第85話 反逆者達の言い分



 その後、国王の指示で宮廷魔法士の伝達魔法でパールが呼び出される。

 ローグの事をよく知る彼女も参加する義務はあるだろうと、ハンス王子の配慮がなされた。


「――ローグ、まだ生きてたんだ?」


 謁見の間に入った途端、毒を吐くパール。


「うっせーっ、糞ガキ! どいつもこいつもコケにしやがってぇぇぇ! 僕は【英傑の聖剣】の団長ローグだぞ! これまで魔王軍から国の危機を救ってやったのに、この仕打ちは何んだ!? 国王マジ無能! だから僕はオディロンの口車に乗っただけなんだよぉぉぉ――ブギャ!?」


「貴様ァ、陛下に向かって暴言は許さんぞぉぉぉ!」


 ローグは叫ぶ途中で、取り囲んでいる兵士の一人に槍で殴られた。


 以前なら圧倒的な防御力で無傷だが、今のローグは常人だ。

 殴られた分、しっかりダメージを受けており口と鼻から血が滴り流れ落ちる。


「い、痛ぇ……クソォ、暴力反対!」


「つい先程まで大軍を率いり武力行使で王都を占拠していた男がどの口で言う……相変わらず無茶苦茶な男だ」


 フレート王にまで指摘されている。


 それから気を失っていた、フォーガスとラリサが目を覚ました。

 二人はローグの背後で並び同じように兵士によって跪かされている。


「クソッ! なんでこんな事に! 団長、話が違げぇじゃねぇか!?」


「痛い、やめてよぉ! 離してぇ! ローグ団長、なんとかしてよぉ!」


 フォーガスとラリサは自分らが置かれた状況に納得できず、ひたすら喚いている。

 反乱を実行した反逆者達とはいえ、嘗て同じパーティに所属していた者として心に重くのしかかってしまう光景だ。


 もし原作通り進んでいれば、今頃は悪役アルフレッドである俺が、きっとああしているのだろうと思えてしまう。


 だからこそ最後まで見届けていく必要がある。

 それが俺の責務だと思い込んだ。


「黙れぇ貴様ら! これから貴様ら反逆者の処分を決めていく。言っとくが裁判ではないからな。処罰ありきで貴様らにどのような罰が望ましいかを決めていく。オディロンは己が立場と首謀者であるが故、再発防止の意味を含め最も重い極刑で確定だが、貴様らはどうするべきかな……」


「さっきも言った通りだろ! 僕はちょい魔が差してオディロンの口車に乗ってしまっただけだ! 現にあれだけ大掛かりな反乱にもかかわらず、国民から死者は出てない筈だろ!? あんたら王族と騎士や兵士共に関しては仕方ないよね! 悲しいけど戦争なのよねぇぇぇん!」


 ローグの奴、何を名言風に言ってやがるんだ。

 明らかに開き直っているバカな漢の戯言にしか捉えられない。


「俺はローグ団長の《能力貸与グラント》に心酔していた。現に力も爆上がりだったし、本来使用できねぇ筈の高度な魔法も使えたからよぉ……だから団長が右と言えば右を向く。それだけの理由だ……」


「あたしも似たようなものねん……まぁ元副団長のダニエルみたいに、いつ抜けだそうかタイミングを逃したってところかしらん。何せ《能力貸与グラント》を解除され、能力値アビリティとやらが没収された団員の末路も見ていたからねぇ」


「フォーガス、ラミサァァァ! お前らその言い方だと、まるで僕がそそのかして先導したって聞こえるじゃないかぁぁぁ!?」


「「だってそーじゃん」」


「はぁぁぁん!? ふざけんなよ、テメェら! そもそも最初にアルフレッドを【英傑の聖剣】から追放させ、僕を団長として祀り上げたのはテメェらだろうがぁ、ああ!? テメェらもオディロン同様、僕の《能力貸与グラント》に目を付け利用して来たんだろう、違うかコラァ! 言わば、テメェらが最初に僕を洗脳しここまでさせた首謀者なんだからなぁぁぁ!!!」


