第46話 推しのサムライガール



 ローグの奴、今更何しに来やがったんだ?

 そんな野郎の背後には幹部のダニエル、フォーガス、ラリサが相も変わらず並んでいる。

 うぜぇとしか言えねぇ。


「いやぁ、随分と大変だったようだねぇ? まさか相手がザラタンだったとは……ゲインは残念なことになったけど、冒険者だから危険はつきものだし仕方ないよねぇ?」


 ローグの言っていることは間違いじゃない。

 が、こいつは団員達が危機を知らせ応援を呼びかけたというのに無視して、ラリサとイチャコラしている最中だったと聞く。

 その時点で十分に最低でアウトだと思う。


 読めたぞ、この野郎……。


 どうやらその事で、ギルドマスターから注意を受けて呼び出されたってところか。

 クエスト失敗どころか放棄だからな。

 悪役アルフレッドでさえ、んなことなかったのに酷い主人公様だ。


 そんなローグの言動に、カナデはギリっと奥歯を噛み締める。


「……団長の仰ることは一理あります。ですがダグ達が危機を知らせたにもかかわらず、其方は一切動こうとはしなかったとか?」


「こっちも込み入った事情があったんだよ(ラリサとのスキンシップでね)。それに、これはキミが招いた事態でもあるんじゃないのか、カナデ?」


「どういう意味でしょうか?」


「キミは以前から僕の《能力貸与グラント》を拒んでいた。もしキミがちゃんと強化貸与バフを受けていればゲインも死なずに済んだし、ザラタン如きにそんなピンチにもならなかっただろう。違うか?」


「ローグ団長の仰る通りです。我ら【英傑の聖剣】の団員であれば、バフは通過儀式のようなモノ。今回の件はそれを拒んでいた貴女の非ではないでしょうか?」


「……だな。そりゃ団長だって素直に応じる気にもならねーよ。お前がいくらピンチになろうと、それは自業自得なんだからな」


「そうギルドマスターにも説明して『パーティ内の事情が故』で処理してもらったわ。だってぇ、強くしてもらえるのに拒むアンタの方が問題でしょ? フフフ」


 ローグに続き、幹部達も応戦してくる。

 なるほど……ギルドマスターにローグの《能力貸与グラント》を説明し不始末を回避したってわけか。


 確かにメリットだけ聞けばチートスキルそのモノだからな。

 普通、冒険者が強くなるのにバフを拒む奴はまずいないだろう。

 ましてやクエスト達成する気があれば尚更だ。

 したがって、ギルド側もカナデにも落ち度があると判断されたようだ。


 おそらく入れ知恵したのは、ブレーンのダニエルか……。

 知能デバフ主人公のローグじゃ思いつけない言い訳だからな。


「それでも所属する団員がピンチだというのに手をこまねいていたパーティ側にも非があるんじゃないでしょうか!? 現に【集結の絆】を始め多くの第一級の冒険者さんにもご迷惑おかけしたのですよ!」


 受付嬢のルシアがここまで批判するのは珍しい。

 いや原作だとアルフレッドに対してはこんな態度だった気がする。

 けど悪役である奴でさえ、ここまで杜撰なことはしてなかったぞ。


「やれやれ……だからパーティ内の事情ってことで処理されただろ? それに今回の報酬も【英傑の聖剣ウチ】は受け取らないとギルドマスターに申し出ている。あと【集結の絆】さんだっけ? そちらのパーティと第一級の冒険者さん達に詫び料を払うということで、ギルド側と示談しているんだ。たかが受付嬢如きにごちゃごちゃ言われたくないよ、やれやれ」


