第45話 一目置かれる悪役



 巨大亀モンスター、ザラタンを討伐した頃。


「――《聖女息吹セイントブレス》!」


 シャノンの固有スキルが発現された。

 祈りを捧げる背後から、光で構成された女神の幻像が現れ浮上する。

 光の女神は傷ついたカナデに向けて息吹を吹き込んだ。

 すると失った右腕が再生され、他の外傷も綺麗に治癒されていく。


 あれだけの重症を一瞬で……死人の蘇生は不可能だが、それ以外ならどんな治癒可能とする。

 まさしく女神の奇跡を目の当たりにしているようだ。


「う……うん、私はいったい?」


 回復したカナデが目を覚まし、同時にシャノンの背後に浮かぶ女神が消失した。


「もう大丈夫ですよ、カナデ」


「シャノン殿? それに……アルフ団長?」


 カナデは起き上がり周囲を見渡した。


「よぉ、久しぶりだな」


「はい……どうやら、私は皆さんに助けられたようだ。感謝の念が尽きませぬ」


「ったく無茶しやがって……同じパーティなら怒鳴っているところだぞ」


「アルフ団、いえアルフ殿……私には仲間を見捨てることはできませんでした。それにダグ達を見て、ローグ団長の《能力貸与グラント》スキルには致命的な欠点があることに気づいたもので……」


「欠点だと?」


「はい。《能力貸与グラント》は確かに脅威的なバフを施し永続可能とする非常に強力なスキルですが、肝心の精神面は未熟のままだということです。現にダグ達は私よりも等級が上の冒険者だったにもかかわらず、盗賊シーフのゲインを失ったことで酷く狼狽し戦えぬ状況でした……」


 それでカナデが身を挺して逃がしたってわけか。

 いくら肉体を強化されようと、普段からろくに鍛錬せず困難もなく戦っている連中なので、いざ局面に立たされると使い物にならなかったというわけだ。

 確かに精神性を重んじるサムライガールにとって致命的な欠点と感じるだろう。


「「「アルフ団長、《三位一体トリニティ》の効力が切れます」」」


 マカ、ロカ、ミカの知らせに俺は頷いた。

 彼女達の固有スキル《三位一体トリニティ》の持続効果は5分間ほどである。

 俺のような速攻タイプと抜群に相性が良いスキルだ。

 この三子の付与術士エンチャンター達がいれば、タイマン戦ではほぼ無敵だろう。


「……格上の敵や作戦上の強化付与バフなら俺は有だと思っている。そのための付与術士エンチャンター職だからな。だがカナデが言うように鍛錬と経験はいざって時の覚悟と糧になるのも確かだ。正直、【英傑の聖剣】はその精神に欠いているだろう……元団長の俺が言うのも可笑しな話だがな」


「しかし貴方はその事に気づき、ローグ団長に制止を呼びかけたと聞きます。だが彼を含む今の幹部達には届かず、貴方が追放されてしまった……私はとても無念でした」


「もう過ぎた話だ(半分以上はアルフレッドの責任だからな……)。立てるか、カナデ?」


「は、はい……」


 カナデは俺が差し伸べた手を少し躊躇しながら握りしめ立ち上がった。

 なんだか顔色が赤くなっているような気がする。

 結構、血を流していたが貧血とかではなさそうだ。


「どうした、どこか具合でも悪いのか?」


「い、いえ……なんでもございませぬ」


「アルフさん、そろそろここから離れましょう」


 カナデがもじもじと身体をくねらせる傍ら、シャノンが語気を強め言ってくる。

 なんか不機嫌じゃね?


「わかったよ。みんなもよくやった。怪我はないか?」


「ああ問題ねぇ。鋼鉄を切り裂くって言われる、ザラタンの爪撃を完璧に防いでやったぜ!」


 ガイゼンは誇らしげに大楯を見せてくる。

 まぁ固有スキル名は《鋼鉄壁アイアン》っていうからな。

 実際はそれ以上の強度だろうぜ。


「パルも大丈夫。カナデが無事で良かった」


「私も問題ありません、ご主人様。しかしカナデ様はいつまでご主人様の手を握られているのですか?」


「浮気は駄目だからね、アルフ!」


 シズクとピコの指摘を受け、俺とカナデは慌てて手を離す。

 しかしピコさん、いい加減彼女ヅラすんのやめてくれる?



