第36話 聖剣との因縁



 聖剣はルミリオ王国で管理する『ブレイヴ神殿』で保管されている。

 なんでも数百年に一度、魔王が出現する度に勇者の称号を与えられし者に与えられる特殊な聖武器であるらしい。


 普段は台座に突き刺さった形で飾られており、引き抜くことで聖剣の所有者となるとか。

 また聖剣が所有者を選ぶと言われており、たとえ勇者の称号が得られようと聖剣が認めなければ引き抜くことができないのだ。


 もうおわかりだろ?


 そう、アルフレッドは原作でこのイベントにトライしている。

 主人公ローグ追放後、勇者の称号を得ていた奴は聖剣を抜こうと仲間達と共にブレイヴ神殿に訪れたのだ。


 けど抜けなかった。

 必死で引き抜こうとしたが、うんともすんともいわなかったね。


 そりゃそうだ。


 アルフレッドの力は所詮、ローグの《能力貸与グラント》スキルで得た仮初の力。

 追放したことで力の全てが没収され、奴は名前だけの勇者となり聖剣を手にする資格を失っていたのだから。


 んでアルフレッドは、「ケッ、こんなしょぼい剣なんていらねーや!」っと半泣きで捨て台詞と唾を吐き、しょんぼりと身を引いたというざまぁ話だ。


 しかし話はここで終わらない。


 その後、何故かローグがブレイヴ神殿で聖剣を抜いている。


 確か能力値アビリティがMAXとなり、自分に合う武器がないという理由で聖武器に目を付けたようだ。

 言い出しっぺは仲間にしたピコだった気がする。


 んで見事に引き抜いたローグはシズクから「おめでとうございます、ご主人様! 流石です!」とベタ褒めされ、「よせって褒めすぎだ。やれやれ」って感じになった。


 だがよぉ、俺は読者側としてツッコませてもらうわ――。


 こいつら不法侵入だからね!

 何、真夜中にしれっと神殿の扉を解錠して勝手に聖剣抜いてんだよぉ!

 国で祀られて管理されている武器だろうが、ああ!?

 あっ、だったら窃盗罪も含まれるわ!


 俺はそういう部分のご都合展開ガバが大嫌いだ!

 しかもよぉ! その後、ティファ王女やフレート王、ハンス王子に聖剣を見せているのに誰も指摘したり咎めもしねぇんだ! 


 さらに「おお、あの聖剣を抜いていたとは其方こそ真の勇者であったか」だってぇ!?

 いや、そいつ泥棒だよ! 無断で国が所有している筈の聖剣持ち出してんじゃん!

 神殿の維持費や管理費は国民の税金だろうが!! お前らいい加減にしろよ!!!


 原作者、鳥巻八号は度々こうした傍迷惑系ガバをやらかしやがる!

 感想欄が荒れようと都合が悪くなったらスルーするんだ!

 こんなんでよくアニメ化までこぎつけたよな……どっかの信者がお偉いさんに賄賂でも渡してんじゃねぇの!?


 おっと、つい熱くなり過ぎたわ……落ち着け、俺。


 そういうわけで、アルフレッドとして聖剣はろくな思い出しかなかった。

 今じゃ聞いただけで虫酸が走る。


「……ハンス殿下。買いかぶりすぎです。私に聖剣を手にするほどの器など備わっておりません」


「相変わらずキミは控えめで謙虚な男だ、アルフレッド……まぁそこが気に入ったんだけどね。けど挑んでみる価値はあると思う。駄目なら駄目で、私の方からキミにあった専用武器をドワーフの鍛冶師に作るよう指示しよう。是非、今回の褒美として受け取ってほしい」


 やたらと推してくる、ハンス王子。

 けど悪い話じゃなくなったぞ。


 何せ聖剣が抜けなくても、俺専用の武器を作ってくれるというのだ。

 しかもドワーフの鍛冶師といえば、かなりの精巧で強力な剣となるだろう。

 そんなに恥をかくこともなさそうだし、やるだけやってみるか。


「ではお言葉に甘えて挑んでみましょう」


 などと会話をしながら、三日ほどかけて王都へと帰還した。



◇◆◇



「――おおっ、ハンスよ! 無事で何よりだ! それにアルフレッドもよくやってくれたぞ! なんでも救出しただけでなく敵将の魔族戦士を討伐し、タニングの都を救ったというではないか! 実はやればできる男だったんだなぁ、其方は! ええ!?」


 城までハンス王子を送り届けたら、やっぱりフレート王に呼び止められる。

 テンプレに則り早速称賛を受けた。


 ところで、やればできるってどういう意味だよ?

