第31話 ただの門番、約束をする
のどかなバニー村の日常が戻ってくる。
村総出でバニースーツを着ていたのは本当に祭り限定だったようで、バニー姿の人はもう数えるほどしかいなかった。
祭りを終えて晴れ晴れとした彼らに『闇だ。暗部だ』と疑った自分が恥ずかしくなる。
いや、ある意味で人間の闇はあったんだけども……。
村長もメメナに説得されるまでは、逆さバニーを復活させるつもりだったらしいし。
最後は雑魚モンスターが湧いてちょっとゴダついたが、ちょっと特殊な村なだけで平和な場所なのはわかった。
そんなわけで俺たちはさっくりと旅立つことにする。
急な旅立ちだったが、村長とアヤシ婆が見送りにきてくれた。
村長がウサ耳ヘアバンドをゆらしながら頭を下げる。
「このたびはご尽力いただきありがとうございました」
メメナが微笑みながら言う。
「なーに、村を想う気持ちが本物だとわかったからこそ、ワシも手伝ったんじゃ。その気持ち、忘れるでないぞ」
「……はい、村のみんなをもっと信頼します」
「お主はまだ若い。困ったら遠慮なく周りを頼れ」
バニー村の今後についてだが、あらためて村人たちと相談するらしい。逆さバニーは完全封印して、伝統あるバニースーツの良さを世間に広めていくそうだ。
村人全員が同じ方角を見ているのなら、きっと上手くいくだろう。
俺は、そう信じることができた。
「……この村のバニースーツはいいものだと思います。応援していますよ」
月並みの言葉になってしまったが、村長は救われたように笑ってくれた。
ところで、村長がバニー祭りに力が入りすぎていたのは、なんでもヴァニー様がお眠りになる洞穴の封印が解けるという話を聞いたそうな。
そんな背景もあり、強行気味になったようだ。
ただ、肝心のヴァニー様の洞穴はもぬけの殻だったとか。
どこに消えたのだろうと雑談していた俺たちに、アヤシ婆がこう告げた。
「ヴァニー様は人好きなお方だ。もしかしたら人間の姿に化けて我らの祭りを見学し、どこかに旅立ったのかもしれぬな」
本当かはわからない。
けれど、その考え方は素敵だと思うし、俺もそうであって欲しいと願った。なぜかスルが息苦しそうにしていたが。
俺たちもヴァニー様を見倣い、そうして旅立つ。
メメナはウサギのように軽やかに、サクラノとハミィはまだ恥ずかしいのかちょっと赤面しつつ、スルもどこか表情がサッパリしている。
メメナは草原を歩きながら楽しそうに笑う。
「ふふっー、次はどの村に行くかのう! オススメの村があるんじゃがー」
さすがに、俺たち一同は待ったをかけた。たまーーにならこんな機会があってもいいが毎度毎度つづいては俺の精神がもたない。
ひとまず、スルの護衛をつづけようと思ったのだが。
一番前を歩いていたスルが笑顔でふりかえる。
「うちはここまでだね!」
いつもの作り笑みに見えたが、ちょっと違う。
覚悟を決めたような、腹をくくったような、そんな笑みに俺は不安を覚える。
「……スル? 本当にいいのか?」
「うちの用件はもうあらかた済んだしねー。旦那たちの楽しい旅を邪魔するわけにはいかないよ!」
「邪魔なんて……そんなことないよ」
ツッコミが少ない現状。
純正ツッコミ人間の存在はとてもありがたかったのだが。
「もしや旦那、うちを仲間にいれたいの? そんなに女の子をはべらせたいんだー」
「そ、そんなこともないぞ!」
「どーだか! 旦那のまわりは可愛い子ばかりだもんねー?」
スルは人を食ったようにケタケタと笑う。
メメナとのあれこれをバッチリ見られていたわけだし反論するほど泥沼かも。
「それじゃあね、今までありがと!」
スルは笑顔で別れを告げる。
笑顔なのに、なんだか物寂しい表情にも見えた。
強く引き止めるべきか考えていると、メメナが穏やかな笑みで呼ぶ。
「スルよ」
「ん? どったのどったの?」
「エルフのお守りじゃ、持っておくがいい」
メメナはそう言って、刺繍が施された小さな袋を手渡した。
「? えーっと、ありがとう」
スルは小さな袋をぼんやり見つめたあと懐にしまう。
そして悪魔の尻尾をゆらして、俺たちから去って行こうとした。
「スル!」
そんな彼女の背中に、俺は叫んだ。
「また、いつか! 一緒に旅をしような!」
また。いつか。
そんな言葉は歳を重ねるほど約束にならない約束だとわかるが、それでも彼女との関わりを作っておきたくて、そう叫んだ。
スルはふりかえらずに、バイバイと手をふった。
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