第58話 ラダの塔攻略戦



「――諸君、これよりラダの塔攻略を目指しアタックを開始する! 覚悟はいいな! 制覇した者には聖武器が与えられ、またオルセア神聖国の歴史に英雄として名が刻まれるであろう!」


 ラダの塔、10階にある神殿の間にて。


 巨大な扉の前で、勇者テスラが集められた冒険者達の前で鼓舞している。

 彼の前には【太陽の聖槍】副団長の魔法士ソーサラーフィーヤを含む10名の団員達が横一列に並んでいた。

 確か全員が第一級の冒険者で、より選抜された超エリートだとか。

 無論、彼らも聖武器獲得を目指すことになるだろう。


 けど、あれ?


「勇者テスラは聖武器らしきモノを持っていないようだが?」


 黄金色の軽装型鎧を身に着けているが武器らしい装備は見られないぞ。


「聖武器は所有者の意志で自在に形状を変えられるからな。おそらく携帯しているのだろう。確か勇者テスラの本業は槍を主体とした槍術士ランサーだ」


 リュンが教えてくれる。


 槍術士ランサーか……だから【太陽の聖槍】というパーティ名なのか。


 集まっている冒険者の数は約160名ほどで騎士団が50名と、まるで魔王軍と戦うと言わんばかりの大人数だ。

 それでも【戦狼の牙】などの集団クランパーティは参加人数を制限しているらしく、第一級冒険者のみで編成しているとか。

 したがって、どのパーティも中等級である俺達【集結の絆】を疎ましく思っているようだ。


 ちなみに、スライムのスラ吉はギルドで預かってもらっている。

 チートすぎて逆に他の冒険者から討伐対象に挙げられないか不安を覚えたからだ(スラ吉がいたら修行にならねーし)。

 


 間もなくして封印されていた大扉が解錠され重々しく開かれる。

 原作ではローグのアホが勝手に封印を解き不法侵入した扉だ。


 解放後、騎士団が先行し階段を上って行く。

 次に勇者テスラを率いる【太陽の聖槍】、そして冒険者達という順番で進む。


 ちなみに俺達【集結の絆】は最後尾である。

 想定内だな。寧ろ有難い隊形だ。


 勝負どころはあくまで50階層のボス戦――。

 それまで力を温存できればいい感じだろう。


 リュンの情報だと内部は巨大な迷路状態になっているとか。

 また階層によってショートカットして登れる階もあるらしい。


「打合せ通り騎士団の案内は19階までだ! 20階以降から我らと諸君らのみで登頂を目指すことになるだろう!」


 つまり本来の塔を守護する聖装甲騎士アーマーナイトは、騎士団が相手してくれるようだ。



 そして、11階に到達した途端、配備された聖装甲騎士アーマーナイト達が機動し襲い掛かってきた。

 全長三メートルほどの巨人であり全身を装甲で覆われたゴーレムだ。

 序盤は雑魚だが階を上るごと強くなる筈である。

 また破壊された聖装甲騎士アーマーナイトは数時間後に自動修復され勝手に定位置に戻り、冒険者達が撤退するあるいは引き返す際は襲ってこないという仕組みらしい。


 騎士団は難なく撃破し、19階まで難なく到達した。

 最後尾の俺達はその残骸を眺めながら前に進んだ。


「殿下、どうかご無事で!」


「冒険者の諸君らに武運を!」


「ラダの塔を攻略し神聖なる塔に戻してください!」


 ここで騎士団が撤退することになり、テスラと冒険者達に激励の言葉を投げかける。

 いよいよ20階か、急に緊張感が漂ってきた。

 


