第114話 魔竜と意外な再会

 


 エジルダーナ。


 ルミリオ王国とオルセア神聖国の中間地点に位置する大森林地帯である。


 どうやら魔王様は、そこを支配し両国を攻める重要拠点としたいようだ。

 さらに森の奥にはエルフ達の集落があり、ある物を後生大事に祀られているらしい。


 ――『精霊の雫スピリット・ドロップ』という名の宝玉だとか。


 なんでも精霊を束ねる「精霊王」から加護を受けた祭具であり、天候や大地を自在に操ると言う。

 それはルミリオ王国とオルセア神聖国の田畑や食料に影響し、おかげで体よく共存関係にあるとか。


 要するに戦略上、その『精霊の雫スピリット・ドロップ』も奪えとのことだ。

 まぁ今の僕なら超よゆーだね、やれやれ。



「わかりました、魔王様。どうかこのローグ・シリウスにお任せください」


 僕は意気揚々と任務を引き受けた。


 作戦は三日後だ。

 それまで準備期間となる。


 僕は将軍らしく部隊の編成など考えることが山積みだ。

 ちなみに四天王の子達は連れて行けない。彼女達は魔王様の側近として魔城マシラゴアの防衛が任務だからだ。

 いや僕も魔王軍じゃNO.2で超側近の筈なんだけど……なんかやたらコキ使われてね?


「エジルダーナのエルフ達は中々の手練れ揃いよ。並みの魔族兵じゃ歯が立たないわ。だから魔王様はローグ将軍に行くように命じたのよ。アナタの活躍で魔王軍の威厳を世に知らしめるためにね」


 ネイダが僕の心を見透かしたように近づき耳元で囁いてくる。

 彼女は僕の監視役でもあるので、将軍の部屋だろうと自由に出入りできた。


「別に不満があるわけじゃないよ……実績を積み上げることで、僕の立場がより盤石となるだろう。魔王様により信頼して頂き、ゆくゆくは一国の王にでもさせてもらうよ」


 自分で言っていて恥ずかしくなる。

 あれだけ周囲に見くびられていた僕が王になるって言っているのだから。


 けど悪くない。

 既に手の届くところまで来ていると思う。


 《能力貸与グラント》の本領を発揮したことで、四天王の子達と使用人の子達も全て僕のモノとなっているからな……ククク。

 後はネイダだけなんだけど……。


 僕はチラっと彼女を見ると、いつの間にかその腕にはフルェイスの兜が豊満な胸に押し付けられる形で抱えられていた。

 両角と棘が付いたオーガの顔を彷彿させる、なんとも厳ついデザインだ。


「……なんだい、それ?」


「見ての通り指揮官の兜よ。一応、五感が強化される魔法が施してあるわ。任務中はこれを被った方がいいんじゃない? 一応、ルミリオ王国じゃローグ将軍は死亡扱いされているんでしょ?」


「そういや、そうだったっけ。どうでもいいから忘れてたわ……別に顔バレしても構わないけど、連中をびびらせる意味でも必要か。有難く使わせてもらうよ」


 僕はネイダから兜を受け取る。てか兜の癖に随分と羨ましいじゃないか……。

 それはそうとだ。


「なぁ、ネイダ――魔王様が所有している『魔竜』とやらを見せてもらっていいか?」


「わかったわ、ついて来て」


 ネイダの案内で王城から出て、少し離れた洞窟へと案内される。



 巨大な穴であり、かなり奥まで続いていた。

 一時間以上も歩かされ、僕達はさらに巨大な空洞のような場所に辿り着いた。


 まるで意図的に加工された王宮の広間だ。

 さらに中央部には、あらゆる生物の頂点に立つ存在が鎮座している。


 ――黒き竜、ドラゴン。


「こ、こいつが……魔竜?」


 漆黒の鱗を持つ巨大な存在。寝ているのか長い首を折り曲げ、棘のある隆々とした尾を丸めていた。

 鋭利な棘は背骨にそって頭部まで連なっており、背中には巨大な翼が折りたたまれている。

 ただ寝ているだけなのに、見るからに圧倒される風格だ。


「ええ、そうよ」


 ネイダは淡々とした口調で答える。


「魔王様のペットだけに強力そうだ……けどこいつ、ちゃんと僕の言うことに従うのか? あんま賢そうに見えないんだけど?」


「大丈夫よ。以前、サキュバスのワタシが魅了魔法で一時的に洗脳して捕えて、魔王様に献上した竜よ。その後、魔王様の力で飼い慣らしたってわけ。ローグ将軍の指示に従うようにしておくからね」


