第25話 悪役と国王の因縁



 ルミリオ王国の国王、フレート・フォン・ルミリオ。

 早くに妻を亡くしたからか娘のティファを溺愛する傍迷惑なパパさんだ。


 原作では最初こそ愛娘が一目惚れしたローグに嫉妬し無理難題を吹っ掛けていたが、とある貴族の反逆を鎮圧したローグに感謝し、それ以降はティファと共に推しのパトロンと化す。


 一方でアルフレッドに対しては最初の頃こそ期待感を持たせておいて、娘を侮辱したことを知ると冷遇するようになり、なんやかんや屁理屈を述べて国からいられなくして追い出した。


 アルフレッドはその怨みもあり闇堕ちした後、ルミリオ王国に復讐を企てるもローグによって阻まれ失敗に終わり囚われてしまう。

 それから兵士や民衆に嬲られる形で集団リンチに遭い、最終的に処刑するよう指示した男こそが、そのフレート国王というわけだ。


 したがって、ローグに続く……いや奴以上に因縁深い宿敵でもある。

 ぶっちゃけ、そんな奴に会いたいと思う?

 はっきり言って顔も見たくねーっ。


 今の俺にはそう思えて仕方ない。だから勇者の称号もきっぱり断ったんだ。


「アルフレッド様、どうか来て頂けますか? 勿論、お仲間の皆様もご一緒に……心からお礼と丁重におもてなしさせて頂きますわ」


 ティファが上目遣いで瞳を潤ませ懇願してくる。

 とても可愛らしく、つい流されてしまいそうだけど……嫌だなぁ。


 そう俺が悩んでいると、ガイゼンが顔を寄せて耳打ちしてきた。


「別にいいんじゃないか、アルフ。もしかしたら、お礼として金をくれるかもしれねぇ。それにこの嬢ちゃんの身形の良さから案外、貴族かもしれねぇぞ」


 全身鎧男の癖にやたらと鼻が利く男だ。

 けど正体は貴族よりも超上流階級である一国のお姫様だけどね。


「パルもいいと思う。貰えるモノは病気と呪い以外は貰うべき」


 とても11歳の発想とは思えないぞ、パール。

 シズクとピコも別に構わないという意見だ。


 確かに悪意はなく金の臭いがする話だけに、みんな意外と乗り気になっている。

 これで俺だけ断ったら、それこそ勇者の称号を断った時みたいに不審な目で見られてしまいそうだ。


「……わかったよ、お招きに預かろう。けどティファさんに一つ約束ごとをしてほしい」


「はい。アルフレッド様、わたくしになんなりと」


「――お招き先では常に俺の傍にいてほしい。こう見えても人見知りするタイプなんでね」


「まぁそんなことでしたらお安い御用ですわぁ。寧ろそうさせて頂きますわ!」


 俺からの要望に頬を染めて上機嫌となる、ティファ様。


 これは俺なりの予防策だ。

 あのフレート国王、娘の前では良いパパでいたいらしく本性を見せることは滅多にない。

 ローグとの絡みでもティファが席を離れたのを見計らって素のキャラを晒していたのだ。


 だから彼女が傍にいてくれたら変に絡まれることはないだろう。

 とっととお礼を貰って帰ろうっと。


 ティファは「では夕方にお迎えいたしまあすわ!」と告げて嵐のように去って行った。

 ちなみに庶民風の姿であったが、今回はお忍びではなかったようだ。


 実は宿屋の前で豪華な馬車と数十名の騎士達が護衛として待機していた。

 どうやらティファは俺に認知してもらうため、わざわざ以前の姿で訪れてくれたらしい。

 自分が王族であることを伏せたのは、俺に敬遠されないよう配慮したのか?

