第113話 承認欲求が満たされる日



『――ローグよ。早速、貴様のスキル《能力貸与グラント》で魔城マシラゴア中に待機する全ての魔族兵を強化貸与バフで強化せよ。一週間の猶予を与えよう』


「ハッ。お任せください、魔王様」


 っと、パワハラ並みに無茶ぶりを命じられてから間もなく。

 僕は監視役であり補佐役のネイダにあることをお願いしていた。


「ネイダ。強化貸与バフを施すにあたり、大体なんだけど500人ほどの魔族兵を無駄にして良いか、魔王様に確認をとってくれないか?」


「わかったわ。聞いてみるわね」


 ネイダは理由を訊くこともなく、あっさりと了承する。

 彼女は魔王様に可愛がられる直下の工作員でもあった。

 僕がお願いするより通りやすい筈だ。

 まぁ僕も暗黒将軍の肩書を持つ、NO.2の右腕ポジなんだけどね。


 けど、どうも魔王様に試されている節があるんだよ……。

 なら弱みは見せるべきじゃない。だから腹心のネイダにお願いしたってわけさ。

 僕が魔王様なら、むさ苦しい男より美女にお願いされた方が即採用だからね。


 間もなくして、ネイダが戻ってきた。


「OKだって」


 ほらな、速答だよ。


 僕は頷き、すぐさま作業に取り掛かる。

 何せ猶予は一週間しかない。

 それまで5千人の魔族兵に強化貸与バフを施さなければならないんだ。


 最弱となった今の僕が与えられるのは一日5人まで。

 僕自身のレベルを上げないと、この人数は増えない(レベル1×5名)。


 以前の【英傑の聖剣】では数年かかる作業だろうけど――。

 


 まず僕は5名の魔族兵を呼び出し、《能力貸与グラント》で強化させた。

 束の間、鞘から魔剣グロイスを抜きその場で皆殺しにする。

 魔族兵の肉体を斬り、魂が砕かれ魔剣グロイスに吸収されていく。


精神破壊メンタルバーストだけでなく、こうして魔剣自身が強化されるってわけか。好都合じゃないか……ククク」


 僕は血の海の中で不敵に微笑み、ステータス・ウィンドウを確認した。

 思った通り、5倍分のレベルアップがなされている。


 これで次の日には強化貸与バフできる人数が増えたわけだ(×5倍)。

 《能力貸与グラント》は与えた永続強化貸与バフを没収するスキル。


 没収できる対象は僕の仲間から外れること。

 僕を追放するかあるいは追放されるか……そして、そいつが死ぬこと。


 だから後者を選んだのだ。追放云々より、そうした方が手っ取り早いからね。

 闇堕ちした魔族らしく、景気よく行こうじゃないか……ククク。



 次の日、25名の魔族兵に対して同様のことをし、三日目も125名と強化貸与バフを与えては処刑した。


 当然ながら理不尽に始末されていく魔族兵も黙っていない。

 泣き叫び抵抗を見せる者もいるが、日々レベルを上げていく僕の敵ではなかった。

 逆に鈍っていた戦闘訓練として、さらにレベリングの糧となる。



「……ローグ将軍ってば脅威としか言えないわ。《能力貸与グラント》は勿論、まさかここまで魔族側に順応できるなんてね。流石は主人公、ワタシの目に狂いはなかったわね」


 僕が逃げ惑う魔族兵の首を刎ねる傍ら、ネイダがぼそっと呟き戦慄している。

 よく聞こえなかったが……主人公? 彼女は何を言っているんだ?


 まぁいいさ。



 こうした工程を繰り返すこと、六日目。

 多くの能力値アビリティとスキルポイントを奪いながら、見事にノルマを達成した。


 しかも与えられた期限より一日も早い形だ。

 おまけに僕のレベルもMAXとなり、【英傑の聖剣】で団長していた頃以上のレベリングに成功している。



『――よくぞ成し遂げた。流石はローグ将軍、我が右腕となる男よ』


「ハッ、魔王様! お言葉ありがとうございます!」


 謁見の間にて、カーテン越しの魔王様からベタ褒めされる。

 跪く僕は意気揚々と返答し頭を下げて見せた。


 ――めちゃ気持ちいい。


 闇堕ちする前は王族達にタメ口が問題視されていたけど、今の僕は忠実な飼い犬だね。

 何しろ僕の実力を認めてくれて、相応のポジを与えてくれた方だ。


 しかも再び《能力貸与グラント》が使えるようになったのも、全て魔王様のおかげ。

 これ、普通に忠誠誓ちゃうレベルじゃね?


