第57話 うひひひの入団



 ふとした縁がきっかけで【集結の絆】に入団を希望する、「デバフの魔女」こと呪術師シャーマンソーリア。


「団長くん……昔、本で読んだ英雄譚の主人公にそっくり。ガチ、ツボった……うひひひ」


 壁際から顔だけ出して、そう微笑んでいる。

 美人なのになんか怖ぇーよ。

 例えるならアニメキャラの推しに憧れるようなノリだろうか?


 アルフレッドも今じゃ左目眼帯の強面風だが、黙っていたら主人公顔には違いない。

 ダークファンタジー系のキャラだろうか。

 まぁラウルの従妹らしいし、何より一目置かれた優秀な第一級冒険者だ。


「俺は構わないよ。みんなもいいだろ?」


 団員達への問いかけに、助けてもらった恩義もあってか全員が首肯し受け入れる。

 ガイゼンも「もう開き直るぜ、オレは……」と謎の覚悟を見せていた。


 ソーリアはそれらを目の当たりにし、壁際から出てきて初めて近づいてきた。

 赤い瞳に光がなく病んだような薄ら笑いだが顔立ちは全然悪くない。まるで白ウサギのようで綺麗で可愛らしい美少女だと思う。

 おまけに黒魔道服から浮き出る全身のスタイルも抜群で神秘的だ。


「それじゃ、ボクの入団は認めてくれるんだね? 団長くん、嘘じゃないよね? ね? ね? ね? ね? ね?」


 やたらと「ね」が多いボクっ娘のソーリア。

 何やら嫌な予感もしなくもないが、ゼルネスっていう屈強の暗殺者アサシンを退いた実力は高く評価できる。


 俺はすっと腕を差し伸べ握手を求めた。


「嘘じゃないよ。ソーリア、ようこそ【集結の絆】へ。団長として歓迎するよ。冒険者としての等級はキミの方が上だが、同い年だしこの口調で接しさせてもらう」


 ソーリアは頬を染めて頷きぐっと両手で俺に手を握りしめてきた。


「う、うん、団長くん。末永くよろしく……うひひひ、うひぃ! ぶほっ!」


 ……おっと。

 テンぱっているのか、笑いながらムセ込んでいるぞ。

 なんだか凄い子が入団してきたけど……まっいっか。


 こうして新たな仲間を迎い入れ、【集結の絆】は万全の体勢で難関なクエストに挑むことになった。



◇◆◇



 ――ラダの塔攻略当日。


 各選抜パーティがギルドに集結していた。


 前日、それ以外に申し込んでいた通常の冒険者達が騎士団と共に登頂を目指したらしいが、塔に巣食うモンスターが強力すぎて途中で引き返す羽目となったと言う。

 本来なら【集結の絆】はこの集団とアタックする予定だった。


「運が良いのか悪いのか……トップクラスの連中と共闘することで、登頂できる確率がぐんと上がることになる」


「アルフ、だったら良いことじゃねぇか? 何が悪いんだ?」


 ガイゼンが訊いてくる。


「それだけハードルが上がるって意味だ。場合によっては足手まといと切り離されるかもしれん……まぁ無理して背伸びする必要もないけどな」


 何せ、参加者全員が白金プラチナクラスあるいは黄金ゴールドクラスの猛者ばかりだ。

 中堅クラスの俺達がついて行けるとも思えない。

 まぁそのために第一級冒険者のラウルとソーリアを仲間に加え、彼女達・ ・ ・と手を組むわけだが……。


「――アルフ!」


 おっと噂をすればだ。


 【大樹の鐘】団長のリュンが手を振って駆けつけて来る。

 背後には二人の少年と少女がついて来ていた。


「待たせた。では早速、我が団員を紹介しよう」


 リュンはそう言い、二人の自己紹介をしてくる。


 一人はすらりとした細身で軽装の動きやすい装備、青髪にまだあどけなさが残る童顔の少年。

 彼は盗賊職シーフのベイルと言う、第二級冒険者だ。


 もう一人は大きなリュックを背負った栗色のショートヘアで小柄な少女。

小人妖精族リトルフのようで、名はエリと言う支援役サポーターで同じく第二級冒険者だ。

 ちなみに支援役サポーターとは斥候やモンスターの素材回収など担っており、時に戦闘の支援など担うなんでも屋である。


 ベイルとエリは俺達に向けて「よろしくお願いします」と低姿勢で頭を下げて見せた。

 ぶっちゃけ彼らの方が格上の冒険者だけどな。


