第39話 主人公と聖剣争奪



 どうやら毎度部屋の鍵を開けた犯人はシズクらしい。

 盗賊シーフの適正が高い彼女は、いつの間にか解錠スキルを向上していた。


「シズクさんは年齢も身体も立派な大人なのです! 安易に殿方の部屋に入ってはいけません! ましてやベッドに入るなど不埒です!」


「はぁい、シャノン様……ごめんなさい」


「まぁシズクの場合、身体は大人、頭脳は子供ってやつね」


「ピコさんもですよ! 貴女、聞けば結構な年齢ではありませんか!?」


妖精族フェアリーとしては、まだまだ少女よ。それに処女だから安心してね、アルフ」


 俺に何を安心しろってんだ?

 そもそも、そんなちんちくりんに何ができるってんだよ?


「うっせーな! 説教なら他でやってくれ!」


 ガイゼンがむくっとベッドから起き上がる。


「す、すみません――ってガイゼンさん!? どうして鎧を着たまま寝ているんです!?」


「ああ? シャノンまでアルフと同じ反応しやがって……これがオレのアイデンティティだ。文句あっか」


「い、いえ……(変です! このパーティ、変な人が多いです!)」


 こうして今日も賑やかな一日が始まろうとしている。



「パルだけ除け者、みんなズルい。スラ吉がいなければ怒っている」


 朝食で顔を合わせてから、パールはずっと不機嫌だ。

 移動中でも小さくなったスラ吉をぬいぐるみのようにぎゅっと抱きかかえて歩いている。


「シャノンはちゃんと部屋で寝ていたぞ。シズクとピコがいなくなったことを心配して、俺の部屋に訪ねてきただけだ」


 それで鍵が開いていたので覗いてみたら、あら大変。

 シズクの際どい恰好といい、そりゃ誤解するよ。


「ごめんなさい、パル様。これからはご主人様の許可を頂き添い寝するように致します」


「いや許可しないよ、うん!」


「アタシはもうアルフなしじゃ眠れない身体なんだから責任取ってよね」


「ピコ、お前が勝手に上に乗っかっているだけだろうが! 今後は女子達かスラ吉にやれ!」


 この妖精族フェアリーも、いちいち彼女ヅラするのをやめてほしい。

 原作じゃローグと肯定女子達だけだから、うっひょイチャイチャハーレムをブチかましていたけど、特にシャノンは清純かつ潔癖だから怒らせたら超怖いんだぞ!

 


