第32話 悪役VS因縁の魔族戦士



「――《鋼鉄壁アイアン》! やっぱ移動できるとできないとじゃ違うぜぇ!」


 ガイゼンは大楯を構えながらスキルを発動し、猛スピードで外壁を破壊して突破する。

 その勢いはまさしく暴走機関車の如く、大勢の魔族兵を跳ね飛ばした。


 弱体化してから使用したら身動きが全く取れなくなる置物スキルのため封印していたが、マカ、ロカ、ミカの固有スキル《三位一体トリニティ》により以前の力が振るわれている。


 ガイゼンに続き俺達も破損した外壁から都の中心部へと侵入した。


 遠くにいる巨漢の魔族戦士……間違いない、ゴルゴアだ!

 奴は緊張感のない表情で、奇襲を仕掛けてきた俺達を呆然と見入っている。


「何晒してんだぁ、テメェ!」


「男は殺せぇ、女は犯せぇ!」


「死ねえぇぇ!」


 一方で仲間を大勢殺され怒り狂う魔族兵達。

 大将のゴルゴアを護衛しているためか、やたらと数が多い。

 しかも鍛え上げ洗練された動きを見せていた。


「パール、連中を近づけさせるな! シズクはガイゼンと共に付与術士エンチャンターを守れ!」


「わかった、アルフ!」


「はい、ご主人様!」


 俺の指示で二人は前に出る。

 パールは久しぶりの《無限魔力インフィニティ》で極限まで魔力を高めた。


「――《超四重奏雷撃網魔法カルテットサンダー》!!!」


 魔杖を掲げた上空から、巨大な魔法陣が出現し四層に重なって浮かび上がる。

 強烈な落雷が地上へと落下し、迫りくる魔族兵達に直撃した。


「「「ギャァァァ――……!」」」


「クソッ、やべぇぞ! 上級の魔法使いがいる! 回り込め――うぐけぇ!」


 移動しようと迂回する魔族兵達に疾風の刃が襲う。


 シズクだ。

 二刀の短剣ダガーを逆手に持ち縦横無尽に振るい突撃していた。

 しかも回避能力が抜群で、敵の反撃を回避しては鮮やかなカウンター攻撃で翻弄している。

 彼女もまたバフにより普段以上の戦闘力を発揮していた。


「なんだぁ、あの連中は? 異様に強いぞ……まさか本当に勇者パーティとでも言うのか?」


 ゴルゴアが言いかけたと同時に、俺は《神の加速ゴットアクセル》を発動した。



 斬ッ!



 奴の前方を護衛する魔族兵共の首を一度に刎ね飛ばした。

 そのままゴルゴアも斬ってやりたかったが生憎射程外だ。


 スキル解除後、霰の如く切断した魔族達の首がぼたぼたと落ちていく。

 胴体の部分から鮮血が吹き出し次々と倒れる。

 ほんの刹那でゴルゴアの周囲は血の海と化した。


 ただ目の前には、剣を構えた俺が立っている。


「な、なんだ……お前は? 何をした……?」


「目測を見誤ったか。だが次で殺す!」


「何者だと聞いている!? 人族、貴様は勇者か!?」


「そんな大層な存在じゃない! テメェなんかに名乗んねーよ! とっととブッ斃してやるからな!」


 原作だと、アルフレッドは意気揚々と名乗った瞬間に接近を許し顔面を殴られているからな。

 二度も同じ轍を踏むかっての!


