第47話 主人公を超える日



 その光景をギルド中の誰もが唖然として見入っていた。


 ローグは頬を腫らし口と鼻から血を垂らしながら、床でぴくぴくと痙攣している。

 嘗て俺達の能力値アビリティとスキル経験値ポイントを没収し、チート級の強さを手にした奴とて、不意をついた拳撃は躱せなかったようだ。

 ローグ自身がテンパって油断していたこと、さらに予備動作の少ない刀剣術士フェンサーならではの技能スキルも相俟ったヒットだろうか。


 まぁカナデは冒険者の等級こそ第三級冒険者だが、実力は幹部にしても可笑しくない子だ。

 ゲーム世界で例えるなら、まさしく会心の一撃クリティカルヒットだと言えるダメージだろう。


 ローグはすぐに意識を取り戻し、小刻みに身体を震わせながら起き上がる。


「……ど、どうじて、僕が殴られなきゃならないんだ?」


「団長に手を上げる団員は最早団員にあらず――そういうことで退団を認めてもらいたい」


 何故かローグじゃなく、幹部達に問うカナデ。

 そういや団長の意志がなくても、幹部全員が認めれば退団することが出来るルールが【英傑の聖剣】にあった。


「……ここまで事を荒立でてしまえば認めざる得ないでしょう」


「抜けたい奴を留めておく理由はねぇ」


「好きにすればいいわ」


 ダニエル。フォーガス、ラリサもローグほど執着がないだけにあっさりと認めた。


「ま、待て……僕は認めてないぞぉ!」


 ローグは生まれたての小鹿のように足を震わせ立ち上がる。

 まだ意識が朦朧としているのに大した根性と執念だが、目的があくまでカナデとのワンチャン狙いだからろくでもねぇ。


「――ローグ団長! 俺達も今すぐ【英傑の聖剣】を退団します!」


 割って入る形で言い出したのは、ダグだった。


「な、なんだと!? お前ら正気か!?」


「正気よ! 私達はもう貴方の支配を受けないわ!」


「そうです! いつも貴方の機嫌を損ね、私達の能力値アビリティを没収されないかびくびくしていましたが、もういい加減うんざりです! 抜けさせて頂きます!」


 続いてサランとトッドも退団を訴えてくる。

 その確固たる意志に、ローグは「ぐぅ」と唸り声を上げ何も言えなくなった。


「ど、どいつもこいつも勝手にしろ! 後悔しても知らないからな! 行くぞ、みんな!」


 ローグは捨て台詞を吐き幹部達と共にギルドから去ろうとする。

 とても本編主人公とは思えない、なんとも滑稽で情けない姿だ。


「待ってください、ローグ!」


 不意に声を掛けてきたのは、なんとシャノンだ。

 嘗ての幼馴染から呼びかけに、ローグは「え?」と足を止めた。

 何やら期待を込めた眼差しで彼女を見ている。


 が、


「そのみっともない顔の傷、わたしで良ければ治癒しましょうか? 後々暴行罪とかで訴えられ、カナデが罪に問われても厄介なので」


 どうやらローグに対しての配慮は微塵もなく、カナデが面倒ごとに巻き込まれないための提案だったようだ。


「うるせーっ! 訴えねーよ! 二度と僕に話かけるな、裏切り者の天然女がぁぁぁぁ!!!」


 激昂し今度こそローグはギルドから出て行った。

 もうこの二人も既に関係が冷めきり終わっているみたいだ。


 だがこれでカナデ達の退団が正式に認められた。


 その後、騒がしかったギルド内が一気に静寂に包まれる。

 カナデは俺に向けて一礼した。


「アルフ殿、私のためにああ言って頂き感謝します」


「別に大したことしてないよ。けど俺は本気で、キミを【集結の絆】に加入させたいと思っている。是非に入団してもらえないか?」


「……本当に私でよろしいのでしょうか?」


「カナデだから言っているんだ。そのためならクエストの報酬やローグの薄汚い詫び料もいらない。無論、俺だけじゃない。パーティ全員がそう思っている筈だ、なぁみんな?」


 俺の問いに【集結の絆】メンバー全員が頷く。


「勿論、オレは歓迎するぜ。以前から見どころのあるネェちゃんだからな(益々女子率が高くなっちまったが……もう開き直るしかねぇ)」


「パルもいいよ。カナデ好き」


「わたしも凄く嬉しいです。ようやく一緒に冒険することができます」


 元同じパーティだった、ガイゼンとパールとシャノンは温かく迎えてくれる。


「ご主人様がお認めになる方なら、私が拒むことはありません」


