第61話 反撃の時間



 大詰めを迎えつつある40階層。


 そこは塔の中とは思えない空間だった。

 まるで湿地帯のように木々が生い茂っている。

 あちこちには淡い光が発光する鉱石が空間を照らしていた。


 一度訪れたことのあるリュン達の話によると、罠として食人植物などが生息しているとか。


「――気を付けろ、シザービートルだぜ」


 ザックは前方に指を差し知らせてくる。


 すると茂みから、5匹ほどの大人サイズくらいの甲虫型のモンスターが出現した。

 堅牢そうな外骨格を持ち、まるで重騎士ファランクスさながらだ。

 頭部には巨大なノコギリのような角の刃が二本あり、ハサミのように挟み鎧だろうと両断できるらしい。


「……こいつら魔力探知に反応しなかったぞ」


 俺も右目の眼帯をずらし《蠱惑の瞳アルーリングアイ》で魔力を探っていたが、ザックの方が気づくのが早かった。

 ちなみに【集結の絆】で斥候を務めていた、シズクも臭いと音で存在を気づいていたようだ。


 そういや二人共、系統こそ違えど同じ狼族系ウルフの獣人族だ。

 人族より高い身体能力に加え音や臭いを感知する能力に長けているとか。


「甲虫型は魔蟲の中でも特に魔力を発しないタイプだから注意してね」


 俺の後ろでパールが言ってくる。

 また全身を覆う甲殻は鋼の如く硬質で、通常の冒険者が敵うモンスターではなかった。


「この程度の相手なら俺様ら【戦狼の牙】で十分だ」


 ザックは前に出きた。彼の背後を仲間のダナックとケティ達が続いて行く。

 俺を含む他メンバーは見守ることにする。


 格闘家ファイターであるザックは軽快かつ素早い動きで、一気にシザービートルとの間合いを詰めた。

 そのまま両腕に装備している鋼鉄手甲ガントレッドの拳を振るう。


「――《雷撃の牙サンダー・ファング》!」


 鋼鉄手甲ガントレッドから雷が発生し拳を覆う。

 拳を突き出した瞬間、硬質の甲殻を持つシザービートルの全身が眩い閃光に包まれ粉砕された。

 その勢いは直撃した1匹に終わらず、近場にいた2匹にも影響して同じ形で瞬殺される。


 残りの2匹はダナックとケティ達が高い攻撃力を持って撃破した。

 眺めていた俺は「……凄ぇな」と口にする。


「流石、第一級冒険者は伊達じゃない。それにチームワークもいいようだ」


「……ザックも元はテスラと並ぶ勇者候補だった。獣人族で勇者になれるのは稀であり、彼は同族達の期待を一身に受けていたと聞く」


 リュンの説明に、俺は首肯して見せる。


「けど、聖武器が選んだのはテスラの方だった……それでザックは聖武器の入手に固執するようになったんだろ?」


「まぁな。【戦狼の牙】は黄金ゴールドクラスだが、ザックの実力はオルセアでもトップ級だ。だから余計プライドが傷ついたのだろう……気持ちはわかる」


 それでも逃げ出さず、めげずにチャレンジを続けているのだから根性は本物だ。

 原作のアルフレッドなんてすぐ逃げ出して、最後なんて闇堕ちしやがったからな。



 その後、しばらく進むと再び甲虫型は魔蟲が現れた。

 先程のシザービートルに似ているが頭部が異なった形状をしている。

 備わった一本の角は鋭い槍に見えた。


「今度はランサービートルかよ! しかも10匹もいやがる、チッ!」


「次は僕達が戦おう――」


 舌打ちするザックの傍ら、勇者テスラと仲間の【太陽の聖槍】が前に出る。


「聖槍ボルテックス!」


 テスラが手にしていた小枝くらいのロッドが伸張され、鮮やかな装飾が施され空色の槍となった。

 所有者の意志で変形する、まさしく聖武器だ。


 束の間、テスラが速攻を仕掛けた。


 まるで暴風の如く縦横無尽に聖槍を振るいランサービートル共を薙ぎ払う。

 パーティ達も連携が優れており、一瞬で決着がついた。


 そういや初めて彼の戦いを間近でみたな……圧倒される光景としか言えないけど。