 ゴルゴアは隙を見せない俺に苛立っているのか、「ぬぐぅ!」と奥歯を噛みしめている。


「クッ! 貴様ら、こいつを殺せぇ!」


 奴は後方側で待機している魔族兵と豚のような醜悪な顔を持つオーク兵に指示する。

 俺に脅威を抱いているのか、中々自分で戦おうとしない。


「させねーよ、《鋼鉄壁体当たりアイアンタックル》だ!」


 ガイゼンは大楯を前方に翳し、俺に迫る敵共に特攻を仕掛ける。

 猪突猛進の体当たりによる突撃に、魔族兵とオーク兵らは上空へと打ち上げられ飛散した。


「なんだとぉ!?」


「ただ防御するだけが盾役タンクの仕事じゃねぇ! アルフ、お前さんの背中は俺が守ってやる! 思う存分に戦え!」


「ガイゼン、サンキュ!」


 俺は剣を掲げ突進する。

 速攻でゴルゴアとの一騎打ちに持ち込んだ。


 奴は巨大な戦斧を振るい応戦する。

 だが原作ほどの威勢と脅威を感じられない。

 俺のスピードに戦慄するあまり、奴は精神的に逃げ腰となっていた。


 そう、ゴルゴアは対主人公ローグ戦で同じ反応を見せている。

 こいつ、さも猛将っぽく「俺は強者と戦うと血が滾ってくるわ!」的な戦闘狂を装っているが、実はメンタルの弱い無駄マッチョなのだ。


 格下のアルフレッドには「情けない奴め、ガハハハッ!」などと嘲笑い余裕をかましてボコっていたが、主人公ローグのチート無双を目の当たりにして、すっかり心が折れてしまう。

 最後はひれ伏し、挙句の果てには涙と鼻水を垂らしながら許しを請うという、なんとも情けない糞ざまぁ展開だ。


 当然ながらローグが赦すわけもなく、これでもかっというくらいイキリ散らかしてゴルゴアをボコボコにしてトドメに左胸から心臓を鷲掴みにして抜き取るという、正義の主人公とは思えないグロい惨殺劇を披露した。


 この勝利に一部の読者から「いくらなんでもグロすぎ」「ローグがサイコパスに見えました」などクレームの感想が殺到するが、原作者の鳥巻八号を擁護する信者から「ざまぁ最高!」「当然の報いです」という意見が分かれ賛否両論となった。


 しかし今の俺は、そこまでのバケモノじゃない。

 そもそもそんな芸当などできないしな。


 あくまで三倍の強化付与バフの恩恵で全盛期の頃に戻ったまでのこと。

 加えて高級な魔力石を使用することで武器や防具の性能は大幅に強化させている。

 寧ろ当時よりも戦闘力が飛躍している筈だ。


 現に俺はゴルゴアを圧倒している。


「――原作とはちげーんだよ! くらえ!」


 戦斧の猛撃を掻い潜り、もう一歩前へと踏み込む。

 カウンタ―の斬撃で左腕を斬り飛ばしてやった。

 血飛沫と共に奴の腕が回転していく。


「バ、バカな……俺の腕がぁ!? こいつ強い! ならば――」


 ゴルゴアは血相を変えるも、突然ピーッと甲高い音の口笛を鳴らし始めた。

 こいつ何か企んでやがるぞ。

 だがもうじき60秒だ――《神の加速ゴットアクセル》のクールタイムが終わる。

 今度こそ確実にキルする!


 ――そう思った時だ。


「そこの剣士、動くなゲス! こいつがどうなってもいいゲスか!?」


 遠く離れた建物の屋根に、痩せこけた魔族兵が立っており何か叫んでいる。

 奴は拘束されたハンス王子の髪を鷲掴みにして、喉元に短剣ダガーの刃を当てている。


 ハンス王子は見るからに負傷しており、意識がないのかぐったりしていた。

 ちなみに「ゲス、ゲス」言っているのは、あの魔族兵の口癖のようだ。


(……明らかに原作とは違う展開だ。負けそうになり人質を取ったのは、確かゴルゴア自身だった筈……俺が頑張ったせいでムーブを変えてしまったのか?)


 よくよく考えてみれば、このクエストも時期が早い気がする。

 シズクは既にナイスバディの美少女に成長していた頃の話だし、ハンス王子もあそこまで負傷しておらず意識があった。


 ――まさか鳥巻のご都合展開ガバか?


 いや違う、寧ろ主人公ローグ不在でガバがないから正常に事が運んでいるんだ。


 もう60秒を経過している。《神の加速ゴットアクセル》は使えるぞ。

 しかし距離が遠すぎる。約40メートルくらいか……あそこまでは届かない。


 それにもうじき、《三位一体トリニティ》スキルの効果が切れてしまう。

 マカ、ロカ、ミカの話だと次の発動まで5分は要するとか。


 したがってゴルゴアを斃せても、ハンス王子は救えないかもしれない。


 ――どうする、アルフレッド!?



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