第88話 反乱の終結と



 ローグは自慢のスキル《能力貸与グラント》を封じられた。

 奴はショックのあまり憔悴しており、涙と鼻汁を垂れ流したまま脱力して動かない。

 虚ろな表情でただ呆然としている。


 間もなくして、フレート王が玉座から立ち上がった。


「これで反乱を企てた主犯格共の厳正なる処罰が決定された! とっとと、その者を牢にブチ込んでおけ! しっしっ!」


 まるで野良犬を追い返すように手で振り払う仕草を見せる、フレート王。

 こういう、みみっちいところが無ければ割と良い王様だと思う。


 ローグは抵抗することなく、兵士達に引きずられて退出した。


 自然と周りから溜息が漏れ始める。

 その中に俺も含まれていた。


(……ローグの奴、無期懲役の流刑処分となったが事実上は極刑に近い処分とも言える。そういった意味では、原作でざまぁされた当時のアルフレッド以上かもしれない)


 そう密かに考察していた。


 原作のアルフレッドは、王族にざまぁ処分を受けても国外追放だけで済んだからな。

 その後は別の国でネイダに勧誘され、寝取ったシャノンと共に闇堕ちして魔王軍に下る運命だ。


 《能力貸与グラント》を封印された、ローグには勧誘される価値すらないだろう。

 これからは未知の孤島で謎の魔物とやらに食い殺される末路か……。


 それはそれで、すっきり展開なんだろうが……なんだ、さっきからこの感じ?


 やはり元読者の俺としては「もやもやする~ぅ」「しっくりこな~い」的な違和感がある。

 別に今更ローグがどうなろうと関係ないし、どうでもいいのだが……何かが釈然としない気持ちがあった。


 まるで、ローグに原作通りのご都合展開ガバが働いていたような感覚だ――。



「あ、あのぅ!」


 沈黙する謁見の間に、慌てた様子で兵士が入ってくる。

 考え事をしていた俺はハッと意識を切り替えた。


「どうした、何事だ?」


「はい陛下、実は王都中が大変なことになっておりまして……」


「なんだって? 残りの反乱軍が何か騒ぎを起こしているのか?」


 騎士団長でもあるハンス王子が訊ねている。

 兵士は首を横に振るう。


「いえ、反乱軍共はブルク副騎士団長によって終結させた、我が軍で無事に制圧することができました。力を失った蛮族共など我が正規軍の足元に及ばず、既に全員を拘束し捕えております」


「では問題ないのではないか? 何か別のトラブルがあったと?」


「はい騎士団長……それが」


 何故か俺の方をチラ見する兵士。

 なんだろう? とても嫌な予感がする……。

 すると、シャノンが俺の袖元を引っ張り顔を近づけてきた。


「アルフさん、まさかスラ吉じゃないでしょうか?」


「え? スラ吉……あ!?」


 もろ思い当たる節があるぞ。


 俺は「し、失礼……」と国王達に言葉を残し、【集結の絆】全員を連れて謁見の間を退出した。



◇◆◇



 王城の屋上にて。


「――やっぱりそうか!」


 嫌な予感が的中した。


 スラ吉の身体が王都を半分ほど埋め尽くしている。

 肉眼でも充分に観測できる大きさまで成長していた。


 無理もない。


 何せ、ローグが与えた約1400人の《強化貸与バフ》を全て吸収させたんだからな。

 ある程度の想像はしていたが、これほどとは……。


 まるで怪獣映画さながらの光景だ。


 スラ吉は王城の屋上にいる俺達の姿を見るや、嬉しそうに飛び跳ねて近づいて来る。

 その度に、ぼよ~ん、ぼよ~んっと、ゴムが弾けるような音が鳴り響いていた。

 見た目によらず軽いのか、地響きなどは発生しない。


「なんじゃありゃ? けど不思議に建物は破壊されてねーな?」


「スラ吉の体内は液体で構成されているからな。確か《能力吸収ドレイン》スキルで吸収する対象も生物や霊体に限られ、物質は影響ないとされている。だから移動してもああしてすり抜けるんだ」


