第4話 悪役達の末路



「アルフレッドさん、これが僕の固有スキル《能力貸与グラント》の効力です!」


「おおっ! 身体能力だけじゃなく、装備や武器も永続して向上できるのか!? おまけに俺様の固有スキル《加速アクセル》が進化するなんて、凄ぇなローグ!」


「はい! このスキルを持って僕達で立ち上げた【英傑の聖剣】を盛り上げていきましょう!」


「おおう! 仲間にした奴は片っ端から強化し、最強のパーティにしてやるぞ! 頼むぜ、ローグ!」



 五年前の回想シーン。

 ローグとアルフレッドはこんなやり取りをしている。


 んで、現在でもローグ君は生真面目にパーティへ加入したメンバーを片っ端から強化しまくっているってわけだ。


 しかも当人達には無断で――。


 てか何勝手にやってんの? 常識ないにも程があるぞ。


 それだもん。みんな勘違いして自分の実力だと高を括り、「あれ? 気づけば強くなってんじゃね?」ってなるし、要因であるローグを重宝せず置物の雑用係として無能扱いするわ。

 だからローグも戦犯だからね。だって、こいつ別に口止めされているわけじゃないもん。

 原作を読んだ俺の中で、実は確信犯じゃないかとさえ思っている。


 まぁ一番、知能デバフなのは追放するまで忘れてやがった、アルフレッドだけどね。

 つまり俺なんだけど……もう嫌だ。



「これからは誰の力も借りず、俺の実力で強くなって行きたいと思う。その為の訓練さ」


 そう刀剣術士フェンサーのカナデに説明してみる。


 ぶっちゃけると、俺は鳥巻八号原作のガバな異世界など一切信用していない。

 仮にローグの追放を回避できたとして、何かしらの落とし穴があると思っている。

 だから、この一年でフラグをへし折りつつ、俺自身の保険を掛けていくつもりだ。


 まずはローグのスキルに頼らず、俺が強くなること――。


 以前は《加速アクセル》という、自分の動きを二倍~三倍に素早く動ける固有スキルだったが、最終進化を遂げたことで《神の加速ゴットアクセル》まで達している。


 このスキルは、約10秒間ほど音速以上に動ける能力だ。

 ただし射程距離30メートル圏内でそれ以上移動すると強制的に解除されてしまい、また使用後は60秒の待機時間が必要となるという縛りがある。


 俺が解釈するに、速く動けるスキルと言うより発動中の30メートル圏内を超スロー領域と化す、空間系の能力と言えるだろう。


 どちらにせよだ。


 ローグの追放回避に失敗したら、全能力値アビリティとスキル経験値ポイントが没収され使えなくなってしまう。

 だからそれらを想定して、俺は自力で鍛えていく必要があった。


「……そうですか。その精神感服いたしましたぞ。しかし今までふざけていたのは、敵を欺くには味方からですな?」


「まぁね、そんなところさ……」


 嘘はついてないけど本当でもない。なんか知らんけど複雑な気分だ。

 本来のアルフレッドが愚鈍なのは本当だし、俺は同じ轍を踏まないようにしているだけだしな。


「ではアルフ団長、剣のお相手をいたしましょう。お互いの精進のために」


「ああ、カナデ。遠慮なく頼む」


 こうして密かな推しの子と剣術の稽古に励んだ。

 やべぇ楽しい……いっそ、パーティから離れて彼女と組もうかとさえ思えてくる。



 稽古を終えた俺は書物庫へと向かった。

 ガバ設定とはいえ、異世界の知識を見つけるためだ。


 このアルフレッド、ガチで何もしてねぇ。

 仮にも勇者を目指しているなら、自己強化系の補助魔法くらい使えて当然だろ。


 ちなみに書物庫を管理しているのは、幹部のパールだ。

 あの子は僅か10歳でありながら、魔法士ソーサラーとして才能に溢れ『神童の魔女』と呼ばれている。


 案の定、パールがいた。

 傍には魔法とは無縁職である盾役タンクのガイゼンが何故かいる。


「アルフ、ここに来るなんて珍しいね」


 俺に懐いているからか、嬉しそうに微笑を浮かべるパール。


「だな、お前さんがどういう風の吹き回しだ?」


「ガイゼンこそ、盾役タンクなのに何しているんだ?」


「ああオレか? パールに頼まれてな……高い棚の魔導書を取ってやる役目だ」


 ガイゼンは以前からパールのことを可愛がっている。

 なんでも辺境の村に残した幼い娘を思い出してしまうとか。


 けど、そんなガイゼンも原作では失墜したことで、妻が郵便配達の若い男と浮気して娘を連れて蒸発してしまう。

 んで奴は自暴自棄となり、自慢の鎧を脱ぎ捨ててどこかへと消えてしまう運命だ。


 やばい……原作を思い出したら泣けてきた。

 読者目線だとざまぁだけど、こうして仲間目線で見ると情が移ってしまう。


「どうした、アルフ? 目が赤いぞ?」


「いや、なんでもない。俺は自分を補助できる強化魔法を覚えたいと思ってね」


「補助? んなもん、ローグにやらせりゃいいんじゃないか? そういや、あいつ付与術士エンチャンターの癖に魔法使ったの見たことねーわ」


「ローグは古参の癖に無能。頼らないアルフは正しい」


 この二人にとって、ローグは俺の腰巾着程度しか思っていない。

 実際、ローグは戦闘の度に《能力貸与グラント》スキルで俺達の能力値アビリティを強化してくれているのだが、影が薄いからか誰にも知られていない。

 ただ雑用係として荷物持ちや斥候役のポジとして扱われている。


 どうせ、鳥巻のガバだろう。


「別にそういうつもりじゃ(本当はそういうつもりだけど)……。あとローグはお前達が思っているほど無能じゃないと思うぞ」


 本当なら俺の口からネタばらしするべきだけど、現時点じゃ誰も信じてくれそうにない。

 だからローグを連れてクエストをこなしながら、彼の破格的な主人公補正を証明したいと思っている。

 ついでに勝手に付与しているサイコぶりも明らかになるに違いない。


「……アルフ、朝から様子変。どうしたの?」


「なんでもないよ、パール。それより俺が覚えられそうな魔導書とかないかい?」


「うんパル、アルフのために一生懸命探すね」


 この子は自分のことを「パル」と呼んでいる。

 昔、両親にそう呼ばれていたそうだ。


 そんな健気な魔女っ子も弱体後、凄惨な末路を迎えている。

 てか俺のせいだけどね。

 いいや! 正確にはアルフレッドだ!


 全て破産した奴は、魔法が使えなくなったパールを人身売買に売って私腹を肥やしやがったんだ。

 こんな自分に慕ってくれる可愛い子を……ったく、ガチの鬼畜野郎だ。

 思いっきりブン殴ってやりたい! けど俺の顔だからな……痛いからやらねーけど。


「――珍しいですね、このような場所で皆さんが集まっているなんて」


 たまたま通りかかったのか、シャノンが入り口越しで声を掛けてくる。

 そういや、彼女も原作じゃアルフレッドと一緒に闇落ちしたことで処刑され、しばらく王城に晒される顛末だ。

 寝取られてない今の時点じゃ、れっきとした聖女様なので想像もつかないけどね。


「少し魔法の勉強でもしようかと思ってね」


「そうですか……アルフレッドさん、少しお話が」


「俺に? いいけど」


 シャノンに呼ばれ、俺は書物庫から出た。

 渡り廊下で二人きり、少しだけ緊張してしまう。


「それで俺に話って?」


 すると何を思ったのか、シャノンは深々と頭を下げて見せた。



―――――――――――

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