「アタシはいいけど、アナタ……結構、綺麗よね? アルフの寝込みを襲わないと誓うなら認めてあげるわ」


 本編のヒロインズであるシズクとピコも了承してくれる。

 特にピコは何んの心配をしているんだ? てかシズクと自分に言えよ。


「マカ達も新人みたいなものなので構わないわ」


「いい人そうですし、よろしいのではないしょうか」


「極東の人でしょ? 向こうの話を聞かせてぇ!」


 マカ、ロカ、ミカの小人妖精族リトルフも満場一致だ。


「皆、これからよろしく頼む――」


 カナデは深々と頭を下げて見せる。


 かくして彼女のパーティ加入が決まった。

 これからは俺と一緒に前衛を務めてくれることだろう。

 ほぼ戦闘時の布陣が固まったぞ。


「良かったわぁ、アルフレッドくんならカナデさんも安心ね。私も応援するからね」


「ルシア殿、色々と配慮してくださり真にかたじけない」


「言ったでしょ、それが私の仕事だって……ダグさん達はどうするの?」


 ルシアは同じく退団したダグ達に話を振る。


「当面は三人で冒険者を続けるよ。ただしルミリオ王国以外の国に移るつもりさ」


「なんだと? そうなのか?」


 カナデの問いに、サランが頷く。


「そうよ。話し合ってそう決めたの……このままルミリオにいても、嫌でも【英傑の聖剣】とかち合うでしょ? 私達、アルフレッド団長達ほど強くないから」


「亡きゲインの分も含め頑張ります。目指せ、【集結の絆】ということで……カナデも頑張ってください」


「トッド……そうか。ありがとう、皆も元気でな」


 どうやら三人とも別の国で冒険者を続けるようだ

 既にローグから離れることで《能力貸与グラント》効力が消え、能力値アビリティが没収された状態だろう。

 きっと一からの再出発となる。


 そのダグ達が、俺に近づいてきた。


「アルフレッド団長……最後に一言よろしいですか?」


「なんだ?」


 すると三人揃って頭を下げて見せた。


「「「裏切ってしまい申し訳ございませんでした!」」」


 そう声を揃えて詫びきた。


「気にするな。こっちにも身に覚えのあることだ(全て最初のアルフレッドのせいだけどな)」


「それでも俺達は貴方を見限ってローグを選んでしまった」


「裏切ったら私達の能力値アビリティを没収すると言われて半ば強引に……」


「無論、言い訳にしかなりません。ですがカナデが根気よく我らを説得してくれたおかげで、ローグの傀儡にならず済みました」


 やはりそういうことか。おそらくほとんどの団員がそのように脅され、あの『嘆願書』にサインしたのだろう。

 どちらにせよ、もう咎める意思はない。

 

 俺はフッと微笑を零して見せる。


「そうか……三人とも頑張れよ。俺が言うのも変だが、真面目に精進すれば案外なんとかなるものだ」


「アルフレッド団長……ありがとうございます!」


 こうしてダグ、サラン、トッドの三人と和解する形で別れた。


 見送った後。


「しかしアルフレッド、あんたとローグとの器の違い見せてもらったぜ」


 駆けつけてくれた第一級冒険者のリーダーが声を掛けてくる。


「どういう意味だ?」


「そのまんまの意味さ……やはり【集結の絆】は侮れない。近い内にさらにデカくなり強くなるだろう。俺達も良い刺激を受けさせてもらった」


「そうね。いずれ肩を並べる……いえ、ルミリオ王国を代表するパーティになれるかも」


「ああ今でこそ【英傑の聖剣】がトップだが、あんな団長じゃいくら団員を強くしても先が見えている……連中が落ちぶれた時、アルフレッドあんた達の出番だ」


 なんだかトップクラスの冒険者達に、えらく気に入られてしまったようだ。


 ――悪役アルフレッドが主人公ローグを超える日だと?


 まぁ、鳥巻八号の原作世界である限りそれはないだろう。

 信じる者はガバ(バカ)を見る世界だ。


 どうせそのうち、軌道修正するため災害の如くご都合主義ガバが発生するに違いない。

 俺はただ、理不尽にざまぁされないよう原作知識を活かし防衛線を張るだけだ。



―――――――――――

次回予告:いよいよあの方が降臨するかも……ひぃ!


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