第27話 悪役、国王にお願いされる



「おお、アルフ、似合っているじゃねぇか?」


「アルフ、カッコイイ」


「ご主人様、素敵ですぅ!」


「まっ、人族にしてはね。認めてあげてもいいわ」


 正装した俺の姿を見て仲間達が褒めてくれる。

 一応、「ありがとう」と微笑んでみた。


 女子達も用意されたドレスを身に纏っており、みんな普段とは違い綺麗で可愛いらしい。

 特にシズクはもうじきボン・キュッ・ボンと成長する筈なので、ドレスなんて着た日にはきっと凄いことになるだろう。

 ピコも妖精族フェアリーである彼女のために、わざわざ仕立てられた専用のドレスだ。


 いや、それよりも。


「――ガイゼンはどうして鎧姿のままなんだ? 俺達のための宴会だってのに失礼だろ? てか脱げよ」


「それだけはできん。この鎧は俺にとってのアイデンティティだからな……その旨をティファ姫様にもお伝えし、宴会の場でもこの姿でいいと認めてもらったんだ」


 何がアイデンティティだ。極度の恥ずかしがり屋なだけじゃねぇか。

 てか仮装パーティーじゃないんだぞ。


 こうして準備を整えた俺達は宴会場に招かれる。


「まぁアルフレッド様、とてもお似合いですわぁ! もういっそ、この城で暮らしてくださいませぇ!」


 ティファも絶賛してくれる。

 けど最後の言葉だけは断固として拒否したい。こんな所で暮らしたら息が詰まりそうだ。



 宴会場は社交界のような優雅で華やかな雰囲気で行われた。


 沢山の料理が並び、ガイゼン及び女子達全員がここぞとばかりに口に入れ頬張っている。

 う、うむ、みんな育ちがわかるぞ……少し遠慮しようぜ。


 周りには謁見の間では見られなかった、貴族や貴婦人達が大勢おりワイングラスを片手に楽しんでいる。

 きっと忙しい中、わざわざ俺達のために集まった方達だろう。

 ふと前世で、貴重な休みを棒に振わされた接待ゴルフを思い出してしまい悲しくなってきた。


「あの素敵な殿方が姫様をお助けした、アルフレッド様?」


「なんて麗しいお方なのでしょう」


「是非、お近づきになりたいわ……」


 着飾った貴婦人達が羽のついた扇子を口に当てひそひそと囁いている。

 てか丸聞こえだ。


 アルフレッドこいつも黙っていたらイケメンに見られるからか、やたら女性達に人気がある。

 苦労している身としてムカつくから、「俺ぇ実はとんでもねぇクズ野郎でっせ! ぱぁ~!」と自虐ネタをぶちかましてやりたい。虚しいからしねぇけど。


「アルフレッド様、楽しんでおられますか?」


 ティファが綺麗な顔を覗かせてきた。

 彼女は俺と交わした約束通り、ずっと傍にいてくれている。


「うん……けど緊張はしていますね。こういう社交場や正装したのも初めてでして……しかしティファ様が私のお傍にいて下さるので安心しております」


 怨敵フレート王避けとしてね。

 この姫様が常に傍にいてくれることで、娘を溺愛する国王からの弾除けになっいる筈だ。


「まぁアルフレッド様ったらお口がお上手ですわ、ウフフ」


 俺の思惑とは裏腹に頬を染めて嬉しがる、ティファ王女。

 もし本音を言ったら間違いなく首ちょんぱだ。


 なのでバレないように愛想笑いを浮かべていると、不意にティファから「あのぅ、アルフレッド様!」と真切り出してきた。


「どうかこれから二人きりの時は、どうかティファとお呼びください! 敬語も不要ですわ!」


「え? しかし王族の方を呼び捨てにして、さらにタメ口というわけには……」


「お願いです、アルフレッド様……」


 瞳を潤ませ真剣な表情で懇願しくる。

 周囲にはフレート王を始めとする貴族や騎士達がいる。傍から見れば、誤解を招きかねない。


 連中に勘づかれる前に適当に流した方が無難そうだ。

 俺は彼女の耳元に唇を近づける。


「わかりました……いやわかったよ、ティファ。これでいい?」


「はい、アルフレッド様! わたくし嬉しいですわ!」


 満面の笑みを浮かべてみせてくる、ティファ。

 そ、そんなに嬉しいことなのか?


