第60話 小休止の打ち合わせ



 勇者テスラの話では他のパーティ達は全員脱落したとのこと。


「途中で『妖蝶プシュケー』が現れてね……やつらが撒く鱗粉で多くの冒険者がリタイヤしてしまった。さらに複数の『爆烈フライ』が奇襲を仕掛けてきて、僕ら【太陽の聖槍】以外は壊滅状態だ……したがって見ての通り残ったのは、このメンバーのみとなる」


 妖蝶プシュケーとは少女のような見た目をした大きな蝶だ。

 羽から特殊な鱗粉を振りまくことで幻影を見せたり睡眠効果を与えるなど異常状態にする。


 爆烈フライは大きな蜻蛉トンボの魔蟲で、集団性を持ち高速に飛行する能力に長けていた。

 最も厄介なのはその習性にあり、標的を見つけては突撃してくる点だ。

 しかも体内には高熱核が宿っており体当たりすることで爆発する自爆戦法を得意とする。


 ザックら【戦狼の牙】の損傷や団員のリタイヤも、この爆烈フライの特攻によるダメージらしい。


 にしても俺達が遭遇しなかった強力なモンスターばかりだ……。

 これもルベルの固有スキル《聡明な導きサインポスト》で最適ルートを進んだからだ。


「見捨てた俺が訊くのもアレだが、リタイヤした冒険者達はどうなったんだ?」


 予め勇者テスラから「同い年なので敬語は不要だ」と言われているので、王子だけどタメ口で問い質してみた。


「さぁね。一応は各団長に向けて、僕の方から撤退するよう伝えているからな。仲間達を抱えて逃げたんじゃないか? あるいは今の僕らのように階段で避難しているかだ……ここなら魔物が襲ってこない安全エリアだからね」


 勇者テスラ曰く「第一冒険者なんだから、そこまで面倒見切れない」と吐き捨てる。


「ふざけるな! 俺は団員を5名も失ったんだぞ!! とんだ貧乏クジ引かせやがってぇ、クソォ、クソォ、クソォォォ!!!」


 ザックはシャノンに治癒魔法を受けながら悪態をついている。

 どうやら半数の仲間が爆烈フライの特攻により餌食となったようだ。


「冒険者である以上、危険はつきものだ。そんなの基本だろ? 団員を失いたくなければ見極め撤退を判断するべきだった。しかしザック、キミは進むべき道を選んだ。それがこの結果じゃないのか?」


 相変わらず厳粛ストイックな勇者テスラ。

 正論だけに身も蓋もない。

 治癒を終えたザックは立ち上がり、「この野郎!」と叫びながらテスラに掴みかかろうとする。


「いい加減にしてください! 揉めている場合ですか!」


 聖女シャノンの一括で、恩を受けたザックは立ち止まり「ぐっ」と奥歯を噛み締める。


「ザック、シャノンの言う通りだぞ。あんたも団長なら残りの団員を大切にしろ。ここで撤退するという手段もあるだろ?」


「うるせぇ、アルフレッド! 俺様は絶対に諦めねぇ! 必ずラダの塔を制覇して聖武器を手に入れてみせるんだ!」


 相変わらずムカつく白狼獣人族ホワイトウルフだ。


 けど不思議と嫌いになりきれない。


 このザックって男……決して悪役ではないし腐った性格のクズでもないが、どこか原作のアルフレッドを彷彿させる気概がある。

 プライドが高く負けん気が強くて攻撃的な性格。トップに成りあがろうとする姿勢が特にな。

 まぁ前世の事なかれ主義で生きていた社畜時代の俺じゃ、間違いなく避けたくなるタイプだけど。


 俺はフッと笑みを零した。


「――だったら俺達と手を組めよ」


 不意の提案にザックは「はぁ!?」と意外そうな表情を浮かべる。


「な、なんだと!? どういうつもりだ、アルフレッド!?」


「この塔を制覇するには仲間が多い方がいいと言っている。リュンの情報によると、最頂部には確かにボスらしきモンスターが徘徊しているそうだ。きっとそいつを斃さなければ、聖武器の入手は難しいだろうぜ」


