第84話 首謀者の末路



 玉座でフレート王が見下ろす前で、口枷を嵌められたオディロンは何かを呻いている。

 どうせ「自分は潔白だ! 拘束される謂れなど無い!」と言いたいのだろう。


 確かに前世の日本じゃ疑惑の段階で、ここまですることはできない。

 しかも大物政治家で現職の大臣であれば尚更だ。


 だがこの異世界の大半は王政制度を重んじられている。


 基本、国王が「やれ」と指示すれば、自分の妻子だろうと公平に罰せられてしまう。

 魔女狩り同様、一度難癖つけられてしまえば回避が難しい側面がある。

 だから余計、国王や王族への無礼やタメ口は駄目だぞって話だ。


 余程、主人公中心でご都合主義ガバの物語ではない限り――。


 それからフレート王の命令で専属の回復術士により、実行犯であるローグ、フォーガス、ラリサが回復魔法で治癒される。

 三人は目覚める前に魔法が施された特殊ロープで縛られ拘束された。


 間もなくして、ローグが真っ先に目を覚ました。


「……ここは? 城の中なのか……僕はどうして――ハッ、アルフレッド! テメェ!」


 ローグは辺りを見渡し、俺に視線を合わせるや否や飛び掛かろうとする。

 しかし拘束された上で身動きが取れず、兵士達に「大人しくしろ!」と槍と突き立てられ半ば強引にひれ伏す形となった。


「うぐぅ! 何だ!? 身体が思うように動かないぞ!」


「大人しくしろ、ローグよ。貴様らを回復させたのは慈悲ではない。証言をさせるためだ。そこにいる者を貴様は知っているな?」


 フレート王の問いに、ローグは兵士によって髪を引っ張られる。

 離れた位置で同じ姿勢で跪く、オディロンの姿を見せられた。


「……オディロン? そうか、あんたヘマして掴まっちまったのか」


 いや真っ先にヘマしたのはお前の方だけどな、ローグ。


「その口振り、彼を知っていると解釈していいのかい?」


 国王の隣に立つ、ハンス王子が訊いている。


「ああ、そうさ。別に庇う理由もないから全部言っちゃうね。僕はそのオッさんにそそのかされ、あんたらを追い込んだのさ……なんでも王政から貴族政に改革したかったらしーよ。エルフの森と獣人族の集落を奪って領土を広げる提案を拒否されたことが発端で、それからも何かと保守的な王様達に嫌気が差したんだってさ」


 包み隠さず暴露する、ローグ。


 所詮は利害が一致したから徒党を組んだだけに過ぎない間柄だから義理や人情もあったもんじゃない。

 まぁローグなんかに、革命やら変革やらの思想を持てという事態がナンセンスな話だ。


 口枷されたオディロンは「うぐーっ!」と唸るだけで反論できないでいる。


 しかし自国の領土を広げるため他種族の所有地を奪おうとするなんて、やり方が魔王軍の侵略と変わらないぞ。

 とんでもねぇ宰相だ。寧ろ否定したフレート王がまともじゃないか。


「ああそれと、フォーガスとラリサを起こして確認を取らせても無駄だよ。オディロンが実際に詳細のやり取りしてきたのは、あくまで僕だけだからね。別に二人を庇っているワケじゃない、それが事実だからさ。オッさんが僕に目を付けたのは、僕の万能スキル《能力貸与グラント》に頼ったから……その凄さは、あんたらの方が身に染みただろ?」


「もうよい。ローグ、貴様の発言は非常にナメ腐っているが真実味はある……そうだな、ハンスよ?」


「はい……以前オディロン宰相が領土の拡大を提案し、陛下より却下されたことは事実でございます。その後も防衛線の拡大と称して隣国の小国を力で抑えようなど進言したり、軍備増強を理由に不要な増税をさせようと目に余る部分が目立っていました。また城内で捕えた他の貴族達も似たような発言をしておりますし、確定と判断してよろしいでしょう。最早、オディロンに弁明の余地すらないかと」


「うむ、その通りだ。どちらにせよ、反逆の首謀者は極刑だ。二度とこのような愚か者が現れないよう反乱の経緯と背景を裏取りした後、公開処刑とする――以上だ。それまで、オディロンを牢に放り込んでおけ!」