「――おい見ろ、ザラタンが斃されているぞ!」


 水路を渡って他の冒険者達が近づいてくる。

 その数は5名ほどいた。

 おそらく、ルシアが派遣した第一級の冒険者達だ。


「アルフレッド、あんた達【集結の絆】で斃したというのか?」


「ああそうだが」


 リーダー格の冒険者に問われ、正直に答えると他の連中が「ええ!?」と驚愕してくる。


「……嘘でしょ? 【集結の絆】は白銀シルバークラスで、アルフレッド貴方も第三級冒険者でしょ?」


「ザラタンを斃せる冒険者パーティといえば黄金ゴールドクラス以上、しかも第一級の冒険者が数人は必要となる筈だ」


「ウチには優秀な第二級冒険者の付与術士エンチャンターが三人もいるからな。それとチームワークなら白金プラチナクラス並みだと自負している……とはいえ、駆けつけてくれた貴方達に感謝する。何しろ相手が相手だけに、不測の事態も想定していたからな」


 俺が素直に頭を下げ感謝の意を示すと、リーダーの冒険者は「いやぁ」と照れていた。


「同じ国同士の冒険者だ。困った時はお互い様だろ……にしてもアルフレッド、俺は七級冒険者の頃からあんたをずっと見てきたが、すっかり変わっちまったな。降格したとは思えない、威厳とオーラを感じるぜ」


「そうね。今の方がいい感じ……貴方だけじゃなくパーティ全員がね」


「逆に脅威すら感じているくらいだ。上を目指す者同士としてな。ある意味、今の【英傑の聖剣】以上だと思っているぜ」


 随分と第一級の冒険者達からライバル視されている気がする。

 彼らの方が俺達より相当格上の筈なのだが……。


 まぁ俺達はその評価に値するよう精進すればいい。

 スローライフを満喫する主人公だって最強であるが故だ。

 んじゃなきゃ、ただの無気力な駄目ニートだからな(笑)。


 とにかく、これで無事にクエストが終了したぞ。

 尚、ザラタンの死骸はスラ吉が美味しく頂き体内に取り込み吸収している。

 その光景を第一級の冒険者達がドン引きした眼差しで見入っていた。


「うっ……」


 カナデは足元がふらつき、まともに歩けない様子だ。

 大量に血を失ったこともあり仕方ないだろう。


「どれカナデ、俺がおぶってやる」


「え? は、はい……」


 照れながらも受け入れる、カナデ。

 普段は凛とし毅然な姿勢だが、いつになく素直な気がする。


 けど何故だ?

 パーティの女子達の視線が痛いのだが。


 こうして俺達は地上に戻った。

 


◇◆◇



「おお、カナデ! 無事だったか!」


「心配したのよ! 良かったわ……」


「あの時は本当に助かりました! ありがとうございます!」


 冒険者ギルドにて。


 ダグ、サラン、トッドが出迎えて来た。

 カナデはふらつく足取りで三人に近づく。


「見ての通り、【集結の絆】殿らに助けられた……心配かけてすまない。ゲインを失ってしまったが、其方達だけでも無事で何よりだ」


「「「うっ……うう」」」


 カナデの言葉に三人は涙を流している。

 生き残った側の責務として、これからはゲインの分まで真っ当に生きることが弔いになるだろう。


「アルフレッドくん、ありがとね……派遣した冒険者から聞いたけど、結局キミ達でザラタンを斃したんだって?」


 受付嬢のルシアが優しく微笑んでいる。


「まぁなんとかね。ルシアも第一級冒険者達を集めてくれてありがとう」


「冒険者達のサポートが私の仕事だからね……けど仕事を放棄した最低の第一級冒険者も来ているようだけどねぇ」


「どういう意味だ?」


「すぐにわかるわ……ほら」


 ルシアがそう言った直後だ。


「――やれやれ。無事で何よりだよ、カナデくん」


 奥側から聞き覚えのある男の声。

 すると周囲の冒険者達がざわつき二つに割かれた。


 その中央で悠々と歩く黒髪の青年――ローグだ。


「……ローグ、団長」


 カナデの目尻が鋭く吊り上がった。



―――――――――――

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