「最後に、私こと団長のリュンは第一級冒険者の弓術士アーチャーだ。【大樹の鐘】は以上のメンバーとなる」


 なるほど、前衛となる団員が不在なのか。


 だから逆に前衛が充実した俺達【集結の絆】と組む気になったわけだ。

 それに遠距離攻撃が得意な弓術士アーチャーの存在は頼もしい。しかも第一級のエースクラスときている。


 俺からも各団員達の自己紹介をしていく。


 ちなみに副団長のガイゼンはエリに軽く挨拶を交わし、何故かベイルにだけ「よろしくな!」とやたら握手を求めている。

 こいつ、そんなに男キャラ好きだっけ?

 妻子持ちだから、多分そっち系じゃないと思うけど……。


 そんな中、リュン達はある少女の姿を見て驚愕した。


「お、おま……いえ、貴女はソーリアではないか!? まさか、ソロ活動にこだわる『デバフの魔女』が【集結の絆】に入団したとは……またどういう気まぐれで?」


「推しを見つけたからね。もう団長くんに一目惚れ……うひひひ」


 不気味な笑みを浮かべ、じっと俺をガン見するソーリア。

 あれから事あるごとに彼女に陰から見られているような錯覚に陥っている。

 まさかストーカー気質でもあるのだろうか。


「そ、そうか……うん、アルフよ。キミも随分と物好きだな……うん、実力は確かだろう、うん」


 何、嫌々自分に言い聞かせているんだよ、リュン。

 あれだったら人員不足のそっちにやってもいいぞ。


「――ケッ、雑魚同士が徒党を組んだってわけか?」


 【戦狼の牙】のザックがわざわざ聞こえるように言ってきた。

 奴の背後には筋骨隆々の男女二人が立っている。


 巨漢で全身に分厚い鎧を身に纏う、ダナックという重装戦士ファランクス

 高い攻撃力と防御力に特化した職種だ。


 同じくらいの高身長で男さながらに筋肉質の女、ケティは女戦士アマゾネスで抜群の攻撃力とタフネスに加え軽快な動きが得意だと言う。


 この二人は副団長と補佐であり、ザックを支える幹部だとか。

 そうリュンから舌打ちを交え教えられた。


「いちいち絡んでくるのはやめろ、ザック。実は構ってちゃんか? 少なくても50階まで共闘する仲間だろーが?」


「アルフレッドと言ったな? テメェ、第三級の癖に随分と偉そうじゃねぇか? 噂じゃ素行が悪くて【英傑の聖剣】ローグから追放されて降格になったと聞くぜ?」


「多少の尾鰭を付けられているが、ほぼ正しい。だから否定はしない」


「……そんな野郎がどうして国所有の聖武器を所持できるんだぁ? そいつは所有者を選ぶタイプの筈だぜ?」


 聖武器にも色々な種類がある。

 まずはザックの言うように予め国が所有する聖武器だ。


 基本こちらは国王が認めた功績により、試練の場が与えられ聖武器に選ばれることで初めて所有することができる。


 もう一つは今回挑む「ラダの塔」のように直接試練の場に乗り込み攻略することで、獲得できるタイプだ。


 基本どちらも聖武器になので目立った性能差はないが、強さだけでなく人格も試される聖武器の方が選ばれた勇者の活躍もあって由緒ある武器とされていた。


「知らねーよ。ただ一つ、改心すれば聖武器も認めてくれるってところかな。まぁ他人を雑魚と罵る奴じゃ、まず無理だろうがな」


「チッ、気に入らねぇ野郎だ……くれぐれも足引っ張るんじゃねーぞ、コラァ!」


 ザックは俺を睨みつけると、捨て台詞を吐き仲間と共に去って行く。

 やたら聖武器にこだわり絡んでくる白狼族ホワイトウルフ君だ。

 なんだって言うんだ?


「……ザックは以前、テスラと並び勇者候補と呼ばれた男だ。だが聖武器の試練で抜くことができず、抜いたテスラ王子が勇者となった。それ以来、制覇することで手にすることができる『ラダの塔攻略』に躍起となっている」


 リュンが小声で教えてくれた。


 つまり同じく聖剣を抜けなかったローグみたいなポジか。

 てか俺、今のやり取りで……奴の地雷を踏んだんじゃね?



―――――――――――

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