「なので、こちらとて貴重な団員を失いお金も払う羽目になっているのです。言わば痛み分けと理解して頂きたいですねぇ……」


「まったくだ……融通が利かない団員のせいで、誠意を見せるため俺ら幹部までこうして出でこなきゃならない始末だ」


「マジでお荷物だよねん。いっそ故郷の極東方面に帰ったら?」


 ローグと幹部連中が嫌味たっぷりに、ルシアに説明してくる。

 さもカナデに非があると言わんばかりにだ。

 しかし副団長の魔法士ソーサラーダニエルが入れ知恵しているだけあり、対応処理能力だけはやたら高い。


 おかげで論破されたルシアとカナデは何も言えなくなり俯いてしまった。

 特にカナデは悔しさで拳を握り締め肩を震わせている。

 彼女は直情的な脳筋キャラだからな……本来、こういった場は得意ではない。


 だが俺も今、ラリサの一言でピーンと閃いたぞ。


「――確かにローグ団長が仰る通り、パーティ内の事情だ。ギルドがそう認めたなら、俺達からは特に言うことはない。ましてや、付与術士エンチャンターである団長の強化バフを拒むなど、強さを求める冒険者としては問題児かもな」


 俺の言動に、ローグがニヤっと口端を吊り上げる。


「その通りですよ、アルフレッドさん……やれやれ、アンタもようやくその事に気づいてくれましたか? 遅すぎだっつーの!」


「まぁな。【英傑の聖剣】がそれで成り立っているなら、カナデはお前にとって不要な団員なのだろう。何せパーティで定めた規約を違反しているのだからな……そのせいで団員から死者も出してしまい、余計な詫び料も支払う羽目になったんだろ?」


「え? ま、まぁね……」


「ならば」


 俺はカナデの肩に腕を回し、ぐいっと彼女引き寄せる。


「――今からカナデは俺がもらう」


「なんだってぇぇぇ!?」


 思わぬ提案に、ローグが狼狽し声を荒げる。


「え? アルフ殿……?」


 言われた本人でさえ不思議そうな表情を浮かべ、間近で俺の顔を見上げている。

 ほんのりと頬を赤らませながら。


「どういうことだ、アルフレッド!」


「ん? なんのことだ? ローグお前まさか、ここまでやらかした団員を追放せず、まだ所属させるつもりなのか?」


「ああ、そうだよ! そいつは僕の女……じゃなかった、団員として再教育してやるんだよ! 僕は寛大なんだ、やれやれ!」


 何がやれやれだ……テメェの魂胆は見え見えなんだよ。

 どうせ今回の件を出汁にカナデに男女の関係を迫るつもりだろ?

 俺の推しに、んなことさせるかっての。


「可笑しいだろ? これほどパーティに迷惑を掛けたんだ。何かしらの処分は必要の筈だ。特に集団クラン級の組織なら他の団員に示しがつかんだろ? それとも何か下心があるのか?」


「はぁ? んなもんねーよ! そんなの【英傑の聖剣ウチ】の勝手だろ! 追放されたテメェが吹いてんじゃねぇ! やれやれ、バーカ!」


「やれやれって何だよ? まぁいい……ってことは、後は当人同士の意向ってことだろ。カナデはどうしたい?」


「――私は責任を取り【英傑の聖剣】を退団いたします」


 迷わず答えた。

 そして俺から離れ、ローグに近づき一礼する。


「今まで世話になった、団長」


「待ってくれ、カナデ! 僕は赦すと言っているんだ! 今夜、僕の部屋に来い! 二人で朝まで話し合おう、な!?」


 彼女とのワンチャンを狙っているのか、やたら往生際の悪いローグ。

 すっかり周りのみんなが白い目で見ているぞ。

 お前の浅ましい考えなどバレバレだ。


 カナデは顔を上げ、凛とした眼差しでローグを見据える。

 その真っすぐな瞳に、奴は何故か安堵した表情を浮かべた。


「……カ、カナデ?」


「失礼する」


 刹那



 バキィッ!



「ぶほぉぉぉぉ――!」


 ローグが宙を舞い床に叩きつけられ転がっていく。

 なんとカナデが思いっきり奴の顔面を拳でブン殴ったのだ。


「話し合う余地などございませぬ! これで追放される理由になりましたな!」


 流石、推しのサムライガール。

 やることが男前すぎるぜ……美少女だけど。



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