 あるいは悪質なサプライズなのかは不明だ。


「げっ! あの嬢ちゃん、実はお姫様だって!? オ、オレぇ、もろ『糞やかましいネェちゃん』とか言っちゃったけど、無礼打ちとかで首ちょんぱされないかな!?」


 ティファが去ってから結構な騒ぎになったので、俺は憶測と称してネタバレしてみた。

 途端、ガイゼンが今になって焦り始める。


「まぁ朝食中に押し掛けた彼女側にも問題がある。それにあの様子だと気にしてないと思うぞ……ローグは完全に詰んだようだけどな」


 相当恨み節を唱えていただけに……原作者の鳥巻八号もびっくりの逆転展開だろうぜ。



◇◆◇



 日中は冒険者ギルドでクエストを請け負い、森に住み着くモンスターの討伐依頼を請け負った。


 皆、レベルダウンした状態なので固有スキルは使えないがパーティで連携すれば、中級モンスター程度は斃せる実力はある。


 とはいえ、戦闘のメインはシズクの経験値稼ぎだ。


 シズクはモンスターの攻撃を回避しながら、二刀の短剣ダガーでのカウンターなど、身体はまだ幼いままだが原作のヒロインらしい活躍を見せている。

 そういや原作じゃ初戦闘では戸惑って怯えまくっていたのに、俺の奴隷になってからはその気配が見られない。割と堂々と戦っている。


 ローグと何か違うのか気になったので、それとなく彼女に訊いてみた。


「――何かあれば、ご主人様が必ず守ってくださいますし、皆さんも頼もしく共に戦ってくれるので、私も安心して戦えています!」


 シズクはそう笑顔で応えてくれた。


 なるほど……そういやローグの野郎は、いつもシズクの後方で命令してばかりだった。

 んでシズクの危機や見せ場っぽい場面で、「やれやれ面倒だ……」とかドヤ顔で助けに入り無双する話がテンプレだ。


 つまり噛ませ犬ならぬ、噛ませヒロイン。

 だがシズクは「ありがとうございます、ご主人様!」とか「流石です、ご主人様!」など主人公を非難することは一切なく、ひたすら祀り上げる全肯定ヒロインだった。


 んなもんばっか見せられるもんだから、読者の俺は冷めた眼差しで「このチョロインといい、ガチで相変わらず酷いご都合主義ガバだな~」と、モヤモヤした気持ちしか抱けなかったんだ。


 こうして間近で戦いを見ると、その小さな身体で健気に頑張っていると思う。

 けど俺が目指すのはチームの連携だ。みんなで戦いフォローし合うこと。


 だからか?

 シズクも俺達と一緒に戦うことで不安を見せず、自分の力を発揮し戦えているようだ。


 その一方で、


「みんな結構やるじゃな~い。アルフぅ頑張れ~、ヒューヒュー!」


 もう一人のヒロインこと妖精族フェアリーのピコは、俺の傍で飛び回りながら応援している。

 そういやこの子、原作でも戦闘時は応援役や驚き役の盛り上げ担当だった。


 今のところ、ピコの固有スキル《幸運フォーチュン》が発動された片鱗は見られない。

 ストーカーばりに俺に付きまとっている癖に、まだ心から信頼していないのだろうか。

 主人公ローグには「マスター」と呼び、チョロインだった割には気難しい妖精族フェアリーだ。



 かくして、みんなで連携を取って戦いながらモンスターを全滅させた。


「――よし、クエスト終了だ! みんなよくやってくれた!」


「ああ、アルフ! 以前ほどじゃないが、そこそこ連携も取れるし上々じゃねぇか?」


「そうだな、ガイゼン。まだ申請してないがパーティ登録すれば、今の俺達なら青銅ブロンズクラスでもいけるかもしれない」


 冒険者ギルドでパーティを登録することで、ギルドカードに七段階の等級が付くようにパーティにもクラス等級がつく。


 以前所属していた【英傑の聖剣】は最上位の「白金プラチナクラス」であり、その下に「黄金ゴールド」「白銀シルバー」「青銅ブロンズ」「黄銅ブラス」という順位で五段階のクラスに分かれていた。

 ちなみにクエスト達成の成果と各団員達が保有する等級や人数でパーティランクが上がっていく仕組みだ。

 したがって第一級冒険者が多いほど上位にのし上がれる。


「アルフ、まだ仲間を集め上位クラスを目指すの?」


「どうだろうな……パール。まずは地盤を固め、俺達自身が強くならなきゃいけないと思っている」


「ご主人様、私一生懸命頑張ります!」


 シズクは拳を握りしめやる気を見せてくれる。


「ありがとう、シズク。期待しているぞ」


 そんな彼女の頭を優しく撫でると、「ふにゅう」っと気持ち良さそうに瞳を細めて見せた。


「しょーがないから、アタシもいっちょ頑張って応援してあげるわ!」


 いやピコよ、応援も結構だがまずは俺達を信頼してくれ。



 それからギルドで報酬金を受け取り宿屋に戻ると、思っていた通りルミリオ王家の紋章が刻まれた馬車が停留していた。



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