第35話 悪役、英雄視される



「おおっ! ハンス団長、ご無事でしたか!? アルフレッド殿、よくぞ我らの殿下を……騎士団長を救ってくださった!」


 ハンス王子の回復と共に、防衛線を張っていた副騎士団長のブルクと合流する。

 彼ら10名の騎士団も《三位一体トリニティ》によりで三倍強化付与バフされたことで、多くの住民を避難させ守り切った。

 さらに衛兵達と共同し魔族兵達を撃退して見事に防衛を果たしたのだ。


「皆、心配かけてすまなかった。これもアルフレッド殿達のおかげだ」


 ハンス王子も完治している。

 意識を取り戻した後、マカ、ロカ、ミカの魔力が回復し《三位一体トリニティ》スキルを発動し、シャノンの《聖女息吹セイントブレス》が復活したからだ。

 ついでに俺も肋骨の負傷と疲労を回復してもらった。


「いえハンス殿下、私達はフレート陛下に命じられたクエストを果たしたまでのこと。大したことはしておりません」


「何を言う? キミらは私の命ばかりか、タニングの都を救った英雄だぞ? 誰が見てもそう思うだろう。誇るべきだ」


 まぁそうなんだけどね……。

 このまま英雄視され、勇者扱いされても迷惑だ。

 仲間達と気ままな冒険者ライフを目指すためにも、厄介ごとはこれっきりにしてほしい。


 とにかく、これでようやく俺達のクエストは完遂した。



◇◆◇



 惨憺たる光景と化していたタニングの都が落ち着きを見せる。


 スラ吉は巨大になりすぎたため、元のサイズに戻るまで近くの森で待機させた。

 一応、シャノンが可愛がっているだけあり彼女の言う事には従順らしい。

 もしかして調教師テイマーの素質があるのだろうか?


 俺達はしばらく間、ハンス王子を含む騎士団達と一緒に街の復興支援を手伝うことにする。

 以前よくやっていた慈善事業の知識と手腕が役に立つ時がきた。



「あのぅ、貴方はあの時、助けて頂いた剣士様ですよね?」


 不意にどこかの親子連れが声を掛けてくる。

 確か最初に俺が助けた親子だ。

 けど一人、増えており母親らしき女性もいる。


「ああ、あの時の……無事で何よりだ」


「ええ、おかげ様で。騎士団の皆様が守って頂いたおかげで、こうして妻とも再会できまました。本当にありがとうございました」


 父親と共に家族が俺に向けて一礼して見せる。

 結果的に助けた形だけどな……逃げ腰だった前世より少しマシになっただろうか。


「おお、あの方がアルフレッド様か」


「タニングを救って頂いた英雄だ!」


「ありがとう、アルフレッド様ぁ!」


 歩く度に住民達から感謝の言葉が飛び交う。

 悪い気分じゃないが、なんか恥ずかしい。

 けど素直に喜べない自分もいる。

 俺が主人公ローグのような最強チートを持っていれば、より被害を最小にして多く住民達を救えたからだ。


(もっと強くならなきゃ駄目だ……せめてバフに頼らなくても《神の加速ゴットアクセル》が使えるくらいに――)


 感謝される度に、そう自責の念にも駆られてしまう。


「アルフレッド殿、ここにおられましたか!」


 地元の衛兵達が駆け寄ってくる。


「私に何か?」


「その右目、何でも敵将との一騎打ちで負った名誉の負傷とお聞き致しております」


 え? 違うよ。

 まだ上手く操作できないから、うっかり誰かを魅了しないよう予防処置なんだけど。

 寧ろ以前より視力も抜群に良くなっているくらいだし、慣れれば魔力探知もできるらしい。


 すると衛兵の一人が布に包まったモノを見せてくる。

 ――黒い革製の眼帯だ。


「無事に残った道具やから仕入れた物です。どうかこれで保護してください」


「ありがとう、では遠慮なく頂戴します」


 俺は病気と呪い以外は貰う性分なので有難く受け取る。

 右目を覆っていた布を外し、眼帯を嵌めた。


 すると衛兵達から「おお~っ!」と歓声が上がる。

 彼らから鏡を受け取り、自分の顔を眺めた。


 う~ん、イケメンに加え少し強面になったかな?