 なんだか原作のローグに対してより、姫様のラブアタックが半端ないような気がする。

 確か奴には、ここまでのお願い事はしなかった筈だ。

 (尚、原作では主人公ローグが勝手にタメ口と呼び捨てにしていた模様)


 それからしばらく、ティファと会話を楽しむ。

 客人であり恩人として招かれているだけに、年頃の王女と親密に話しても咎められることなく至って和やかな雰囲気だ。


「……アルフレッド様、わたくしお花を摘みに参りますわ」


 お花? ああトイレのことね……とは口に出さずに無言で頷いた。

 そしてティファが侍女と共に俺から離れた時だ。


「――アルフレッド様、陛下からお話がございます」


 給仕役だった執事が背後に近づき耳打ちしてきた。


 やっぱりだ。あの国王め……早速、仕掛けてきたぞ。

 はっきり言って嫌な予感しかしない。


 などと思っていると、武装した騎士達がやってきて俺を囲み始めた。


「これはいったい、どういう意味でしょうか?」


 まさか愛娘に言い寄る男だという理由で粛正する気じゃねぇだろうな……。

 あんたら、言い寄られているの俺の方ですけど!


 すると騎士達は一斉に頭を下げて見せる。


「アルフレッド殿! 我が騎士団のため、是非に陛下とお話ください!」


「は、はぁ?」


 何やら込み入った事情があるようだ。

 少なくても俺を嬲ろうという魂胆はないと見た。

 俺は「わかりました」と返答し、騎士団に連れられその場を離れる。



 別室にて、フレート王と話すことになった。

 傍には数名の騎士と重鎮達がおり、護衛というよりも何か重要な会議のような雰囲気だ。


「アルフレッドよ。楽しんでいる場での無礼、大変申し訳ない」


 冒頭からフレート王が軽く頭を下げて見せてきた。他の重鎮達と騎士達も揃ってお辞儀して見せる。

 錚々たる顔ぶれから頭を下げられてしまい、俺は何がなんだかわからず戸惑ってしまう。


「い、いえ……陛下どうか頭をお上げください。それで私に何か?」


「実は其方にクエストの依頼がある」


「クエスト……ですか?」


「左様だ――明日にでも騎士達と共に、『タニングの都』に行ってほしい」


 タニングとはルミリオ王国領土に存在する南東に位置する都だ。

 森に囲まれた領地で「大自然の都」と称えられた名所である。


「タニングの都ですか? そこで私に何を?」


「数日前から魔王軍の魔族らが我がルミリオ王国への侵攻のため、タニング付近の森で頻繁に出没しているという報告が入っていた。そこで騎士団たちが調査に向かったのだが消息不明となっておる……」


「その騎士団の中には騎士団長である、ハンス殿下がおられるのだよ」


 重鎮の一人が付け加える。


 ハンスとはフレート王の息子にしてティファの兄である王子で次期国王だ。

 優男風に見えて剣の腕に長け、頭も良く実力で騎士団長になったとか。

 そういや原作でも、国王達と一緒になって失態を犯したアルフレッドに詰問してやがっていた。

 んでローグには物分かりが良く何かと持ち上げてくる、ナイスな兄貴的の存在だったんだ。


 嫌だなぁ……関わりたくねぇ。


「……つまりクエスト内容は魔族の討伐及び、ハンス殿下の捜索と救出ということでしょうか?」


「そうだ。が魔族より、我が息子ハンスを優先してほしい。次期国王となる奴に何かあれば、このルミリオ王国は終わってしまう……頼まれてくれぬか、アルフレッドよ」


「ちなみにこの件は、まだここにいる一部の者でしか知らされておりません。妹君であるティファ王女も同様……くれぐれも内密でお願いしますぞ、アルフレッド殿!」


 国王と重鎮達が再び頭を下げてくる。

 騎士達も「どうぞ我らと共に、騎士団長をお探し下さい、アルフレッド殿ぉぉぉ!!!」と懇願し叫んでいた。


 なんか断りずれぇんだけど……。

 てかなんで俺なの?


 いやまてよ……この展開ってまさか――!


 ふと俺の脳裏にある強烈な出来事が浮かんだ。



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