「ここまで来て話盛ってんじゃねーよ、団長……いや、ローグ。オメェがダニエルにそそのかされ、ほいほいついて来たんじゃねーかよ」


「そうよ。最初に話を持ってきたのはダニエルよん。あんたがダニエルと盛り上がって、同じ二軍メンバーだった、あたしらも《能力貸与グラント》の凄さを見せつけられてついて行く形となった、それがきっかけじゃない」


 肝心のダニエルが落ちぶれていくローグを見限り、頃合いを見て自ら退団した。

 そのことでローグは余計に落ちぶれ、オディロンの口車に乗って反乱軍の指導者となってしまう。


 己の固有スキルに振り回された哀れな男、それがローグの豹変した実態だ。


「ふざけるなぁ! 僕はただパーティを強くしようとしただけなんだ! なのに何故、それがいけないんだ! 黙って団員達にスキルを与えていたからって、みんなが幸せなら別にいいじゃないか! 何故、アルフレッドは僕を否定したんだ!? 僕を認めてくれなかったんだよぉぉぉぉ!?」


 なんだ? 今度は俺が悪いみたいな感じになってんのか?

 それは何度もお前に説明しただろうが……ガチで頭悪いな、こいつ。


「……ローグ。それはお前が団員達に公表するのを拒んだからだろ? みんなが了承すれば別にいいって言ったじゃないか」


「オレは普通に嫌だけどな。ずっと自分の実力だと信じていただけにな……妻や娘にも自慢できやしねぇよ」


「そうですね。作戦上で一時的に強化バフを施されるのなら有難いですが、ローグのやり方は信頼関係を損なう自分勝手な我儘です」


「しかもローグだから尚更キモい。勝手にやらないでって話」


「その通りだ。安易な力を得て喜ぶ者もいれば、決してそうでない者もいる。貴様は皆の気持ちを蔑ろにし、己が満足したいだけにスキルを振るっただけなのだ!」


 俺を含めた元【英傑の聖剣】の団員である、ガイゼン、シャノン、パール、カナデが各々の想いを述べている。

 どれも正鵠を得る内容ばかりだ。


「ローグ、全ての発端は自己顕示欲と承認欲求を満たしたい――お前の身勝手さが招いたことだ。お前はダニエルにそそのかされ、心地いい環境に逃げたんだ」


「くぅ、アルフレッド! お前が言うのか!? 散々好き勝手なことしてきたお前がぁぁぁぁ、僕を利用してきたお前が言うのかぁぁぁぁ!!!」


 それを言われるとキツい。

 俺の人格が目覚める以前のアルフレッドというキャラが招いたことだけに余計だ。


「だから悪かったと思っている……そう猛省したからこそ、今の俺がいるわけだ。ローグ、できればお前も変わってほしかった。いや、あれだけ気が弱かったお前は変わったかもな……国に反旗を翻した大罪人として」


「黙れぇぇぇ、アルフレッド! 僕がこうなったのは全てお前のせいだぁぁぁ!! お前のせいなんだよぉぉぉぉぉ!!!」


「黙らっしゃい、ローグ! アルフレッド様は悪くありませんわ!」


 突如、口を挟んできたのは、それまで黙って聞いていたティファだった。

 ローグは鋭い眼光を彼女に向ける。


「姫さんよぉ、恵まれたアンタに僕の何がわかるんだぁ!? そういやアンタを含めた、王族は何かと僕を蔑ろにして、アルフレッドばっか持ち上げていたよなぁ!? だから無能扱いされ、オディロンのような反逆者が出てくるんじゃないのか!? 今回の反乱だって、人を見る目がないアンタらが招いた事じゃないのかぁぁぁ!!!」


「アルフレッド様には色々と助けて頂いたご恩がありますわ! お父様やお兄様も同様です! ローグ、貴方が少しはまともな方なら、ここまでの差など生じなかったことでしょう!」


「なんだとぉぉぉ!?」


「お忘れですか、貴方がわたしに何をしたのかを! よく思い出しなさい!」


 ティファに怒鳴られ、ローグは双眸を細め彼女を凝視する。


 束の間。


「あっ!? お、お前は……あの時、アルフレッドを訪ねてきた糞女!?」


 ローグの奴、今になってようやく思い出したようだ。

 以前、ティファにセクハラを働いたことを――。



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