「そ、そうか……ネイダがそう言うのなら問題ないか。んで、こいつの名前は?」


「――サラティノ。それがこの竜の名よ」



◇◆◇



「……シズクさん、ピコさん。貴女達は本当に懲りませんね? いい加減もう病気認定しちゃいますよ」


 早朝いつもの宿屋、そして寝室にて。

 シズクとピコが、第三のヒロインことセナに怒られ縮こまっている。

 原因はテンプレと化した俺の寝床に侵入しようとしたことだ。


「それだけはやめて、セナちゃん。シャノン様にも疑われカンセリングを受けているの――って病気じゃないもん! ご主人様への愛情だもん!」


「アルフだって内心じゃ寂しい筈よ。それに勇者なんだから英雄好色と言うでしょ?」


「ピコさん、おバカですか? いえ二人ともバカですね。今のアルフ様はそのような方では決してありません(以前のアルフレッドならともかく、もう中身が別人なのですから)」


 ちなみにセナは俺が転生者だと理解している。

 お互いの秘密ということで他言無用であった。


「もうバカとか言わないで! セナちゃんだって本当はご主人様と添い寝したいんでしょ!?」


「え? いや、それは……」


 急に歯切れが悪くなる、セナ。


「何よ、それならそうと言ってくれればいいんじゃない。今度から貴方にも声を掛けてあげるわ」


「ぼ、ぼくがアフル様と……うわぁぁぁぁ」


 セナは何故か顔中を真っ赤にして照れ始めている。

 この子ってば、すっかり惑わされおってからに……。


 そういえば原作でも、こんなノリばっかりだったな。

 何かある度にヒロイン達が主人公ローグを取り合うんだ。

 んで奴が苦笑いを浮かべ「やれやれ、参ったな」といつものハーレム展開だ。


 主人公に感情移入できない俺は「何見せられてんだ?」とドン引きしていたのを覚えている。

 きっと隣のベッドで傍観している、ガイゼンとラウルも同じ心境だろう。

 マジごめんな……って、何で俺が謝るんだよ。


(そういや原作だとあと一人、ヒロインがいたっけ。そうそう、セクシー担当のあのネェちゃんだ)


 名前は確か――サラティノだっけ?


 最後のヒロインで、最もヤバイ子だからな。

 彼女の危険度に比べれば、まだセナは可愛い方だ。

 まぁ、すっかり物語も変わっちまったから出会う機会はないと思うけど……。


(けど仮に原作通りなら……敵として現れるかもな――)


 何故か、そう胸騒ぎがした。

 


◇◆◇



「アルフさん、おはようございます」


 食堂にてシャノンが挨拶をしてくれる。


「ああ、おはよう。今日も城に呼び出されている。今回は【集結の絆】全員で行かなきゃいけないようだから付き合ってもらえるかい?」


「わかりました、是非に」


 爽やかで綺麗な笑顔も見せてくれる、シャノン。

 うん、ガチかわいい。また暇をみてデートに誘いたい。


 ちなみにシズクとピコの件は他の女子にはバレていなかった。

 そこは有能な支援役サポーターのセナ。

 見事なフォロー術で痕跡を消し、ガイゼンとラウルに黙っておくようお願いしている。

 シズクとピコも彼女に借りを作ったので、当面は大人しくしているようだ。


 そのセナも聖武器を手にすることができた。

 あのミルズが奪取した片手剣ブロートソードだ。今は別の形態で身体のどこかに携行しているだろう。


「アルフ、今度は何の用なの? またティファ王女関係?」


 パールが勘繰るように聞いてくる。


 仕方ない、実際に俺をちょくちょく呼び出すのはもっぱらティファだからな。

 んで、ついでにっとハンス王子がクエストを依頼してくるんだ。

 やっぱ勇者となると王族達のいい使いパシリだな。

 いや一般的には凄く名誉なことなのだが、やっぱ転生者としてはスローライフを目指したい。


 そう団員達と軽く挨拶を交わし、ルミリオ王城へと向かった。



 が、


 謁見の間に、意外な人物が待っていた。


「――やぁアルフレッド君、久しぶり。ラウル兄さんも元気だったかい?」


「おま、いや……あんたは勇者テスラ?」


 そう、ラダの塔で俺達と共に戦ったオルセア神聖国の勇者だ。

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