◇◆◇



 階段を昇り広い空洞に出た。

 辺りは異様なほどに静まり返っている。

 最奥に次の階へ上る階段があると言う。


「ここからが本番だ……」


 前方で歩く冒険者の誰かがそう呟いていた。


 進む度に大きな刃物で切りつけたような跡や何かに引きずられたような血痕、腐り異臭を放つ死骸は発見される。

 中には臓器だけ繰り抜いた変死体もあった。


「前回よりも酷い状況だ……クソッ、モンスターめ!」


 リュンは怒りを込めて吐き捨てる。


「見ろ、魔蟲らしき死骸も転がっているぞ。これってモンスターじゃないのか?」


 約30センチくらいの蠅や蜂に似た姿。当然、本物の昆虫にしてはかなり大きいが、魔蟲モンスターとしては小型な方だ。


「ここは群体型の巣というわけか……いちいち構ってられん。皆、一気に駆け上るぞ!」


 テスラの指示に、冒険者達は階段を目指して突っ走る。


 間もなくして、頭上から複数の蠅と蜂が飛翔し冒険者達を襲う。

 頭部から突出した刃や腹部の針を向けてきた。


 ブシャ


 鈍い異音と共に異臭を放つ液体が飛び散るように降り注いでくる。

 てっきり攻撃を受けたかと思ったが違った。

 最前衛の【太陽の聖槍】がモンスター達を蹴散らし、物凄い勢いで進撃しているのだ。

 しかも圧倒するほどの移動速度のようで、俺達の前方にいる冒険者達が悲鳴を上げた。


「クソッ、あの連中早すぎる!」


「ちょっと、私達を置いて行く気!?」


「勇者だろうが、何考えてやがるんだ!?」


 どうやらテスラ達は後方の冒険者達を無視して、自分らだけ突進しているようだ。

 既に上の階に向かったらしい。

 おかげで打ち漏らした敵の群体が、残された冒険者達へと襲い掛かってくる。


「冷たい勇者だと言えばそれまでだが、クエスト上は理に適っている。全てのモンスターを相手にする必要はない。嫌なら避けるよう、思考を巡らせとっとと前に進む……交通ルールがある渋滞とはワケが違う――」


 俺は瞬時にそう割り切り、後方で待機する仲間の三つ子をチラ見した。


「マカ、ロカ、ルカ。《三位一体トリニティ》でパーティ全員の移動力と回避力を上げてくれ。他の冒険者は無視し、俺達は前進する。ガイゼン、前衛は頼むぞ」


「「「わかりました、アルフ団長!」」」


「了解だ。けど他の冒険者達はどうする?」


「見捨てる――何せ俺達より格上の連中ばかりだからな。自分の身は自分で守れる筈だ。きっと戦況に応じて無理なら撤退するだろうぜ。全滅させないよう判断するのも第一級冒険者の力量だ。ここにいる冒険者は全員、勇者テスラに選抜されたエース達だと忘れるな」


 実際、各パーティが阿吽の呼吸で陣形を取り対処している。

 わざわざ俺達が手を差し伸べるまでもない。


 それに決起会でボロクソ言われたからな。

 ここは自分達の実力とやらを発揮してもらおうじゃないか。


 間もなくしてマカ、ロカ、ルカの固有スキル《三位一体トリニティ》が発動された。

 俺達【集結の絆】と共闘する【大樹の鐘】全員の移動力と回避力が一斉に三倍ほど向上される。

 他のパーティから抜け出す形で離れた。


「何を考えている、【集結のあいつら】は! 何故、俺達から離れている!? 危ねぇぞ!」


 どこかの冒険者達が指摘してくるが無視する。

 俺達は我が道を行くのみ。


「んじゃ行くぜ――《鋼鉄壁体当たりアイアンタックル》!」


 ガイゼンは大楯を構え怒涛の如く猪突猛進する。

 その鉄壁の防御力から繰り出される体当たりは、迫りくる虫達を全て蹴散らし疾走した。

 俺達は置いてきぼりにならないよう向上した移動力を駆使して、ガイゼンの背後を追尾する。

 おかげで攻撃を受けることなく、無事に20階を突破した。


 リュンの情報によると、このような直線状のルートは28階まで続いているとのことで、《三位一体トリニティ》の持続時間を計算しインターバルを挟みながら繰り返していく。


 途中、行き遅れた冒険者達が体躯の大きい魔蟲モンスター相手に苦戦を強いられていた。

 進路方向であれば、俺の《神の加速ゴッドアクセル》ついでに瞬殺し、問題なさそうなら放置して先に進むなどクエスト優先で対処する。



 そうして28階まで到達した時、ようやく勇者テスラ達と合流した。


 が、


「――テスラ! オメェどういうつもりだ、コラァ!」


 おっと。

 【戦狼の牙】のザックがテスラの胸ぐらを掴み、何やら揉めているようだ。



―――――――――――

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