第115話 勇者同士の共同クエスト

 


 思わぬ場所での再会に、つい呆然としてしまった。


 けど驚くのはそれだけじゃない。

 勇者テスラの隣に佇む、エルフ族の美少女。


「ア、アルフ……久しぶりだな。また会えて嬉しい」


「キミはリュン? どうしてここに?」


 【大樹の鐘】の団長リュンだ。

 以前はショートカットだったが、しばらく見ない内に髪を伸ばしたようで艶やかな金色髪が胸元辺りで揺られている。エルフ族だけあり凛とした神秘的な美しさを秘めている。


「アルフレッド、私から説明しょう」


 玉座にいるフレート王の隣に立つ、ハンス王子が説明してきた。


 テスラとリュンの目的は、ルミリオ王国とオルセア神聖国の中心に位置する大森林こと、『エジルダーナ』に調査に向かうことらしい。

 以前よりエジルダーナの奥地にはエルフ族の集落があり、エルフ族の長であるイシリオンが、「近々、この森に両国を巻き込むが巨大な不吉が襲来するであろう」と精霊術により予言したそうだ。


「――どうも魔王軍の気配がチラついているから、僕達【太陽の聖槍】がエジルダーナに直接伺って内容を聞きに行く、言わば調査クエストさ」


 ハンス王子の説明後、テスラが答えた。


「そこでアルフレッド、キミ達【集結の絆】も調査に同行してもらいたいんだ。知っていると思うが、エジルダーナはルミリオ王国とオルセア神聖国の境に位置する聖なる森だ。したがって、これは両国間の問題でもあるのだよ」


「王太子殿下の仰った通りさ。そのために勇者として礼節に乗っ取り、フレート陛下に謁見しに来たってわけだよ」


 テスラの言う通り、勇者が自国以外で活動する際の礼節としてその国の王に謁見する必要がある。

 理由はその国の勇者と揉めないよう、国王から色々と許可を貰う必要があるからだ。


 しかしエジルダーナはルミリオ王国の領土ではないし、本来ならわざわざ来る必要もない筈である。

 けど、ハンス王子の言う通りルミリオ王国にも関わる話なのは確かだろう。


 要するにテスラは同じ勇者である俺を誘いに来たってわけか?

 まぁ「ラダの塔攻略」の一件で仲良くなったからな。


「……なるほど、ハンス殿下わかりました。勇者テスラと共にエジルダーナに向かいましょう」


 俺は畏まりながら引き受け、チラっとリュンに視線を向ける。


「それで、どうしてリュンも一緒なんだ?」


「エジルダーナは私の生まれ故郷でもある」


「情報源はリュンからだ。正確には彼女の妹さんからだけどね」


 テスラの説明に、リュンは気まずそうにそっぽを向く。


「……妹はリュナという森を守る戦士であり弓術士アーチャーだ。妹とは私が村を出た時に喧嘩別れに近かったが、聖武器を手に入れ英雄の称号を得てからは見直されたのか、最近では互いの安否を確認し合うまで仲が回復している……つもりだ」


 どこか歯切れの悪い、リュン。

 そういや生粋のエルフ族ほど、他種族との交流はなく閉鎖的な種族だと聞く。

 したがって巷で見かけるエルフ族の大半は、ワケありのエルフか混血のハーフエルフが多い。


「アルフレッド君も知っていると思うが、エルフ族は他種族との侵入を良しとしない。両国とも森の加護を与える代わりに不可侵条約も結んでいるくらいだからね。だから同じエルフ族で集落出身であるリュンの協力が不可欠ってわけさ」


「テスラ殿下のご説明通り、今の私が仲介すれば勇者パーティであればなんとか集落に入れてくれるだろう……っと思う」


 思うって……大丈夫なのかリュン?