 国王、あんた俺をどういう目で見ていたんだ?


 やっぱ今回のクエスト、ティファ王女に集る悪い虫だと思われ無理難題を吹っ掛けられたのか?

 まぁ俺的に上々すぎる結果を得られたわけだし、深く考えるのはやめよう。


「ありがとうございます陛下。しかし私一人では完遂できぬこと。仲間達がいてくれたからこその成果です。それに騎士団の皆様も多くの住民を避難させ守り抜いた英雄でございます」


 俺の言葉を聞き、副騎士団のブルグは「アルフレッド殿~!」と男泣きをしている。


「うむ、無論その通りだ。しかし作戦の指揮及び先頭となって戦ったのは、紛れもなく其方だと聞く。その後の復興支援も実に見事だったと……もうこれ、褒めるしかないだろ?」


 少しずつ口調を変わりフランクになるフレート王。

 原作でも打ち解ければこんな感じの国王だ。


「アルフレッド様……よくご無事で。そして、お兄様を救出して頂き心から感謝しておりますわ」


 王女ティファも瞳を潤ませ感謝の気持ちを伝えている。

 俺達が出発した後、フレート王から詳細を聞いたようだ。


「はい、姫様。ご心配ありがとうございます」


「ですがその右目の眼帯は?」


「え? ええ……少し負傷を。ですが見えないわけではないのでご安心を」


 まさか魅了系の呪いの魔道具と眼球を融合させたとは言えない。


「そうですか……それでも貴方様の麗しさは少しも損ないません。わたくしの気持ちは永久に変わりませんわ。だからご安心ください、アルフレッド様」


 ん? 姫さんってば何をご安心するんだ?

 なんか変な方向に進んでね?


 何故だろう……さっきから背後に鋭い視線を感じるぞ。

 パーティの女子達だろうか?


 微妙な空気が流れる中、ハンス王子が口を開く。


「父上、実はこれからアルフレッドに、ブレイヴ神殿で聖武器の試練を与えようと思っているのですが?」


「聖武器の試練? ああ勇者の称号を得た者が聖剣を引き抜く試練か……何故、アルフレッドなのだ?」


「この度の活躍からして、彼が相応しいと見込んだからです。本人は一度、勇者を辞退しておりますが、その資格は十分にあると思います。試す価値はあるかと」


「そ、そう? ふ~ん、そうなんだ……うん、余も個人的には相応しいと思うぞ、うん……」


 なんだろ?

 フレート王ってば急に歯切れが悪くなったぞ。


「父上、どうされましたか?」


「う、うむ……実はな。先約がおるのだよ」


「先約ですか? いったい誰が?」


「――【英傑の聖剣】の団長、ローグ・シリウスだ」


 なっ! ロ、ローグだと!?

 マジか!?


 驚愕したのは俺だけじゃなかった。

 背後の方で跪いている、ガイゼンやパール、そしてシャノンが「え!?」と声を上げている。


「お父様、ローグっといえば!」


「うむ、ティファよ。お前に恥をかかせた男だ」


「父上、何故そのような者に試練を?」


「仕方あるまい……【英傑の聖剣】といえば、我が国トップの白金プラチナクラスの冒険者集団。奴はそこの団長であり強さは確かだ……しかも先日、アルフレッド同様に出没した魔王軍の幹部を撃退している。実力からして次の勇者候補となるのは必然だろう」


「わたくし納得できませんわ! 勇者とは武勇だけでなく人格も問うべき英雄です! そうアルフレッド様のような方が相応しいでしょう!」


 姫さんもいちいち俺を引き合いに出すのやめてもらえます?

 その度に背後から殺気めいた視線を感じるんだわ。


 にしても、やっぱローグ来たかぁ……。


 んじゃもう聖剣を手にするのは奴でいいんじゃね?

 俺はハンス王子が提供してくれる専用の剣でいいからさぁ。


 などと楽観的に考えていた俺が浅はかだった。



―――――――――――

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