 フレート王の命令で、兵士達はオディロンを立たせて連れ去って行く。


 結局オディロンは口枷をされたまま一言も発する機会すら与えられず、奴の極刑が決定された。

 公爵の宰相まで上り詰めた男の末路としてはあっけないものだ。

 いや、前世でも人生の転落なんてこんなものだったかもしれない。


 ただここは民主主義の日本と違い、裁判とて国王の一存で瞬時に決定されてしまう。

 正直、公平も不公平もあったもんじゃない世界だが、まぁオディロンの場合は明らかに自業自得だと思う。


 しばらくの沈黙後、今度はローグに厳しい視線が向けられる。


「クソッ! 僕のステータスが……能力値アビリティが、がっつり低下しているじゃないか!? アルフレッド! 僕に何をしたぁぁぁ!?」


 そのローグは国王達の前だというのに、俺に向けて喚き散らしている。


 相変わらず空気を読まない男だ。

 俺は挙手し「発言しても良いですか?」と国王に問う。


 フレート王は俺には機嫌よく「構わんぞ」と許可した。


「ハッ。ローグ、お前が没収した能力値アビリティとスキルポイントは、スラ吉に全て吸収させた。フォーガスとラリサも同様だ。そして現在、お前が強化した反乱軍の兵士達も同じ末路を辿っている最中だろうぜ」


 したがって、今のローグは自分を強化させる術はもうない。

 ただのスキルジャンキーになり下がったわけだ。


「……スラ吉だとぉ? あいつは元々僕のペットだったんだぁ! シャノンといい、お前は僕の大切な者を奪いやがってぇぇぇ!!!」


 なんだ、こいつ? 原作みたいな台詞を吐いて来やがったぞ。


 確かに原作なら全てアルフレッドが悪い感じだろうけど……紐解いていけば、お前の奇妙な承認欲求とイカれたスキルジャンキーぶりが原因じゃねーか。

 まぁ俺も原作ヒロインズのシズクとピコを奪っているから、そうだと言われてもしゃーないのか?


「何を言っているんですか、ローグ! 貴方が妙な難癖をつけて、その者達と一緒にアルフレッドさんを追放したことから始まっているじゃありませんか! わたしはしばらく残って何度も説得を試みた筈ですよ! スラ吉だって貴方に放置され、わたしのところへと来たんですからね!」


 シャノンが俺の代わりにブチギレてくれる。

 ローグをよく知る、ガイゼンとカナデからも「そーだ、そーだ! 勝手なこと言ってんじゃねぇ!」とか「そもそも貴様が団員達を蔑ろにしていたからだろうが!」など野次を飛ばしていた。


「本当、下劣な男ね! まったく軽蔑しか抱けないわ!」


「全くです! 素敵なご主人様と比較にすらなりません! こんな人に連れ添う女性ひとの人格を疑ってしまいます!」


 ピコとシズクも加勢する形で罵声を浴びせている。

 あまりにもメインヒロイン達の変わりぶりに、原作者の鳥巻からはスルーされているけど熱心な信者達ファンが見たら憤死するレベルだと思う。


「やれやれ、アルフレッドのカキタレ共がぁ黙れ! 僕にはお前らが脳ミソまで汚染された雌豚にしか見えねーんだわ!」


 何故かイキリぶりだけは原作通りのローグ。

 ピコとシズクはブチギレてしまい、「はぁ!?」と鋭い眼光を浴びせている。

 別に俺は信者ファンじゃないけど、原作を知る者としては目を覆いたくなる光景だ。


「あくまでボクは部外者だけど、彼がとても純粋なのは見ていてよくわかるよ……ただし反吐が出る程の邪悪って意味だけどね、うひひひ」


 挙句にソーリアまで薄ら笑いで皮肉っている。相変わらず、ガイゼンの背後に身を隠しながら。


「もういい、みんなやめろ! 陛下達の前だぞ!」


 俺は団長として制止を呼びかけた。

 内心じゃ、みんなと同じ気持ちだけどな。


「アルフレッドの言う通りだ【集結の絆】の諸君。まずは法に則り、この者達に審議を図らなければならない。その時に発言の機会を設けるからね」


 ハンス王子も冷静な口調で窘めている。

 その傍らで王女のティファがローグを凝視していた。

 彼女も嘗て、苦汁を飲まされた立場だ。


 俺的には元読者目線から極刑は確定だと思っているが、いったいどんな形の結末となるのか予想がつかない。



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