ただの門番、実は最強だと気づかない ~貴族の子弟を注意したせいで国から追放されたので、仕事の引継ぎをお願いしますね。ええ、ドラゴンや古代ゴーレムが湧いたりする、ただの下水道掃除です~
第26話 ただの門番、バニー村の因習に気づく③
第26話 ただの門番、バニー村の因習に気づく③
「バニー村にようこそ!」
俺の門番台詞が村の中央広場で炸裂する。
いつもならちょっと距離を置かれたりするのだが今回はそうでもない。祭りが近いこともあって人の出入りが多くなり、警備ができる人間は貴重なのだ。
「バニー村にようこそ!」
バニースーツを着た村人や、冒険者が俺を素通りして行く。
そう! この置物感! 久々だなあ!
「……旦那はなにをしているわけ?」
スルがジト目で俺の隣に立っていた。
「見てわからないか?」
「んー、わかりたくないなあ」
理解の拒否ときたか。相互理解は円滑な人間関係に大事なことなのに。
俺は拒まれても説明する。
「祭りまで暇だしな。なにか手伝えることはないか……門番の席があいてないかどうか村長さんに聞いたんだよ」
「門番の席が埋まることなんてあるのかなー」
「あるさ。俺がいるかぎり、門番の席は必ず埋まる」
「かっこいい台詞っぽく言われましても」
キリリと表情つけて言ったが、さらりと流された。
スル。明るくてサッパリした性格のようで根はシニカルだよなー。
と、このままでは暇つぶしで警備の仕事をしているだけのように見えてしまう。
「……実はさ、この村の日常に潜りこむためでもあるんだ」
俺が声のトーンを落として言ったからか、スルが真面目な顔になる。
「やっぱり旦那。王都の兵士ってのは世を忍ぶ仮の姿だったんだね」
「へ??? いや特にそういう設定はないけど……」
「……あ。そう」
スルは脱力したように肩を下げた。
なにかご期待に沿えなかったのかなと不安になりながら、こしょこしょと告げる。
「……この村には隠しごとがある。俺はそれに気づいたんだ」
「隠しごと?」
「村の人たちは必死で隠しているようだけどさ。俺には隠しごとが通じない。門番業務で鍛えあげてきた直感が『超ヤバイ』と伝えてくるんだ」
「旦那の直感のが怪しく思えるんだけど」
なんで。
不審者を見つけるのは得意なほうだったんだぞ。
「それで、旦那が気づけた隠しごとってのはなんなのさ」
「ああ……『逆さバニー』。おそらく、ものすごく危険なものだ。俺にはわかる」
「あれだけの騒ぎを起こせば誰だって怪しいと思うよ???」
スルの瞳が冷え冷えとしている。
うんまあ、俺以外にも気づいている人がいたのならそれでいいんだ。
「つまり旦那は村を内側から調査するため、警備の仕事を?」
「だな。禁忌とされている逆さバニー。そして邪王に反旗をひるがえしたヴァニー様の伝承。歴史の闇に抹消されたおそるべき闇が、この村にはひそんでいるのかもしれない」
しまった。闇を二回も言ってしまった。
雰囲気を崩さないように俺は真顔でいたのだが、クスリと笑われる。
「旦那はずっとそんな調子だったんだね」
どんな調子なんだろう。真面目も真面目なのだが。
でも作ったような笑みが多いスルの自然っぽい笑みだ。よくわからないけど、黙って笑われていよう。
「ところでスルの用件はよかったのか? 俺たちに付き合う形になったけど……」
「んー……、この村が気になったし大丈夫だよ」
なるほど、悪魔族の取引先になりえるか裏を探っておきたいわけだな。
仕事熱心だなーと感心していると、はずむような声が背後から聞こえてくる。
「兄様たちー! お待たせなのじゃー!」
「メメ……なっ⁉」
俺は目を見開いていた。それはもう、ガンガンに見開いていた。
なぜなら、とっても愛らしいウサギバニーが三人もいたからだ。
まずはサクラノウサギだ!
ぴょこんとウサ耳ヘアバンドをゆらし、周りの視線をチラチラと気にしている。
サクラノは手足が長く、すらりとした体系だ。綺麗な足はストッキングが映えるし、肩から腕のラインは無駄がない。形のよい胸がボディスーツで強調されていて、普段露出度が抑えめな分、ギャップで際立っていた。
「師匠ー……肌がスースーします……」
サクラノは頬を赤くさせながらカタナをチャキリとさせた。
「おおー……」
可愛い……でもカタナは手放せなかったか。そこがサクラノなんだが。
いやだけど案外バニースーツとカタナって意外と合うな?