 ガイゼンの疑問に、原作を読んで性質を理解している俺が答えた。

 ここまで成長を遂げた姿は初めて見るけどな。


「けど、このままじゃ誰も王都に住めないよね?」


「た、確かにな……王都の大半を埋め尽くしているではないか」


 パールとカナデが懸念の声を上げている。


「消化されれば元のサイズに戻るだろう……それまで人里離れた山で待機させるしかない。シャノン、そう指示してもらっていいかい? パールも魔法でフォローしてくれ」


「わかりました、アルフさん」


「うん、わかったよ」


 俺の指示を受け、パールは魔法でシャノンの声を拡大させ、近づいて来るスラ吉に指示を送る。


 スラ吉は素直に従い、ぼよ~ん、ぼよ~んっといわせながら王都から離れて行った。

 これで一難去った感じだ。



 間もなくすると、鷲獅子グリフォンに乗ったラウルが近づいて来る。

 彼の背には、マカ、ロカ、ミカもいた。


「アルフ団長、解決しましたかぁ?」


「おおラウル、おかげさまでな。マカ達もご苦労さん! 今回もキミらに助けられたぞ!」


「「「ありがとう、団長!」」」


 相変わらず声をハモらせる三つ子で小人妖精族リトルフの娘達。


 話を聞く限り、あの後ラウル達はブルクが招集させた正規軍と合流し、反乱軍の鎮圧をしていたそうだ。

 といっても反乱軍の兵士達は全て、スラ吉の《能力吸収ドレイン》によって強化貸与バフだけじゃなく、体力から魔力まで吸われ尽くされておりフラフラな状態だったらしい。だから捕縛するのも容易だったとか。


「……それで、あんだけ成長していたのか? 相変わらずのチート・スライムだぜ」


「ええ、まったく。ですがあの子の勇姿は、ルミリオ王国の象徴と言ってもよろしいでしょう」


 え? スライムを象徴する国って……なんか微妙だな。

 俺が複雑な表情を浮かべると、ラウルは「ハハハ」と爽やかに笑う。


「ですがアルフ団長は凄い方です。何せオルセア神聖国とルミリオ王国の危機を連続で救われたのですから」


「それは違うぞ、ラウル」


「はい?」


「俺達【集結の絆】がだ。俺一人じゃ決して成し遂げられない。パーティ全員で頑張った結果だ。そうだろ?」


「ええ、そうですね」


 ラウルだけじゃなく、【集結の絆】全員が俺の意見に賛同し頷いた。


 鳥巻八号の原作世界だからか、何かと主人公代わりに持ち上げられるが、俺に主人公補正やご都合展開ガバはない。

 全て事前に準備し原作知識を活かし、パーティ全員の力で戦い抜いた結果だ。


 みんなの力があるからこそ、俺はどんな敵だろうと戦える。

 これからもだ――。


 かくして俺とローグの因縁に決着がつき戦いが終結した。



◇◆◇



 俺達はフレート王の計らいで、しばらく王城で過ごすことになる。

 その間、王都に民衆が戻って来て元の生活に戻っていた。


 反乱を起こした貴族達は裁かれ、貴族階級を剥奪された者もいれば、降格され領土を没収された者もいる。

 特に首謀者であるオディロンは、多くの民衆の前で晒し者となり最後は処刑台に乗せられ首を刎ねられた。


 フォーガスとラリサは流刑の離島送りとなっている。

 翌日、囚人護送船に乗り出航された。

 二人は真面目に務めを果たすと誓っているそうだ。


 だが刑期を終えても二人は二度と冒険者には戻れない。

 きっとフォーガスは故郷に戻り、そこで大人しく余生を送ることになるだろう。

 ラリサは……ようわからん。

 この痴女、容姿は良い方だから案外、娼婦館で働き売れっ子になっているかもな。

 それもまた個人の人生だ。

 



 二日遅れでローグが出航された。


 遅れの理由は近づくだけでも危険な島のため、武装した巡視船で行く必要があったためだ。


 偶然か、俺達は護送されていくローグの姿を遠くから見ることができた。

 以前よりも憔悴しており、頬がやつれ自慢の黒髪は灰色に染まりつつあり、その首には例の『能力封殺スキルアウトの首枷』がはめられている。


 ローグは虚ろな瞳を地面に向け、兵士達に両脇を抱えられ歩かされていた。


「……」


 もう誰一人、掛けてやる言葉すら見つからない。


(ざまぁと見れば確かにざまぁ展開だ……とてもご都合展開ガバが働いているように見えない)


 遠くの方で連行されるローグを眺めながら、俺はそう思った。

 しかし反面、喉に小骨が刺さったような感覚は未だ消えない――。



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