第86話 共謀者の処分と違和感



「貴様ァ! 我らの姫に向かって糞女とは何事だぁぁ!?」


「王家への数々の暴言、もう我慢ならん!」


「この場で成敗してくれるぅ!」


 耐え兼ねた兵士達が槍の石突で、ローグを何度も殴りつける。


「ギャフン! 痛ぇ痛い痛いぃぃぃ!!!」


「……リアルでギャフンとか言った奴、ボク初めて見たね、うひひひ」


 ローグが上げる悲鳴に、ソーリアが薄ら笑い浮かべながら指摘している。

 良心的なハンス王子が「その辺でいいでしょう」と兵士達を宥め制止させた。


「ぐぅぬぅ……まさか、姫までもがアルフレッドの女だったとはな……野郎、どこまで見境ないんだ!」


「わ、わたくしが、アルフレッド様の……キャッ」


 とんでもない誤解するローグに、何故か照れ始めるティファ王女。

 てか話が妙な方向に流れているぞ!


「アホかローグ! 王女は王都でゴロツキに絡まれているところを俺が助けた子だ! あの時、お前も傍にいたろ!? 忘れるんじゃねぇよ!」


「ん? あ、ああ……いたっけ? いたか……あ?」


 こいつ完全に忘れている!

 そういやスキルジャンキーの禁断症状で、それどころじゃなかったかもしれない。


「ハンスよ。そのローグたる者、余も二・三発殴ってやりたいのだがどうだろう?」


「駄目です、父上。先程までフラフラだったんですから無理しないでください」


 挙句の果てには、フレート王までブッ飛ばす宣言をしてくる始末。

 これどんな状況よ? いい加減、そいつらの処分を決めたらどーよ?


 すると、常識人のハンス王子が強く咳払いをした。


「この度の首謀者であるオディロンは公爵の地位を剥奪した後、極刑が確定されています。他反乱に加担した貴族も相応の厳罰を受けることでしょう。無論、実行犯であるローグ達も相応の処罰をせねばなりませんが……ローグ本人が言うようにオディロンに体よく利用されたことも事実です。さらにこれまで【英傑の聖剣】の貢献を鑑みて、一定の情状酌量の余地はあるのではないでしょうか」


 ハンス王子からの思わぬ進言に、ローグ達の瞳に希望が宿る。

 要は「極刑にはせず罪を軽くする」と言っているのだ。


 いくら貢献した実績があろうと、反乱の実行犯にもかかわらず何か違和感を覚えてしまう。

 てか原作なら絶対に感想欄が荒れてしまい兼ねないことだ……知らんけど。

 それにハンス王子ら王族とて籠城を余儀なくされるほど追い込まれたのに、何か意図があるのだろうか?


「うほっ! やっぱ王子様は器がちげーわ! やれやれ、とっとと世代交代した方が良くね!?」


「黙れ、ローグ! せっかく殿下が計らってくれてんだぞ! これ以上、事を荒立てるんじゃねぇよ! まったく学習能力のねぇ野郎だ! だからアルフレッドに惨敗するんだろーが!!!」


「なんだとぉ、フォーガス!? お前の方が脳筋じゃないかぁ、ああ!」


「常識のないバカだって言っているのよん! この状況でどうしたら、そんなイキれるのよん! 少しでも罰を軽くしたいと思わないワケ!? まったくスキルと性欲だけの低能男ねん! もう魅力の欠片すらないわぁぁぁん!!!」


「ラリサぁぁぁ、クサレビッチのお前にだけは言われたくねぇぇぇんだよぉぉぉ!!!」


 再熱したかのように醜いやり取りを見せる三人組。

 全て空気を読まず、未だ主人公感覚でいるローグが原因だけどな。

 ここまで改善不能でイッちゃっていると、一種の「イキリ芸」だと思う。


「ふむ、ではハンスよ。こやつらにどのような処罰が望ましいと思うのだ?」


「はい。まず大罪を犯した【英傑の聖剣】はギルドから登録抹消と三人とも冒険者資格の剥奪は必然でしょう。さらにフォーガス・モークリーとラリサ・チェレノフの両名に関しましてはローグの傍におり護衛する立場というだけで、具体的に行動を起こしたわけではありません……したがって、五年間の流刑罪が望ましいかと思われます」


