第112話 ぼくっ娘ヒロインと秘密の共有


「……やはりそうだったんですね。これで全て納得しました」


 セナは俺の話を聞いた後、頷き感想を述べる。

 その意外な返答に、俺の方が驚愕してしまう。


「信じてくれるのか!? こんな馬鹿げた話を!?」


「ええ、これまで見てきた貴方の行動といい信憑性があります。それに貴方の瞳に嘘はないと判断いたしました――」


 するとセナは何を思ったのか。突然その場で跪いて見せてきた。

 思いのよらぬ行動に、俺は慌てふためく。


「お、おい! いきなりどうしたんだ!?」


「今までのご無礼、申し訳ございませんでした――これからは嘘偽りなく、支援役サポーターとして貴方様にお仕えしたいと存じます」


 え? え? えええーっ!?

 今、なんて言った!?


「……お、俺に仕えるだと!? 正気か!? だって俺はキミの復讐対象じゃ……」


「いえ、怨敵アルフレッドはもうこの世には存在しません! 今、ぼくの目の前にいるお方は紛れもない勇者! そして、ぼくにとって恩人であります……貴方は組織の呪縛から、こんなぼくを救ってくださった。今後はその御恩をお返ししたいと思っています!」


 セナは顔を上げ、じっと俺を見つめてくる。

 真っすぐで偽りのない澄んだ綺麗な瞳。つい引き込まれてしまいそうになる。


 セナは俺を……入れ替わった俺自身に信頼を寄せて忠誠を誓ってくれているのだ。

 やべぇ、超嬉しくて目頭が熱くなってきた。

 けど泣くわけにはいかない。だって中身はおっさんだから。


 それにだ。


「――セナどうか立ってほしい」


 俺は彼女を立ち上がらせる。

 そして両手で彼女の手をぎゅっと握りしめた。


「……アルフ様、何を?」


「俺に仕える必要はない――けど、これからは仲間として傍にいてほしい」


「仲間ですか?」


「ああ、そうだ。【集結の絆】の正式な団員として」


「アルフ様……」


 セナは頬をピンク色に染め、大きな瞳を潤ませる。

 うっ、可愛い……そういや原作ヒロインの一人だったな。

 この子は普段は少年っぽいけど、デレてから本領を発揮するタイプなんだ。


「……ありがとうございます。しかしぼくは貴方様にお仕えしたい……体面上でいいんです。団員としてだけでなく、貴方という存在のお傍に居続ける理由が欲しいのです」


 まるで俺に愛を告白するかのように訴えてくる、セナ。

 思わずドキっとしてまうじゃないか。


「わ、わかったよ。セナの好きにすればいい……うん」


 駄目だ……断れない。ここまで言われると流石に。

 あれほど苦手意識を持っていたのに、すっかり印象が変わってしまった。


 戸惑う俺に、セナはニコッと微笑を浮かべる。


「はい。それともう一つお願いしたい事があるのですが……」


「なんだい? 俺に出来ることなら別にいいけど」


「ええ、アルフ様……いえ違いますね、『地球』という異界から来られた貴方・ ・様でしょうか。貴方様の本当のお名を教えて頂きたいのです」


「俺の名前?」


 セナはこくりと頷く。


「はい。無論、誰にも口外いたしません。この話も二人だけの秘密ということで……だからこそ、そのう……貴方様とぼくの契り的な証が欲しいのです」


 まるで結婚の約束でもするようなノリだな。

 おそらくお互いの秘密を共有しようという意志なのだろう。


 俺だって、セナが元暗殺者アサシンの訓練を受けた【殺しの庭園マーダーガーデン】の一員だってことは誰にも言うつもりはない。

 ピコはちょろいから何とでもなるけど、ソーリアは切れ者だから口止めしておこう。

 それに俺の本名なんて平凡すぎて別に教えても構わないし、セナがそれで満足してくれるならいいだろう。


「わかったよ。地球での俺の名は――」


 こうして名前を教えると、セナは満足気に「素敵なお名前ですね」と言ってくれた。

 その従順さについ胸がキュンと疼いてしまう。


 デレモードのセナさん、ガチでやべぇ……。



「アルフ、大丈夫か!?」


 間もなくして、ピコの知らせを受けたガイゼン達が駆けつけてくれる。

 既にソーリアとも合流しているようで、再起不能状態のミルズが肩に担がれていた。


「ああガイゼン、見ての通りだ。ソーリアからそいつのことを聞いているか?」


「ん? いや、あいつは『うひひひ』しか言わねーよ。こいつのことはピコから聞いた。ハンス王子の命を狙う暗殺組織のボスだってな」