 けど冒険者として箔がついたと思う。


 原作と差別化するためにも、こういった変化は有だろう。

 衛兵達に感謝の念を伝え、俺は仲間達と共に復興作業を続けた。

 


「……そのために右目を隠しているのですね。アルフさんらしいです」


「だな。そいつの効果を聞いた時はドン引きしたが、まぁ今のお前さんなら変なことに使わないだろうぜ」


「寧ろ【英傑の聖剣】に置いていったら最悪。アルフが持っていて良かったと思う」


 あの後、仲間達に《蠱惑の瞳アルーリングアイ》について説明した。

 みんなには効果を自覚し抵抗力を高めてもらうことも防止策であるからだ。


「正直、まだ制御できる自信がない。うっかり使わないよう、しばらくこうして隠していくつもりだ。あと女子達への誤解防止ね」


「私、ご主人様なら魅了されても構いません。というか既に魅了されてたりして……キャッ」


 シズクさん・ ・、そんな成長したムチムチの身体で言われても……従順なヒロインなのは結構だけど、決まってシャノンが鋭い眼光で睨んでくるからやめてくれない?


「アタシは妖精族フェアリーだから、そういった類に魅了されることはないわ。それより、そこの水色髪の神官プリースト。確かシャノンとか言ったわね?」


 ピコが何故かシャノンを名指しする。


「はい、そうですが?」


「アナタ、人族にしてはエルフ以上に綺麗よね? アルフのなんなの?」


「なんなのと言われましても……以前、同じパーティにいた仲間と言いましょうか?」


「そういうこと聞いているんじゃないわ。まさかアルフの元カノってことはないわよね、ね?」


 何故か俺の彼女ヅラをしてくるピコ。

 ワケのわからない問いに、シャノンはリアクションに困っている。

 まぁピコは放置でいいだろう。



◇◆◇



 タニングの都の復興は一週間くらいで落ち着きを見せ始めた。

 え? 中世時代風の癖に早すぎるだろって?

 だよな、俺もそう思う。

 そこは鳥巻八号の原作世界だから仕方ない。


 けど、こういう部分のガバは良いと思っている。

 誰かが不幸になるワケじゃないからな。



 役割を終えた俺達は、ハンス王子と騎士団を連れて王都へと戻ることになった。

 街中がハンス王子の旅立ちを見送っている。

 自国の王子様なので当然だろうと思った。


 が、


「アルフレッド様に皆様、タニングを救ってくれてありがとう!」


「貴方達こそ真の勇者だ!」


「この御恩は一生忘れません!」


 なんだろう……まさか俺達を称えてくれているのか?


「タニングの住民にとって、キミ達は街を救った英雄なんだ。当然さ」


 ハンス王子は髪を掻き上げ爽やかに微笑む。

 善意でそう呼ばれるのなら素直に喜ぶべきか。


「アルフレッド様ぁ! 必ず貴方様達の石像を建てますので、必ず観に来てくださーい!」


 え? 今なんて言った? 石像!? 俺達の!?

 嫌だわぁ、超恥ずかしい! 目立つの嫌だ云々以前じゃん!


「オレ達の石像か……夢みたいじゃねぇか、アルフ。今度、妻と娘を連れて観にくるかなぁ」


 ガイゼンが呑気に言ってくる。

 いや、お前は一切素顔晒してねぇじゃん!


 かくして住民達に感謝され見送られる形で、タニングの都を後にする。

 


 道中、ハンス王子が俺に話し掛けてきた。


「アルフレッド殿……その折れた剣のことだが」


「殿下、アルフレッドで構いません。どうかいたしましたか?」


「いや、実は我が国が管理する神殿に『聖剣』が祀られていてね。本来なら勇者の称号を得た者が引き抜くべき剣なのだが、キミのほどの男なら称号がなくても可能じゃないかと思ったんだよ」


 聖剣?

 ああ、あれか……あれね。


 また嫌なイベントを思い出すわ――。



―――――――――――

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