第87話 主人公のガバ処分



 ローグの奴、てっきり死刑確定だと思っていたが何故か無期限の流刑となった。

 転生前のSNSとかなら、大抵やらかした著名人はこの世から消えない限り延々と炎上して責められてしまう風潮のある厳しい世界だったと思う。


 特に今回なんて原作最狂と畏怖された《極大能力貸与マキシマムグラント》並みに国民中に迷惑を掛けたので、きっと死刑でない限り「甘い」とか「すっきりしない」だの「ガバ刑だわ」とか「去勢しろ!」などと罵倒され、多くの民達から不平不満が出ても可笑しくないだろう。


 まぁここは君主制で国王が法律だから、一度決まってしまえば覆ることは滅多にないのが現実だ。

 それが唯一可能な人物は次期国王と期待され、直接ローグに刑を言い渡したハンス王子だけなのだが……。


 なんだろう……この展開、何かしっくりこない違和感を覚えてしまう。 

 


「――さらに流刑地はフォーガスとラリサの両名とは異なる未開拓の孤島送りを申し立てる!」


「未開拓の孤島!? なんだよぉ、それぇ!?」


 ローグが知らないのも無理はない。その場にいる誰もが首を傾げていた。

 進言したハンス王子は「では説明しょう」と前置きする。


「――数年前、我が国の貿易商船によって発見された秘島だ。ルミリオ王国の領海に位置するため、我が国が保有する島とされている。これまで何度か調査隊を送っているが、そこは未知の強大な魔物達が蠢き、如何なる者も踏み入ることはできない魔窟と化していた。現在も我が国の巡視船が定期的に、島の周囲を警邏することで辛うじて管理されているのだよ」


「いや、それ管理していると言わないよね! 遠目で見ているだけで、ほぼ放置じゃん!」


「だからこそだ、ローグ――キミにはその孤島を調査と開拓の任に就ける!」


 そんな危険極まりない島で生涯を懸けて調査と開拓って……随分とエグい処分じゃないか?

 当然、ローグから不満の声が上がる。


「なんだってぇ!? 僕に死んで来いって言っていると同じじゃないか!?」


「それはキミの運次第だ。けど、それで終わると思うなよ――」


 ハンス王子が指を鳴らすと、兵士がトレイに乗せた魔道具らしき物を持ってきた。

 それは鋼鉄製の首枷に見える。

 だが酷く禍々しい邪気で満ち溢れているぞ……。


「おほぅ! あ、あれりゃあぁぁ!?」


 ソーリアが奇妙な声を張り上げ、異様に興奮している。


「おい、どうした?」


「だぁ団長くぅぅぅん! あれは呪術具『能力封殺スキルアウトの首枷』だよぉ!! 超レアの代物だよぉぉぉん!!!」


「レアだと? 呪術具にレアとかあるのか?」


「あるよ! 基本、呪術具の呪力は年季で決まるモノだよ! 年数を重ねるほど呪力は蓄積され芳醇で濃厚に強烈な効力を増していくんだよぉ!」


 なんだかワインとか漬物みたいなノリだな。

 尚もソーリアは赤い瞳をキラキラさせながら熱く語る。


「しかも、その『能力封殺スキルアウトの首枷』は相当な年季が入っている……このボクでさえ見たことがない! 五百年? いや、まさか千年モノですかぁぁぁ!?」


「流石、デバフの魔女と畏怖される呪術師シャーマンだね……古代歴初期の遺物でね。私のコレクションの一つさ」


 ハンス王子はドヤ顔で説明する。

 原作者(神)である鳥巻八号の設定によると異世界歴の前が古代歴となっており、約一千五百年ほど続いた時代だと、感想欄で散々読者にツッコまれ言い訳していた。

 てかハンス王子、今何気に「私のコレクション」とか言ってたな?


「ちなみに、お兄様は呪物コレクターで世界中の珍しい呪物を集めてらっしゃるの」


 妹のティファが兄の意外な趣味をカミングアウトする。

 あんな爽やかそうなのに、まさか呪物コレクターとは……いや人の趣味だからいいんだけどね。


「うほっ! てことは超最上級モノの呪術具じゃん! 団長くん、これは凄い強烈な呪いが期待だよぉぉぉぉん!!!」


 興奮MAXでフィーバー中のソーリアが俺の腕を掴んでブンブン振っている。

 すっかりキャラが崩壊し、もう誰にも止められない。


「……すまん、何が凄いのか俺にはわからない。てかどんな呪いなんだ?」


「アルフレッド、首枷をされた者の固有スキルを封じる呪いだよ。古代歴時代では対魔王用として開発されたらしい。勿論これは未使用だがね」


 ハンス王子は笑顔で答えるも、物騒な代物だけになんか怖い。


「スキルを封じる呪術具? まさかそれで……」


「そうだ。この『能力封殺スキルアウトの首枷』でローグの《能力貸与グラント》を永久に封じる。無理に外そうとすると、首枷が締まり頭部と胴が分離されてしまうから気をつけたまえ」