 こうして二極パーティの活躍で、俺達は上階を目指して行く。



 他の階でもデスアントの群れが現れ、無理ゲーばりに凄いことになっていた。


 デスアントとは全長1メートルほどの軍隊蟻だ。

 鉄をも引き裂く大顎による噛み付きが武器であり、腹部先端の刺針には相手の働きを鈍らせる毒効果を宿している。

 最も恐ろしいのは集団による執拗な攻撃力であり、じわじわと獲物を弱らせ捕食する習性があった。


「そろそろボクも活躍しないとね、うひひひ」


「では私も愛するこの子達テイムモンスターと共に頑張りましょう」


 ふと呪術師シャーマンソーリアと調教師テイマーラルフの二人で戦うと言ってきた。

 言わば新人団員&従妹同士だ。


「――《絶対領域アブソリュート》」


 ソーリアは固有スキルを発動した。


 なんでも一つの魔法効果を視界という領域内テリトリーにいる全ての対象者(敵)に均等に与えるスキルだとか。

 しかも魔力消費も1回の魔法で全域まで届くという利点があり、不発や回避も難しくさらに連続使用も可能のようだ。

 攻撃系ではないが目立った弱点のないスキルと言えた。


 ソーリアは領域内テリトリーにデバフ魔法を施し、デスアントの群れを一瞬で弱体化させる。


「軍隊蟻にはこの子ですね――《封印手札シールカード》!」


 ラウルは一枚のカードを取り出し、そのまま放り投げた。

 カードが眩い光輝を放ち、そこからモンスターが出現する。


 面長の顔を持つモンスターであり、三メートルはある巨体アリクイのようだ。

 ごっつい見た目の割につぶらな瞳がなんか可愛い。


「魔獣アントイーター。その名の通り、蟻が大好物です」


 ラウルの指示でアントイーターは弱体化したデスアントを次々と捕食し始める。

 鋭い鉤爪で堅い魔蟲の甲殻を剥し、長い舌で掻き出し吸い尽くしていた。

 結構グロい光景だ。


 約5分ほどでデスアントは全滅した。


 二人とも従妹同士だけあり息の合う連携力だ。

 それに【集結の絆】唯一の第一級冒険者だけあり、実力もザック達に引けを取らない。


 不味いな、みんな強すぎて俺達の出番がない。

 次は率先して戦わないと。


 その後も出現するモンスターを次々と斃して行く。

 俺を含め、【集結の絆】全員が一丸となり前衛を務める。


 トラップの食人植物も、ルベルの《聡明な導きサインポスト》で回避し、時にリュンの弓撃で安全に打ち倒した。

 またこの手のトラップ系モンスターは貴重なドロップ落とすので、支援役サポーターのエルがしっかりと回収してくれる。


 そんな感じで皆が撃ち漏らしたモンスター共を俺とシズクとカナデの前衛組でキルしていった。

 なんだか漁夫の利っぽく申し訳ないが、【集結の絆】にとって良い経験値稼ぎになったと思う。



 そして、ようやく50階層に到達した。


 俺達は息を潜め辺りを窺う。

 一変して何もない空間だ。


 最上階とは思えない異常な広さ、周りには大きな石柱が幾つも並びエリアを支えていた。

 奥行が見えない暗闇から圧倒する魔力を放つ、巨大なモンスターが徘徊している


「……間違いありません。マンティス・アーガです」


 フィーヤが小声で伝えてきた。


 その姿は一見して蟷螂だが下半身は長くムカデのような多脚で移動している。

 上半身には六本腕が生えており大きな鎌状となっていた。


 あれが、マンティス・アーガ。

 まるで侵入者を探すように辺りを警戒し動き回っている。


 確か決起会ではボス戦はパーティの早い者勝ちって流れになっていたけど、今の面子にはその意識がない。


 見ただけでもわかる。


 ――こいつを相手に少数で挑んでは絶対に敵わない。


 誰もがそう肌で感じていたからだ。



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