 それから冒険者ギルドにて仲間であるマカ、ロカ、ミカと合流する。


「おはよう、アルフ団長」


「おはようございます団長様」


「おはっ、団長」


「ああ、おはよう。今日はクエストじゃなく、ブレイヴ神殿に行ったり国王から報酬金を受け取るだけなんだが付き合ってくれるかい?」


「勿論よ。見届けさせてもらうわ」


「貴方が聖剣を抜けば、ワタシ達の伝説サーガになります」


吟遊詩人バードとして本懐だね」


 小人妖精族リトルフらしく好奇心旺盛のようだ。


「よし、ブレイヴ神殿に向かおう」


 疑問も解消し、俺達は目的地へと向かった。



◇◆◇



 純白の巨大な建造物に辿り着く。


「ここがブレイヴ神殿か……(コミック版通りの建物だな)」


 国で管理しているだけあり、神々しく美しい神殿だ。


「アルフレッド殿~!」


 副騎士団長のブルクが手を振って出迎えて来る。


「遅くなりました」


「いえいえ、ご足労いただき感謝です。ささ、陛下と騎士団長がお待ちです」


 俺達はブルクに案内され神殿の中へと入る。


 澄んだ空気で満たされた神殿内。

 通路に設置された松明に火が灯され、神殿内が明るく照らされている。


 中央に見覚えのある顔ぶれがあった。

 フレート王にハンス王子にティファ、護衛の騎士団達。


 そして、ローグだ。

 奴の後ろには元二軍で幹部のダニエル、フォーガス、ラリサが立っている。


 さらに最奥には台座に突き刺さった剣があった。

 鮮やかな装飾が施された白銀の刃を持つつるぎだ。


 あれが聖剣……今は片手剣サイズだが所有者の意志で長さや形状が変えられるらしい。

 部屋の上部に嵌めこまれたステンドグラスから光が差し込み、聖剣をより幻想的に照らしていた。


「――なっ!? どうしてアルフレッド達がいるんだよ! 聞いてないぞ、王様ぁ!」


 ローグは俺達の姿を見るや不平不満をボヤき始める。


「貴様ぁ、陛下に向かって無礼だろ! いくら名のある冒険者とはいえ礼節をわきまえろ!」


 騎士達が当然の指摘をしている。


 そういやローグの奴、何故か王族と貴族にはタメ口だったんだ。

 こうして間近で見ると、つくづく礼儀知らずのアホだな。


 でも原作じゃ、奴がいくらタメ口で話そうと読者の感想欄以外は誰も窘めずスルーされていたのに、今回はしっかりと注意を受けている……当たり前なんだけど奇妙な違和感を覚えた。


「まぁローグ君、落ち着きたまえ。さっき説明した通り、彼は私が招いた立会人でもある。まずキミが先に聖剣の試練を受けて抜くことができなかったら、アルフレッドが挑戦するという流れだ。いいね?」


「王子、それは聞いているよ。でも何故、アルフレッドまで参加する資格があるんだよ?」


「それもさっき説明している。アルフレッドはタニングの都を救い、私の命の恩人でもある。挑戦する資格は十分にある筈だ」


 ローグがいくらタメ口で不平不満を言おうと、ハンス王子は大人の返しで論破する。

 元々知能デバフのある主人公なので次第に何も言えなくなっていた。


「とにかくローグよ。まず其方が先に聖剣の試練を行えば良いではないか? 無事に抜くことがあれば、約束どおり其方が勇者だぞ」


「それとも臆しましたですの?」


 フレート王とティファに促され、「チッ」と舌打ちをする。 

 ちなみにローグは王女ティファに対し、以前俺のセフレ扱いしてセクハラをやらかした美少女と同一人物であるとは気づいていない。

 どちらにせよ、態度が最悪なので通常であれば既に無礼打ちである。


「やれやれ、わかったよ。僕がとっとと抜いてやっから、アルフレッドに負け犬共よ――伝説の幕開けを良く目に焼きつけとけ!」


 やたらとイキリ散らかす、ローグ。


 安心しろお前のしょーもない伝説は、鳥巻八号の原作を読んでいた俺が嫌と言うほど目の当たりにしている……ご都合展開ガバが酷過ぎて痛々しいくらいにな。


 そして、いよいよ聖剣の試練が始まる。

 ローグは台座に近づき、そっと柄を握りしめる。


「さぁ聖剣よ! 僕のモノとなれ――!」


 イキリながら叫ぶ。


 が、



 ん?


「ふぅんぐ!?」


 どうした、ローグ?

 何をモタついているんだ?


「おっ、おや……ハハハ、そういうことか!」


 どういう事だよ? 意味わかんねーっ。


「あ、あのぅ、ローグ団長、如何なされました?」


「とっとと抜いちまぇ、団長!」


「頑張ってぇ、ローグく~ん!」


 幹部の三バカが応援している。


 けどローグは柄を握りしめたまま、引き抜こうとしない。

 いや、もしかして……。


「ローグ、お前……まさか抜けないのか?」


「はぁ!? 何言ってんだ、アルフレッド! んなワケないだろ! これが聖剣の試練ってやつだろ!? 今、僕は聖剣に試されているのさ! 黙って見ていろ、ボケェ!」


 本当か? 

 原作だと、とっくの前に抜いているぞ、お前。



 5時間が経過。


「ふんぐぅぁぁぁぁぁぁぁぬぐぉぉぉぉぉ――!!!」


 ローグの奴、まだやっている。

 血管が浮き出て全身が汗まみれだ。

 胆力が半端ないのは認めるけど……。


(マジで抜けないのかローグ!? 嘘だろ!? 原作とちげーじゃん!)


 実は俺が一番驚いていたのは言うまでもない。



―――――――――――

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