おまけに別区域では、ルミリオ王国の騎士団10名が大勢の市民達を逃がし、衛兵と共に防衛線を張り制圧できません!」


「は?」


「どいつもやたら強くて……向かわせた部隊が悉く返り討ちにあっている模様!」


「……いや、お前らさっきから何言ってんだ? 兵卒じゃあるまいし、歴戦の我が部隊が少数の人間如きに遅れを取るわけがないだろ? 勇者ならまだしも……」


 ゴルゴアはそうぼやき、小指で鼻の穴をほじっていると。



 ドゴォォォォン!



 激しい轟音と風圧。

 待機していた魔族兵達が一斉に吹き飛んだ。


「な、なんだ!?」


 ゴルゴアが視線を向けた先には、塵煙の中で大楯を掲げた鋼鉄の鎧を纏う戦士の姿であった。



―――――――――――

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