「そうか……ならいい。これからそいつをハンス王子の下に突き出すぞ」


 てっきり先に合流したソーリアから、セナのことを聞いたと思ったが杞憂だったか。

 すると、そのセナが俺に近づいてきた。


「……団長くん。セナのことはボクからは黙っておくからね」


 小声でそう呟いてくる。

 ちなみにセナに施したデバフ魔法は解除したそうだ。


「わかった。ありがとう、ソーリア」


「いいよ……推しと秘密の共有。これでまた正妻に近づいたね、うひひひ!」


 ……微妙。いや嬉しいよ、うん。

 ソーリアも黙っていたら神秘的な美人さんだし、黙っていたらね。

 まぁ余計なことを話されるよりいいだろう。


 その後、【殺しの庭園マーダーガーデン】のボスこと、ミルズ・ダカルターの身柄を騎士団に引き渡し、ハンス王子の暗殺計画は未遂で終わらせた。



◇◆◇



「アルフレッド、よくやってくれた。まさかたった数時間でクエストを達成してしまうとは……流石としか言えないよ」


 騎士団長でもある、ハンス王子が感嘆の声を上げた。


「いえ偶然といいましょうか……たまたま情報収集をしていたところ遭遇いたしまして、はい」


「そうか。まぁ細かいことは聞かないでおこう。とにかくキミのおかげで、またルミリオ王国の脅威は去ったよ。本当に感謝する」


 などと言われ、俺は愛想笑いを浮かべその場から立ち去った。

 尚、報酬は後日ギルドの方に振り込まれることらしい。


「うわぁ、ようやく終わったぞーっ!」


 王都の路地にて、俺は解放感のあまり身体を伸ばした。

 辺りすっかり薄暗く夕暮れ時となっている。


 仲間達こと【集結の絆】の団員達はその様子を見てクスっと笑っている。


「お疲れ様です、アルフさん。勇者らしい見事な活躍でしたね」


 シャノンが褒め称えてくれる。

 彼女から言われると何故か誇り高い気分になるから不思議だ。


「ありがとう。偶然もあるけど、事が起こる前に阻止できて良かったよ」


「ええ、本当に。ルミリオ王国の平和もアルフさんが守ってくれるからこそだと思います」


「そんな……俺だけの力じゃないさ。シャノンやみんなが協力して支えてくれるから戦えるんだ」


「アルフさん……やっぱり素敵です」


「そ、そう?」


 やばい……超いい雰囲気だ。

 このまま夜のデートに誘うべきだろうか?


「――アルフ様、今晩のお食事は如何なさいましょう?」


 セナが何故か割って入ってくる。

 その光景に、後ろを歩いていたシズクを始めとするカナデ達が嬉しそうに「ナイスよ、セナ!」と言いたげに親指を立てていた。


 なんなんだ、いったい……水を差された気分だ。


「あ、ああ、そうだな。みんなでどこかへ食べに行こうか……あっそうだ。みんな聞いてくれ、セナを正式の団員として迎えいれることに決めた」


「まぁそれは素晴らしいですね」


「いいんじゃないか? 気が利くしな」


「パルも賛成。セナは有能」


 シャノン、ガイゼン、パールが温かく賛同してくれる。


「私も良いと思いますぞ。英断ですな、アルフ団長」


「そうですね。シャノン様ばかり美味しい思いをさせない意味でも、セナさんの強かさは必要でしょう」


「わかるわ、それ……いつも怒られているアタシ達じゃ割り込めないもの」


 ん? カナデは良しとしてシズクとピコは何を言っているんだ?

 それからマカ、ロカ、ミカも「問題ありませーん」と声を揃えて同調する。


「私は元々反対してないので得には……ソーリアはどうです?」


 従兄であるラウルが話を振っている。


「もうその子の瞳の奥に陰も見えないし別にいいんじゃない……けど、これだけは言わせてもらうよ――『ボクっ娘キャラ』の地位だけは譲らないよ、うひひひ」


 何言っているんだよ。んな地位、最初っからねーだろ?

 てかそこ以外は一ミリも被ってないから安心しろ、ソーリア。


 あいかわらず個性豊かすぎるぜ、ウチの団員達は……まぁいい。


「んじゃ今日は国の平和を守ったことと、セナの歓迎会を含めてパーッとやるぞ!」


「はい、アルフ様!」


 俺の音頭に、セナは満面の笑みで応える。

 お互い秘密を共有したからか、すっかり打ち解け合い良い雰囲気だ。


 こうして第三のヒロイン、セナ・ローウェルを正式に仲間にすることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る