 生まれ故郷でいったい何があったんだ。


 間もなくしてハンス王子より「では二人とも頼むよ」と締めくくられ、俺達は謁見の間を退出した。

 その際、すっかり置物と化していたフレート王が「ハンスばっか喋って、余も喋りたかったなぁ……」と不満を漏らしていたのを覚えている。そろそろ世代交代なのだろう。


 エジルダーナに赴く前に、俺達は会議室へと案内される。

 そこで今後の打ち合わせをすることになった。


 会議室には【太陽の聖槍】の副団長フィーヤを始めとする9名の団員達が待機している。

 何故か隅っこには身体の細い盗賊シーフ風の男が体育座りで背を向けていた。


 彼はニック。そう、ゼルネスに成り代わられていた盗賊シーフだ。

 テスラ曰く「ラダの塔の一件で、幹部の中でニックだけ聖武器を手にしてないから、それ以来ああしていじけているんだよ……まぁ仕方ないけどね」と囁かれる。

 そうか、それは難儀だな。後で入団したセナでさえ聖武器を持っているだけにな。


 などと思いつつ、俺達は用意された椅子に腰を下した。


「ん? 【大樹の鐘】のベイルとエリはどうした?」


 ガイゼンは周りを見渡しながら不満げに訊いている。

 特に少年ベイルとは仲が良く、「万一、パーティが解散したらウチに来いよ!」とよく口説いていた。


「ああ、二人ともオルセア神聖国で頑張っている……今ではベイルも団長でエリは副団長を務めているからな」


「ん? それってどういうことだ?」


 俺の問いに、リュンは「あの後、色々とあってな……」と詳細を話し始める。


 ラダの塔を攻略したことで、その名声は国内に広まり【大樹の鐘】に新団員が増え、今では15人となったらしい。

 そしてベイルとエリは第一冒険者と昇格したこともあり、リュンは二人にパーティを委ねたそうだ。


「あれから私は退団し、今はフリーの身となっている」


「どうして? あれほど大切にしていたパーティだったのに」


「そ、それはそのぅ……」


 何故か真っ白な頬をピンク色に染めてチラ見してくる、リュン。


「――アルフレッド君。彼女はね、キミのことが忘れられず【集結の絆】に入団したいそうだ」


 向い側に座るテスラが爽やかな笑いながら暴露する。


「テ、テスラ殿下!」


「そうなのか、リュン?」


 俺の問いに、顔から湯気が出るほど赤面するリュンは無言で頷いた。

 まさかそれが理由であれほど大切に守ってきたパーティを退団するとは……随分と思い切ったことをしたものだ。


 リュンは第一冒険者にして超一流の弓術士アーチャーでもある。

 精密な遠距離攻撃を可能とし、その腕前はラダの塔で存分に証明された逸材だ。


「わかった。リュンなら大歓迎だよ」


「……ありがとう。やはり、アルフだな」


 リュンは瞳を潤まし優しく微笑む。

 普段は凛としたエルフ少女とは異なる、そのいじらしい表情につい胸が高鳴ってしまった。


「オレも副団長として歓迎するぜ、リュン(本当はベイルが良かったがな……団長になっちまったのならしゃーねぇ)」


 ガイゼンの言葉にリュンも「ああ、よろしく頼む!」と立ち上がり、互いに握手を交わしている。

 一見して微笑ましい絵面だがフルェイスの兜越しでもガイゼンの心の内がなんとなく俺には読めた。


 それからシャノン、パールと「よろしくお願いします」と丁寧に挨拶を交わしていく。

 特にカナデとは凛としたキャラが似ているからか気が合うようで「以前から、お主の腕には注目していた」と称え合っていた。


 リュンは他の団員達とも良好に挨拶を交わす中、最後にソーリアと目が合う。


「こ、これはソーリアさん……そのぅよろしく」


 そういや彼女はソーリアに苦手意識を持っていたっけ。


「ソーリアでいいよ。どうせウン百歳も年上なんでしょ?」


「ま、まぁな……今年で256歳となる」


 流石、長寿で有名なエルフ族。だから【大樹の鐘】も執着せず「責務を果たした」という形で割り切り、あっさりと身を引くことができたのかもしれない。


「そうか、だから貧乳ばかりのエルフにしては胸がある方なんだね?」


「は、はぁ……私にはわからない。まるで興味のない話だ」


 すると、ソーリアは不気味に微笑みながらリュンに近づき、彼女の長い耳元に唇を寄せた。


「よろしくね……けど正妻の地位は譲らないよ、うひひひ」


 何かを呟いているようで俺にはよく聞こえないが、耳打ちされたリュンが「ひぃ!」と悲鳴を上げて青ざめている。

 うん……これもコミュニケーションだろう。俺はそう割り切る。


 こうして思わぬ形で、リュンが【集結の絆】に入団することになった。

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