 流刑罪とはルミリオ王国が所有する大陸から離れた孤島に送還し、過酷な強制労働させる刑罰で言わば「島流し」みたいなものだ。

 犯した罪により滞在の年数が課せられ、無期懲役として一生そこで過ごさなければならない者もおり極刑に次ぐ重刑とされている。


 しかし罪の大きさを考えれば、五年間の流刑は比較的短い期間であり、ハンス王子の酌量が伺える。

 二人の年齢を考えれば、努力次第でまだやり直しができる範囲だ。


 まぁフォーガスとラリサも俺達と遭遇して一戦こそ交えたが、冒険者同士の揉め事だと思えばノーカンで構わないだろう。


「うむ、ハンスの言う通りとしょう。両名ともそれで良いな?」


「わかりました。ハンス殿下の恩情に感謝です」


「はい、有難く刑に服します……」


 フォーガスとラリサは素直に従う姿勢を見せる。


 おそらく刑が終わっても、二人は冒険者に戻ることはない。

 何せ、ギルドは大陸共通の組織だ。

 等級の降格ならまだしも、一度剥奪されたら再登録は難しい。


 処分が決定したフォーガスとラリサは、兵士達に引っ張られ立ち上がる。

 流刑の準備が整うまで牢獄に入れられるらしい。


 そんな二人は何気に俺に目を合わせてきた。


「……アルフレッド、入団した頃から俺は傲慢で破天荒なアンタのことが大嫌いだったぜ。けど、もう少し早くまともな団長になってくれればよぉ……」


「あたしは最初から好きだったわよん……けど心が綺麗になっていく貴方が眩しすぎて次第に近づけない存在になっていたのは確かねん……隣の聖女ちゃんが羨ましいわ。じゃあね、アルフレッド団長・ ・


 そう言葉を残し去っていく、フォーガスとラリサ。

 悪役アルフレッドの人格が今の俺へと入れ替わったことで、モブキャラだった二人の人生も影響を及ぼしてしまったのだろうか。


 どちらにせよ、俺からは何も言えない……言う資格もない。

 

 ぎゅっ。


 隣に立つ、シャノンがさりげなく俺の手を握りしめる。


「……シャノン?」


「大丈夫です、アルフさんは何一つ間違っていません。どうか自分に自信を持ってください」


 力強い眼差しで言ってくれる。


「ありがとう……そう思うようにするよ」


 握り返し、そう答えた。


 俺がアルフレッドとして生きるようになって、唯一良かったと思うこと。

 それは――シャノンがシャノンのままでいてくれていることだ。


 不正に魅了された肉欲の関係じゃなく、こうして清らかに心が通じ合えている。

 今の俺はそのことが何より嬉しくて、自分の行動を褒めていきたい。


 そうして残るはローグだけとなった。


「……して、ローグ。貴様をどうするかだな。当然、他二人より重い処罰を覚悟せよ」


 フレート王が沈黙を破り言ってくる。


「ぐっ……どうせ、あいつらと同じ流刑罪だろ!? 六年か? 七年か? チクショウ、十年くらいなら我慢してやんよぉぉ!!!」


 何故、お前が期限を決める? アホか、こいつ?

 もう、とっとと死刑で良くね?


「ローグ、ふざけるな。キミのせいで、我がルミリオ王国がどれだけ被害をもたらしたと思っている?」


 ハンス王子が強い口調で言ってきた。

 ここまで感情を露わにするのは初めてだ。


「な、なんだと? 僕は国民には手を出してないぞ! 王都にいる連中は全員、逃がした筈だ!」


「そういう意味じゃない。キミは事実、一週間も民達の生活を脅かしただろ? これは国益を損なう立派な重罪。しかも命を奪われた兵士や騎士達にも家族がいる……キミはそういった人達の人生を踏み躙り犯したんだ」


「だから、それはオディロンにそそのかされて……」


「いい加減、人のせいにするな! やったのはあくまでキミ自身だ! だから極刑にしないまでも、相応の罰を与えるべきだ――まずは流刑罪、無期限!」


「む、無期限!?」


 それは十年間とか舐めていた、ローグにとってあまりにも厳罰だった。

 

 けど俺は眉を顰める。

 フォーガスとラリサの処分は置いといて、この男が極刑でないことに違和感を覚えたからだ。

 いや別に異議はないし、ぶっちゃけどうでもいいのだが……。


 まるでローグに対し、原作者こと鳥巻八号のご都合展開ガバが発生している奇妙な感覚を抱いてしまう。


 けど奴は既に物語の主人公じゃない。

 もう補正や舞台装置など発生しないだろうし、俺に負けた時点でそうはなっていない筈だ。


 そして処罰はまだ続く――。



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