「ちょ、嘘だろ!? このぅ糞王子ぃ! 魔物が棲みつく孤島で無期限の流刑罪だけには飽き足らず、スキルまで封じられたら確実に死ぬじゃないかぁぁぁ!?」


 反発するローグに、ハンス王子は冷たい眼差しを向ける。


「確かに無能力者となるが、キミの付与術士エンチャンターとしての能力は健在の筈だ。確か仲間だけじゃなく、自分にも強化付与バフ魔法が施せる筈だろ?」


「う、ぐ……それは……」


 ローグは急に言葉を詰まらせ狼狽する。


 ――何を隠そう、ローグは魔法でバフを与えることができない。


 ずっと《能力貸与グラント》一本で頼っていた男なのだ。


 それで目立たず、こっそりと強化貸与バフを施していた経緯がある。

 だから当初のアルフレッドと【英傑の聖剣】の団員達は、ローグが付与術士エンチャンターであったことすら忘れていたのだろう。


 したがって、ローグに《能力貸与グラント》を取り除いたら何も残らない。

 ただのイキリ芸しか取り柄がないわけだ。


「クソォ、王様ァ止めてぇ! あんたの息子、頭おかしいよ! 呪物コレクターって何よ!?」


「黙れ、ローグ。次期国王の裁量であるぞ――ハンスよ、お前の進言を全て受け入れよう。好きに致せ」


「ハッ、陛下」


 まるで打合せしたかのように、してやったりの顔を浮かべるフレート王とハンス王子。

 隣で見守る、ティファも同様に狡猾の微笑を浮かべていた。

 どうやら、あの不敵の笑みの正体はこれにあったのか。


 ……やっぱ王族を怒らせるとガチでヤバいことが判明したぞ。

 ただ死刑にすればいいわけじゃないということだ。

 全てを搾取した上での流刑なのだろう。


「や、やめろぉ! やめてくれぇぇぇ! 頼むから《能力貸与グラント》を封じるのだけは勘弁してくださいぃぃぃ、どうかご慈悲をぉぉぉぉ!!!」


 ローグは額を床に擦り付け許しを請う。

 ようやく事の重大さを理解し、イキる余裕すらなくなったようだ。


「安心してくれ、ローグ。ちゃんと慈悲は与えるつもりだよ。週一度、巡視船で食料と相応の道具を沖合に置いて行こう。もし一週間以内に受け取れなければ、キミは死亡したとみなし補給を中止する、いいね」


「嫌だ! 絶対に生き残れるわけがない! アルフレッド……いやアルフレッドさん! 貴方達からも何か言ってください! こんなのあんまりだぁぁぁぁ!!!」


「見苦しいぞ、ローグ。もうお前にかける情けや言葉はない……あれだけ暴れまくって死刑にならないだけ、ハンス殿下の恩情に感謝して大人しく罪を受け入れろ!」


「そんなぁ、ガイゼンさん!」


「オレに振るんじゃねぇ。テメェなんぞ知るもんか」


「右に同じ。勝手にすればいい」


「パールの言う通りだ。我らが貴様に与える慈悲などないぞ」


「そ、そんなカナデまで……シャノン、キミなら僕に恩情を与えるよう言ってくれるよね? 同じ孤児院で兄妹のように過ごしてきた、大切な幼馴染で聖女のキミなら……ね?」


「――今更ですね。ローグ、貴方は立ち直れるチャンスを何度も棒に振ったのです。挙句の果てに反乱の指導者と成り果てた。寛大なる神ですら、赦しを与えることはないでしょう……さようなら」


 嘗ての仲間達と幼馴染から突きつけられた言葉に、ローグは悲しそうに顔を歪める。

 双眸から涙が溢れ鼻汁を垂れ流した。


「嫌だぁぁぁぁ! 僕はこんなところで終わりたくないぃぃぃ! 頼む、せめてスキルだけは封じないでくれぇぇぇ、うわぁぁぁぁん!」


「見苦しい……いや、そういう奴だったね。それじゃ刑を執行する。直ちに『能力封殺スキルアウトの首枷』を取り付けよ!」


 ハンス王子の指示で、兵士達がローグの首を晒させる。

 手際よく鋼鉄の首枷を科せた。

 途端、首枷からドス黒い邪気が発生し、ローグの全身を覆う。


「やめてぇぇ、あぐあぁぁぁぁぁ――……」


 ローグは悲鳴を上げた。

 邪気は奴の肉体に全て浸透し消失する。


「術式完成だね。あれ、一度嵌められたら死ぬまで外れないよ……あいつが死んだら、こっそり回収しちゃおっかな、うひひひ」


 キャラが戻ったソーリアが普段通り、俺の隣で不気味に微笑んでいた。



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