第118話 ハチャメチャな魔眼のエピソード



 俺達に鋭い眼光を向ける、リュナ。


 弓を構え、ギリッと弦が鳴っている。

 鋭利な矢尻がこちらの方に向けられていた。


「やめろ、リュナ! 私だ! それにお前が矢を向けている相手はルミリオとオルセアを代表する勇者一行だぞ!」


 仲介役であり姉のリュンが前に出て、両手を広げてみせた。


「……姉さん!?」


 リュナは驚きつつ、何故か益々警戒度を上げている。


 そういえば移動中、リュンから「私は閉鎖的な里に嫌気が差し、妹の制止を振り切って里を抜けたのだ。今では少し見直されてはいるが、妹は今でも私を赦してないだろう……」と聞いていた。


 おそらく、まだ姉妹間のわだかまりがあるのだろうか?

 とはいえ、実の姉に矢を向けるのはどうかと思うけどな。


「リュン姉さん! その者達は本当に勇者なのですか!? 特に眼帯の男よ! 貴様の右目には僅かだが如何わしい邪気を感じるぞ! それは魔眼ではないのか!?」


 わぉ、俺に向けての警戒だったのか!?


 確かに右目はご存知の通り《蠱惑の瞳アルーリングアイ》と融合されている。

 今ではすっかり使いこなせているが、見る人が見たら邪悪な魔力で溢れているようだ。

 だからこそ普段も眼帯で隠すように心掛けているんだけど。


 ちなみにリュンは手紙で俺達が来ることを伝えていない。

 きっと知らせてもこうなるだろうと想定していたからだ。


「何よ、アナタ! アルフは確かに魔眼持ちだけど、私利私欲のために使ったことなんて一度もないんだからね!」


 ピコが俺の頭上を飛び交いながら弁明してくれる。


妖精族フェアリーだと!? あの清らかで尊い種族が何故、人族共などと……やはり、その魔眼は魅了系か!? そいつで妖精族フェアリーを蠱惑したのだな! 赦さんぞぉぉぉ!!!」


 め、めんどくせぇ……こりゃ俺が説明しても駄目なタイプと見た。

 何を言っても勘ぐられ、怪しまれ、結局バトルしなければならない羽目となるに違いない。

 特にエルフ族のような精霊に近い存在は、魔眼のような呪術具を嫌う傾向がある。


 魔眼か……。


 現実逃避からか、俺の脳裏には魔眼に関する原作エピソードが浮かんでしまう。



◇◆◇



 それは原作でローグ達がエジルダーナの森に向かおうとする以前の話。


 ローグはある事がきっかけで仲間となったサラティノから、実は寝取られた幼馴染のシャノンが、アルフレッドに《蠱惑の瞳アルーリングアイ》で蠱惑されていることを知る。


 最初こそ「よくも幼馴染のシャノンを! 絶対に赦さないぞ、アルフレッドォォォ!」と激怒し、「もし今、アルフレッドに会ったら、僕は有無言わず奴を殺すかもしれない……」とドヤ顔で殺意を滾らせ、これでもかとMAXにイキっていた。


 そして情報通のセナより、アルフレッドの潜伏場所も知らされている。

 だからてっきり次回、ローグはアルフレッドからシャノンを取り戻すために動くだろうと思い、読者の俺は胸を躍らせ期待した。


 けど次の話で、奴はすっかりその怒りを忘れている。


 ふとピコとの雑談で『精霊の雫スピリット・ドロップ』の話を聞くと、ローグは「エルフの集落に行きた~い!」と言い出し、ヒロイン達を引き連れてエジルダーナへと向かってしまったのだ。


 この謎の展開で多くの読者より「前回の怒りはどうしたのよ!」「アルフレッドの居場所までわかっておいて観光かよ!?」「薄情すぎて最早サイコパスの領域では!?」「いつも思うが主人公の必死さが皆無」、挙句の果てには「感想欄を読んでいた方が楽しいw」と詰られてしまう始末だ。


 今考えるとシャノンがあそこまで落ちぶれたのも半分以上は、この薄情男が原因だと思えてしまう。


 けど信者からは、「展開が早くて助かります!」とか「今度はどんな旅になるのか楽しみ!」だの「新刊購入しました! 面白いです!」さらには「先生、いつもお疲れ様です!」などと、まるで最初からシャノンという存在がなかったような反応だった。

 流石の信者もこの雑すぎる展開だけは擁護できないと判断し、いっそスルーしてしまえと暗黙の了解で決め込んだのだろう……傍観していた俺はそう思えてならない。


 肝心の鳥巻八号も修正不可能と判断したのか、得意のスルーであり感想欄は荒れ放題の無法地帯と化した。


 結局、放置したことで読者達の熱が冷めたのか「……話は普通に面白いので、そういうモノだと思うようにした」という謎の解釈による沈静化となり、一部では「鳥巻マジック」と称えられていた。


 てか鳥巻マジックって何よ?