俺がじっくりと見つめていると、サクラノが不安そうに眉毛をゆらした。
「し、師匠……あの……その……」
「可愛い! サクラノ、すごく可愛い‼‼‼ ずっと見ていたいぐらい可愛い! 腰のカタナも似合っているよ‼」
ホント合うな、バニースーツとカタナ。
もちろん、バニースーツを着たサクラノもべらぼうに似合っているので遠慮なく褒めた。俺は自分に正直でいたかった。
サクラノは湯気がでそうなほど顔を真っ赤にさせる。
「はひゅー……!」
よほど恥ずかしいのか、サクラノはカタナを高速で鞘にちゃきちゃきと抜き差ししている。
そんな仕草も可愛い……。
いやちょっと怖い……いや可愛い‼‼‼
可愛いと怖いの天秤で俺がゆらいでいると、第二の刺客が逃げようとしていたので、メメナに背中を押されていた。
バニーハミィだ!
ウサ耳ヘアバンドを弱々しくゆらすハミィウサギ。
バニースーツを着たハミィは露出度が減ったと言えるかもしれない。
だがちがう、ちがうのだ! 露出度はささいな問題なのだ!
ボディスーツに彼女の魅力がこれでもかと凝縮されている。彼女を支えるしっかりとした両足は、網タイツでさらに『強さ』がにじみ出ていた。
そして、ボディスーツを破壊しかねない爆乳!
強い! ただただ強い‼‼‼ 強い‼
「うぅ……ハ、ハミィ……牛獣人なのに好奇心に負けて、バニースーツ着ちゃったぁ……」
当のハミィは羞恥心と後悔に苛まされるような表情でいた。
気にするところはそこなのか。
牛獣人としてバニースーツを着ることに抵抗があったようだが、魔術装備として優秀なバニースーツの誘惑に負けたようだ。
「すごいぞハミィ!」
「せ、先輩……?」
「すごい! すごい!」
「ハミィ、すごいの……?」
「すごい‼‼‼」
語彙が足らなくて、すごいすごいと俺はくりかえしていた。
むしろ俺なんかが言語化することでハミィの魅力が損なわれる気がした。
すごいものはすごい。それだけでいいのだ!
「すごい‼‼‼」
「え、えへへ……。ハミィの魔術が自動でかかったみたいね……」
ハミィは恥ずかしながらもちょっと嬉しそうにした。
ふううー……まったく、サクラノもハミィも自分からバニースーツを着る子じゃないぞ。おらくメメナが誘導したのだろう。
……やれやれ、ホント悪戯好きだな。
君という仲間に出会えて、俺は幸せものだ!
そしてバニーメメナだ!
銀髪バニーウサギの露出度にそう変わりない。
子供らしい華奢なラインに、ボディスーツが女性らしさを与えることで背伸びした可愛さが詰まっている。真白い足は太陽の輝きに負けないぐらいだ。
まさに悪戯ウサギといった感じ!
「どうじゃ兄様ー」
メメナはご満悦そうにくるりと一回転する。
「可愛い!」
「じゃろーじゃろー、もっと褒めてくれてもええんじゃよー」
「可愛い!」
「……ワシに興奮したーと言ってくれてもええんじゃよー?」
キワドイ発言を、俺は笑顔のまま受け流した。
メメナはちょーっと不満そうにしている。
俺としても褒めてあげたいのだが、バニー姿の子供を必要以上に褒めすぎるのは危険だ。俺が大声をあげたことで注目を浴びているし。
「兄様ー?」
「……ご時世がさ」
「危うい道を進んでこそ勇者だと思わんか」
それじゃあ勇者がただの危険人物になる。
そもそも、ただの門番だが。
「そ、それよりメメナ、三人ともバニースーツを着てどうしたんだよ?」
強引に話をそらしたが、メメナは仕方ないなあと微笑んでくれた。
すると少女がぴょんと跳ねて、俺に密着しながらささやいてくる。ちょっとドキリとしてしまった。
「兄様も気づいておるよな、村のあやしそーな雰囲気に」
「……逆さバニーのことだな?」
「のどかな村じゃ、気になりもしよう。ここはワシらも身体を張って、村にどっぷりと溶けこもうと思ったわけじゃ」
「メメナ……そのためにバニースーツを……」
メメナの献身的な言葉に目頭が熱くなる。
小さな子にこれだけがんばってもらっておいて、応えないなんてありえないな。
「ありがとう! 俺もがんばって、この村の真相を探ってみるよ!」
「うむうむ。ワシもがんばらせてもらうのでな。兄様はワシらのバニー姿……もとい、活躍をいっーぱい見ておいてくれな」
メメナが任せてくれと微笑んだ。
本当に頼りになる少女だ。いつも余裕がある態度だからか、ついつい年上なのかと錯覚してしまう。俺の何倍も生きてきたように思えるのは、さすがの元族長か。
けれど。
メメナの笑みが妖しげで悪いこと考えてそうな目つきなのは、俺の勘違いだろうか。
「旦那も大変そうだねー」
そう、スルが苦笑していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます