第38話 主人公と遭遇



 まさか、ローグに出くわすとはな……。

 同じ国の冒険者なんだから当然と言えば当然か。

 今まで会わなかったのが不思議なくらいだ。


 シャノンと再会した後、ローグの話は聞いている。


 こいつはすっかり変わってしまった。

 特に女遊びが酷くだらしなくなったとか……それで滅多にギルドに来なくなったようだ。

 今回珍しく訪れたのは、フレート王が言った通り魔王軍の幹部を討伐したからだろう。


「見ろ、ローグだ……【英傑の聖剣】の団長。やっぱオーラが半端ねぇ……」


「先日、近くの村を襲った魔王軍を幹部ごと全滅させたっていうぜ」


「しかもたった数人でだってよ……被害者もゼロで損害も最小限だったとか」


「凄いわ……もう敵なしよね。カッコいいわぁ」


 他の冒険者達がざわつき、そう囁き合っている。


 俺が追放されてから【英傑の聖剣】はさらに躍進を遂げ評判も爆上がりしていると聞く。

 何せローグの固有スキル《能力貸与グラント》で思う存分に強化貸与バフしまくっているからな。

 まさしく最強軍団となっている筈だ。


 そしてローグの背後には元二軍メンバーだった、ダニエルとフォーガスとラリサの三人がドヤ顔で歩いている。

 今じゃ幹部らしく、すっかりローグの腰巾着のようだ。


「……ローグ」


「終わったならどいてくれますかぁ、元団長さん? 邪魔なんでぇ」


 以前からスキルジャンキーだったが、主人公だけに純粋無垢な面はあった。

 けど今じゃ見る影もない。すっかり力に溺れ、嫌な大人の顔に染まっている。


 俺は「ああ、すまん」と言い場所を空けた。

 ローグは俺から視線を外すと、傍に立つシャノン達の方に顔を向ける。


「……シャノン、やっぱそいつのところに行っていたのか? 人のペットまで勝手に持ち出して、そんな下半身だけの無能のどこが良いのか……キミはつくづく男を見る目がない女だ。見限って正解だったよ」


 そう皮肉を交え、シャノンの肩に乗るスラ吉の方をチラ見している。

 スラ吉は怯えたように身を震わせると、すかさず彼女の背後へと隠れてしまう。

 こいつは今じゃチート級のバケモノスライムだが、実際はシャノンの指示がなければ戦おうとしない臆病で大人しい性格だ。


 シャノンは毅然とした態度で、ローグと向き合う。


「見限ったのはわたしも一緒です。スラ吉に関してはあくまで本人の意志です。それとアルフさんは決して下半身だけの無能ではございません!」


「調子に乗ってんじゃねーぞ、ローグ! テメェのバフなんざなくてもよぉ、アルフは立派にやってんだ!」


「ローグ、超うざ!」


「フン、ガイゼンにパールまで……キミらも相変わらずだ。自分らの才能を無駄にして、まったく信じられないよ。まぁせいぜい負け犬同士、仲良くやればいいよ……ん?」


 ローグは双眸を細めるながら、シズクとピコに視線を向ける。


「……銀狼系獣人族シルバーウルフ妖精族フェアリーか。ここじゃ見ない珍しい種族だね。それに随分と綺麗で美人だ。特に獣人族の子はいいねぇ、うん」


 そりゃそうだろ?

 二人とも原作じゃメインヒロインだからな。

 特にシズクは後日談でお前と結婚し子供まで産んでいる。


「なんですか貴方は! 慣れ慣れしい男! ご主人様を侮辱するなら許しませんよ!」


「冴えない癖にイキってんじゃないわよ! アンタなんかより、アルフの方が何千倍も素敵よ!」


 わぉ。

 ヒロイン達がもろ主人公と対立し罵声を浴びせてんぞ。


 しかも悪役の俺を庇ってくれている。

 これぞ寝取りというべきだろうか……。

 原作者の鳥巻八号が知ったら号泣しそうな逆転劇だ。


 何も知らないであろう、ローグは「チッ」と舌打ちする。


「類は友を呼ぶか……まぁその男に飽きたら、僕のところにおいでよ。可愛がってあげるからさ」


「誰が、貴方なんか! 死んでも嫌です!」


「消えろ、バーカ!」


 やべぇ、原作を知る俺としては、なんだかいたたまれなくなる。

 この二人を取り込んだのは、もろ俺だからな。


「シズク、ピコ、もういい。やめろ」


「ご主人様……わかりました」


「アルフに免じて引いてあげるわ」


 ありがとう、二人とも。

 けどキミらがそいつと対立していると、奪った立場として罪悪感が芽生えてしまうんだ。


「ローグ団長、そんな負け犬共など放置して手続きの方を急ぎましょう」


「その通りだぜ。明日は大事な試練だ。追放した奴らなんてどうでもいい」


「そうよねん(けどアルフレッド……前よりずっと男前になった気がするわ。特に右目の眼帯とかイカすじゃない。少しつまみ食いしちゃおっかしら、フフフ)」


 元二軍の腰巾着共がなんかうっせーっ。

 特にビッチのラリサが俺を変な目で見てきやがる。


「それもそっか――あっ、アルフレッドさん。僕ぅ、明日には勇者になっちゃいますからよろしくぅ~やれやれ」


 ん? ローグの奴、明日のブレイヴ神殿での試練を言っているのか?

 まぁ原作通り、こいつが聖剣を抜いて晴れて勇者だ。

 それならそれで別にいいだろう。

 俺もハンス王子から別の専用剣を作ってもらえるからな。


「そうかい。んじゃみんな行くぞ」


 さらりと流しその場から離れた。

 背後から、奴らがクスクスと嘲笑っている。


 どうでもいい、せいぜい勝手に頑張ってくれ。

 俺達は気ままに楽しくやる――それだけだ。



「私、頭にきています! あのローグっていう男、なんなんですか!? ご主人様に失礼なことばかり!」


 夕暮れ時の食事処にて。

 シズクが頬を膨らませ憤慨している。


 あの後、成長したシズク用の戦闘服を買いに向かった。

 回避盾の軽装戦士ライトウォーリアらしく、動きやすい衣装を身に纏っている。

 その分、ナイスなボディラインが浮き出たピッチピチの凄い感じだけどな。


「まったくね! あんな最低野郎について行く女なんて、どうせクソビッチばっかよ! 信じられない!」


 ピコまで……キミらのその逆転ぶりよ。

 愛しさ余って憎さ百倍と言うべきか……いや彼女達に愛はない。もろローグのこと嫌っている。

 もしこの子らに原作を読ませたら、きっとショックで気を失うだろう。

 

「アルフよ。どうして連中に、お前さんも聖剣の試練を行うことを言わなかったんだ?」


 ガイゼンが何気に訊いてきたので、俺は「フッ」と鼻で笑って見せる。


「先約のローグが聖剣を抜いたらそれで終わりだろ? いちいち張り合う意味がない」


「そうですね……わたしが言うのもアレですが、もう彼には関わらない方がいいでしょう」


「シャノンの言う通り。嫌な気分になるだけ」


 パールじゃないが賢明だ。


 そもそも俺ら悪役が主人公に対抗意識を燃やしても意味がないからな。

 けど一つだけ気になることがある。


「シャノン……カナデのことだが。彼女はまだ【英傑の聖剣】に在籍しているのか?」


「はい、わたしも何度か声を掛けて一緒に退団するよう呼びかけたのですが……『皆の目も覚まさせてあげたい』と頑なに……」


 そうか……相変わらずのサムライガールだな。

 聞けば、今の【英傑の聖剣】でカナデの扱いは相当酷いと聞く。

 ローグの《能力貸与グラント》を拒否したばかりに雑用ばかりやらされ、クエストに参加させてもらえないとか。


 俺はカナデに大きな恩がある。

 いっそ直接赴いて、こっちに来るよう説得するべきか。

 少し余裕もできたし、明日にでもローグにそれとなく聞いて判断しよう。


 ちなみに、マカ、ロカ、ミカの三つ子付与術士エンチャンターは別の宿に泊まっている。

 同じ【集結の絆】に加入しているが、吟遊詩人バードの顔をもつ彼女達はクエスト以外では副業活動を大切にしたい意向があり、俺も応援すると承諾した。



◇◆◇



 翌日の早朝。


「こ、こらぁ、シズク、お前また! もうベッドに入ったら駄目だって言ったろ!?」


「ふにゃ、ご主人様ぁ、おはようございます。だって寂しいんですもん」


 シズクは超薄着で俺の布団に潜りこんでいた。

 もう辛うじて大事な部分が隠れているだけの色々と凄い状態になっている。


「アルフが命令しないからいけないのよ。この子は奴隷なんだから服従させるにはそれが一番だわ」


「いやピコもだ! 二人とも、俺がいつまでも大人しい男だと思うなよ!」


 するとバタンと扉が開けられる。

 てか鍵してねーのかよ。

 そして扉越しから、ぬぅっと覗く謎の顔が――。


「アルフさん……どういうことなのか、ご説明を」


「シャ、シャノンさん!?」


 な、なんか怖ぇーんだけど!



―――――――――――

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