◇◆◇



「聞いてくれ! 僕はオルセア神聖国の王太子テスラだ! 名くらいは知っているだろ!?」


 見るに見兼ねたテスラが前に出て名乗りを上げる。

 するとリュナは矢尻を下げて構えを解いた。


「あの勇者テスラか……」


 どうやら理解を示してくれたようだ。


 てか同じ勇者なのに、この差はどうよ?

 まぁテスラの方が勇者している歴が長いから知名度もあるのだろう……ちょっと不満もあるが俺はそう理解した。


「では聞こう、勇者テスラよ! その魔眼の男は何者だ!? 貴方ほどのお方が、何故そのような者と同行されているのだ!?」


「彼の名はアルフレッド! ルミリオ王国を代表する僕と同じ勇者だ!」


「バ、バカな! 魔眼持ちが勇者だと!?」


「嘘じゃない! 彼が携えている剣を見ろ! 聖剣グランダーに選ばれた正統な勇者の証だ!」


 テスラに促され、リュナはじっと俺を凝視する。

 特に聖剣の方に視線が向けられた。


「……確かに。その鎧も聖武器か……姉さんが言っていた、ラダの塔を攻略に貢献した勇者だな?」


「ああ、そうだ。ピコが言った通り、俺が魔眼持ちだが悪いことに使ったことは一度もない。胸を張って誓おう、なんなら信用してくれるまで拘束してくれても構わない」


「その潔さ……勇者に間違いないか。姉さんも教えてくれれば良いのに……」


 リュナは俺ことを認めてくれるも愚痴を零し、軽快に高い木の上を降りて着地した。

 他のエルフ族の戦士達も同じように地上に降りてくる。


「手紙でそこまで書く理由もないだろ? 見ろ、私が間に入ってもこの有様だ……予め来ることを伝えても、きっと同じことだろう。この融通の利かなさが嫌で、私はここを離れたのだ」


「姉さんだって『弓術士アーチャーとして腕を高めたい』という理由で勝手に森を出たんじゃない!? おかげで私がどれだけ負担を強いられたことか……まぁ昔話は良いでしょう」


 リュナは深く息を吐きながら、俺の方に近づくと頭を下げて見せた。


「すまない、勇者アルフレッド。非礼をお詫びいたします」


「い、いや……キミの立場上は警戒されるのは仕方ないことだ。どうか頭を上げてほしい」


 とにかく誤解がとかれて良かった。


「リュナよ。別に来たくもない私達が、わざわざここに訪れたのは他でもない。手紙に書いてあった、族長が予言されたことについてだ」


「チッ……ええ、不吉が襲来することですね? こんな田舎にわざわざ来られるとは、人族の都会にどっぷり浸かった姉さんは随分と暇なんですね?」


「ほう……暇に見えるか? 私が暇に見えるのか? 両国を巻き込むとか触れれば真相を確かめる必要があるだろ? 族長も曖昧でまどろこしい予言などせず、具体的に簡潔に言って下されば、こんな辺鄙な場所に来なくてもよかったかもなぁ!」


「辺鄙ですって!? 辺鄙って言いましたね、姉さん! いいでしょう! あの時の決着を今ここで付けましょう!」


 あれ? 急に姉妹が揉め始めたぞ。


「おい、リュン! 何をやっているんだ、やめろ! リュナさん、あんたもだ!」


「……すまない、アルフ団長。こうして妹と直に顔を合わせてしまうとついな」


「勇者アルフレッドに免じて気持ちを抑えましょう……ったく、姉さんは相変わらず!」


 リュナよ、ちっとも気持ちを抑えてねーじゃん。


 案の定、リュンは「ああ!?」と身を乗り出そうとする始末。

 ワケありとはいえ、随分と犬猿の姉妹だ。


「あそこで素早く仲介にはいるとは、流石はアルフレッド君だ。あの曲者揃いの【集結の絆】を束ねる団長だけあるね」


 テスラよ、褒めてないでお前も勇者なんだから止めに入れよ。


「では勇者ご一考様、我が村へとご案内いたしましょう。イシリオン族長にお会いできるかわかりませんが、私から話だけでも通しておきます」


 こうしてリュナの案内により、俺達はエルフの集落まで行くこととなった。

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2024年9月24日 12:02

悪役ざまぁ系のやりなおし~社畜おっさんは主人公の幼馴染を寝取り追放するクズ男に転生したけどいい人バレしたら最強ムーブが起こった 沙坐麻騎 @sazamaki

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