第5話 ただの門番、仕事にありつく
王都から離れて、俺たちは東の大森林近くまでやってきた。
ここからさらに東に向かうとパルバリー神聖国がある。
けれど、装備や加護やツテもなしに、大森林を進んでいくことは推奨されていない。
というか危険だ。
精霊が悪さをするので大森林の中をさ迷い歩くはめになり、もし運が悪ければ、あるいは精霊に嫌われたら、森から一生出られなくなる。
ただの門番がそんな危険な場所に行けるはずもなく。
俺たちは大森林側の、ボロロ村に向かった。
国境付近の村ならば、大なり小なりで問題も多いだろう。
良さげな仕事にありつけるかもと考えたのだ。
草原に埋没しつつある街道を歩いていき、昼頃、ボロロ村に到着する。
丸太の壁に囲まれた小さな村で、俺とサクラノは赤い屋根のお家の前に立っていた。
ここが村長の家らしい。
「あーん? 仕事が欲しい?」
体格のいい村長が、扉の隙間から俺たちを……特に、俺をジロジロと観察してきた。
――なんだこのモブっぽい、印象うっすい奴は。
言われずとも、村長の目でそう伝わってくるな。
「冒険者か?」
「いえ、違います」
「冒険者でもない? 前はなにをやってたんだ?」
「以前は、王都で兵士をやっておりました」
「ふーん。……仕事かあ、村のもんはできることは自分でやるしなあ。
本当に困れば、冒険者ギルドを頼ればいいし……」
「なんでもやりますよ」
「だったら、アンタなんで冒険者をやらないんだ?」
大貴族の子弟を注意したせいで睨まれてしまい、冒険者ギルドに加入できなくなりました。
と、説明したら、ここでも仕事にありつけなさそうだな……。
くそう……。
あいつらの仕打ち、国外追放と変わりないじゃないか。
そのつもりで父親に告げ口したんだろうが。
「すぐに村から出て行け」
厄介者だと察した村長は、扉を閉めようとした。
しかし、サクラノがカタナを抜いて、強引に扉をガコーンッとあける。
「貴様ああああ! 師匠が頼んでいるのに、なんだその態度は! 処すぞっ!」
「待て待て待て待て⁉」
俺は慌てて、サクラノを後ろから羽交い絞めにする。
「落ち着け! な⁉ 俺は気にしてないから!」
「ガルルルルルルルッ!」
「はい! 深呼吸! 吸ってー吐いてー!」
「ふううーーーーーーー」
「落ち着いたか⁉」
「……グルルルルルッ!」
サクラノは怒りの形相で、歯をカチカチ鳴らしている。
狂犬か⁉
ああでも、この子。手当たり次第に喧嘩を売るような子だったわ。
俺への態度で忘れるところだったが、血の気が多い。
倭族全体がそうなのか、生まれが特殊なのか。
狡嚙流とやらがなにか関係してんのかなあ。
「ううー……!」
サクラノは低く唸って、村長をにらんでいる。
村長は腰を抜かして、すっかり怯えていた。
「ひいいいい! たすけてくんろー!」
「グルルルルッ!」
いかん。
大騒ぎになっては、近隣の村々での仕事もなくなりかねん。
サクラノも変なスイッチが入っているようだし……。
脅すようだが、狂犬と化したサクラノをなだめるためにも、俺は頼みこんだ。
「あ、あの! ほんと仕事はなんでもいいんで!
俺の勤務態度が悪ければ、すぐ辞めさせていいですから!
それでこの子も納得すると思うんで! ほんと申し訳ないんですけども!」
俺が無害だとわかったのか。
あるいは狂犬使いだと思ったのか。
村長は震える声で言った。
「も、門番の仕事なら~……!」
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