 ここまで来たら隠す必要もないと判断し、俺は奴らに情報を与える。

 当然ながらテスラも話に食いつく。


「その情報は本当なのか、リュン?」


「ああ、そうだ。マンティスをより巨大化し異形と化した姿をしている……前団長と多くの仲間達がそいつの餌食となった」


「異形の巨大マンティス? フィーヤ、知っているか?」


「……実物を拝見しないと確信はもてませんが、『マンティス・アーガ』である可能性があります」


「マンティス・アーガだと?」


 テスラの問いに魔法士ソーサラーフィーヤが首肯する。

 彼女は勇者パーティの副団長だけでなく、若くしてオルセア神聖国に仕える宮廷魔法師でもあり「知識の賢女」という通り名を持つとか。


「マンティスの体内に強大な『魔核石コアストーン』を取り入れることで、意図的に進化せる古代魔法の秘術です。伝承では大魔導師が秘宝を守らせるため作り出し護らせていたとか」


 フィーヤの説明に、俺は顔を顰める。


「おいおい、それじゃラダの塔の異変は誰かの作為によるものだと言うのか?」


「それはなんとも……ただマンティス・アーガは他の魔蟲を呼び寄せ従わせ縄張りを造る習性がある、言わば蟲の王です。ラダの塔を変貌させた元凶なのは確かでしょう」


「……つまり、そいつを斃せば聖武器が手に入るってわけか――チッ、しゃーねぇ! アルフレッド!」


「なんだよ、ザック?」


「お前達と手を組んでもいい……いや組ませてくれ! 頼む!」


 意外にもザックは俺に頭を下げて見せた。

 プライドの高い奴が格下である俺に対して――。


「そうするつもりだったから構わない。ただ一つ約束してくれ」


「なんだよ?」


「もう二度とリュン達【大樹の鐘】を雑魚呼ばわりするなよ。彼女達はとても優秀だ。俺達【集結の絆】がここまで来れたのも半分以上は彼女達の功績によるものだからな」


「アルフレッド……」


 リュンが瞳を潤ませ、俺の方を見入っている。

 別にウケ狙いとか持ち上げようとしているわけじゃない。あくまで事実を述べただけだ。


「……んなの最初からわかってらぁ。けど、リュンそいつは新しく団長になったばかりで気張りすぎて暴走しかけていたからな。たった三人でアタックすると豪語していやがった……だから警告するつもりで言っていただけさ」


 やはりそうか……だけどザック、お前の言い方だと余計に火に油を注いでいただけだぞ。

 実は不器用な俺様キャラってところか。


「ならいい。んじゃ、ザックよろしくな。勇者テスラはどうする?」


「本来なら我ら勇者パーティである【太陽の聖槍】だけで十分だと言いたいが、相手が謎のマンティス・アーガである以上、意地を張ってばかりもいられない――ここからは一緒に戦おう、アルフレッド君」


 流石は正統な勇者様だ。

 矜持と意地を上手く使い分ける柔軟な思考と視野が備わっている。

 だからパーティ全員が生き残れたのだろう。団長としても優秀な証だ。

 尚更あの腐れ王妃のウェンディが実の母親とは思えん。



 間もなくして、シャノンによる【戦狼の牙】全員の治癒が終わる。

 本当ならマカ達の《三位一体トリニティで彼女の固有スキル《聖女息吹セイントブレス》で速攻回復ができるのだが、今はまだどちらも温存するべきと判断し通常の回復魔法で癒すようお願いした。


「よし、準備も整えたし最上階を目指すぞ!」


 俺の号令に【集結の絆】や【大樹の鐘】の団員達だけじゃなく、勇者テスラやザックを含む錚々たる冒険者達まで「おおーっ!」とか言って合わせてくる。


 うん、みんな気合いが入るのは結構だけど、いつの間にか俺が場を仕切る形になっているんですけど……なんでだよ?

 あんたらもろ俺より上のポジじゃねーか。


 などと思ったが野暮なので口にしないことにした。

 これも鳥巻八号が言っていたムーブとやらが起こったのだろうか?


(ザック君だけでなく、あのテスラまでも……アルフレッドさん、本人は気づいてないようですが、やはりリーダーとしての資質に優れているようだ)


 黙って傍観していた、ラウルが密かにそう思っていたことを俺は気づいていない。



―――――――――――

お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る