「ま、まさか本当に成し遂げてしまうとは……」


「……なんたる男だ」


「口先だけではなったようだ」


「認めざるを得ないだろう」


 あれだけ僕を否定していた四天王達も跪ながら感嘆の声を上げている。

 どうやらNO.2の地位を盤石にしたようだ。


 やれやれ、不本意なんだが……(大嘘)。


 すると何を思ったのか四天王達は立ち上がると、自分らが纏っていたフードマントを剥いで見せてきた。

 その姿に思わず目を見開いてしまう。

 なんと全員が女性だった……しかも相当な美少女の魔族達。


『四天王達は真に認めた者にだけ己の姿を見せる。ローグ将軍、今後は貴様の手足として好きに使うが良い』


 魔王様がそう説明してくる。


 尚、赤髪の美少女系がエデル、白髪で清楚系がシュガ、青髪のボーイッシュ風がキルラ、緑髪の癒し系がムーナという名前らしい。

 全員魔族だがスタイル抜群で男達の願望を具現化させたような美少女ばかりだ。


 そういや以前、僕が「イカ臭い連中」と罵った時、やたらムキになって否定していたな。

 これがその理由だったわけだ。


 あれ? 待てよ?

 今、魔王様はなんていった?

 僕の手足として好きに使っていいと……それってまさか。


「ま、魔王様……それはそのぅ、そっちもOKということでしょうか?」


『うむ、ネイダ以外はな。そやつサキュバスだが任務上、情を交わすことを禁じておる』


 え? そーなの。まぁこの際、ネイダのことは置いといてだ。


 僕はチラッと横目で、エデル、シュガ、キルラ、ムーナを見つめる。

 四人は頬をピンクに染めてムチムチの身体をくねらせ、「ローグ様、どうかよろしくお願いいたします」と恥ずかしそうに小声で呟いた。


「うっひょぉぉぉぉーっ、最高! おっと失礼しました……はい」


 やべぇ、つい素で有頂天になってしまったぞ。

 けどガチ、魔族側に堕ちて正解!


「偉大なるローグ様、これからも魔王様のために共に頑張りましょう!」


「どうか私達を闇へと導いてください!」


「一緒に頑張ろうね! 目指せ、世界征服だよ!」


「貴方様のためなら何でもするわ! 好きなように命令してね!」


 エデル、シュガ、キルラ、ムーナが忠誠を誓うかのように言ってくれる。

 この子達は認めた男に従順になるタイプのようだ。

 ああ、みんなにワッショイされ承認欲求が満たされていく……。


「やれやれ、こんなのできて当然だろ、やれやれ。バフの効果が可笑しい? それってまだバフが弱すぎって意味だよな、やれやれ」


 もう完全にイキリモード全開となる。今の僕は誰にも止められない。

 四天王の女子達が「キャーッ、ローグ様! 素敵です!」と持ち上げてくれる中、ネイダだけは呆れた眼差しで双眸を細めていた。


 

◇◆◇



 翌日。


 四天王の子達と素敵な初夜を迎え、僕は賢者モードに浸っているとやっぱり魔王様に呼び出されてしまう。


 謁見の間にて、早朝だってのに魔王様は玉座に座っている。

 相変わらず姿を見せないカーテン越しだけどね。

 とりあえず跪いておこっと。


「魔王様、お呼びで?」


『うむ、ローグ将軍よ。貴様にエジルダーナの侵略を命じる』


「エジルダーナ? 確かエルフ共の集落がある大森林ですね?」


 どっかの王国ならともかく、そんなとこ侵略して何になるんだ?

 薄いカーテンに浮かぶシルエットが揺らめき強大な魔力が漲る。


『そうだ! 何としても手に入れねばならん! 強化された5百の魔族兵と共に侵攻せよ! 我が所有する「魔竜」を連れて行くがよい!』


 どうやら魔王様は本気のようだ。


 にしても『魔竜』だって?

 そんなヤバイのまで飼い慣らしていたのか……。

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