第27話 ただの門番、バニー前夜祭で警備をする

 日にちがちょっぴり経って、バニー前夜祭がはじまる。

 陽が沈んで、バニー大祭りを前日にひかえた村は賑わっていた。


 村のいたるところでヴァニー様キャンディーなどの露店が並ぶ。邪王グッズを販売する店もあった。どこにいたのか冒険者や旅人があらわれている。とてんしゃんとてんしゃんと太鼓と鈴の音が聞こえてきた。


 バニー祭りなんて今まで聞いたことはなかったが盛況だな。


 昔は有名だったみたいだけど廃れてしまい、村長が村興しのためにがんばっているとは聞いたが……。

 この様子だと、かなり告知したんじゃないだろうか。


 俺もウサ耳ヘアバンドを頭につけて警備をつづける。

 新作の高機能バニースーツのお披露目もかねてなのか、商人の一団がバニーなお姉さんに詳しく話を聞いていたりした。


 しかし、露出度の高いバニーばかりだと色街に見えるな。


 勘違いしてやってきた冒険者も案外いるんじゃないかな。いや、さすがにいないかと思っていたのだが。発光魔術ネオンでギラギラに輝く看板には『ラブ❤バニー村にようこそ❤』と書かれていた。


 色街なのでは???


「旦那ー、難しい顔をしてどったのー?」


 ウサ耳ヘアバンドをつけたスルが、ヴァニー様キャンディーを片手にやってきた。

 邪王とヴァニー伝承を聞くたびになんともいえない表情でいたのに、祭りを楽しんでいるようだ。


「祭りが予想外にギンギラギンでちょっとさ」

「ビカビカと光ってるもんねー」

「スルは祭りを楽しんでいるみたいだな」

「あははー。もうひらきなおって楽しむしかないなってー!」


 スルは遠い目で前夜祭を眺めた。

 一応、気をつけるようには言っておく。


「……油断は禁物だぞ。のどかな村にひそむ闇がいつ牙を剥くかわらかない」

「見た目は全然のどかな村じゃないけどね」


 それは、まあそうなのだが。

 あまり疑いかかってかかるのもよくないとは思うけれど、逆さバニーなるものの記録が村からごっそりと抜け落ちていたのだ。


 村のバニースーツ歴史資料館でも不自然な空白があった。

 まるで、昔に忌むべきものがあったかのように……。


「まー、旦那。あれだよ。考えすぎるのもよくないよ!」

「お気楽だなあ」

「……一番の問題がさくっと解決しているしね。わりと大丈夫なんじゃないかなーと、うちは呑気させてもらっているよ!」


 スルはうへへーと笑った。

 村に来るまで思いつめたような表情も多かった彼女だが、祭りを楽しんでいるようだ。


「……ホントさ。旦那がどんな風にみんなを支えてきたかわかったよ」

「? うん? そ、そっか」


 スルはスルで俺になにかを感じとったらしい。

 どんな風になのかピンとこないが、みんなを支えているように見えたのなら嬉しい。それは俺の目指すところでもある。


 俺が頬をかいていると、祭りが騒がしくなってきた。


「――ぴょんしゃんぴょんしゃん♪」


 バニー村に古くから伝わる、ヴァニーわらべ歌が聞こえてくる。

 バニー前夜祭のはじまりだ。


「旦那、はじまったみたいだね」

「前夜祭で選ばれたバニーが本祭りで御神体になるんだっけ? 大役だよな」


 ちなみに厳正な審査とかなくて、その場の勢いとノリで決めるらしい。

 いかに愛らしく、楽しく、バニースーツ姿でヴァニー様の目に留まるような素敵なバニーであるかが大事だそうだ。


 ……メメナがこの村に来たがった理由がわかってきた気がする。


 と、そこかしこでバニースーツ姿の人たちが尻をふりふりしはじめた。

 可愛らしく跳ねたり踊ったり、ちょっとエッチな気もするが裕庶正しき祭りだ。よこしまな気持ちを抱くのはやめておこう。


 もし、バニー本祭りの御神体に選ばれたのなら調査もはかどるだろう。

 メメナもそれをわかっていたのか『任せておくれ、兄様』とノリ気でいたし、俺も仲間たちの誰かが選ばれてもおかしくないと思っていた。


 実際、彼女たちは注目を浴びていた。


「あっちの黒髪バニーの子! 惚れ惚れするほどのバニーっぷりだぞ!」「Sランクバニースーツをああも華麗に着こなすなんて!」「これは本祭りに選ばれてもおかしくは……おかしくは……?」


 サクラノは注目を浴びていた。

 しかし露出度があがって恥ずかしいようで歯をむき出し、カタナを鞘に超高速でちゃきちゃきしていた。


「ふーっ! ふーっ‼‼‼」


 寄らば斬りかねないサクラノを前に人の波がススーッと引いた。

 ……さすがに、本気で斬らないとは思う。


 そしてハミィはだが、彼女も注目を浴びていた。


「見ろよ、あの獣人の子!」「ほほう、高機動バニースーツですか」「あれだけダイナミックに着こなすなんて何者だ‼」「こいつは祭りの覇者が決まったか⁉」


 バニースーツとビキニ姿で露出は変わらない。

 なら、動じることはないと思っていたのだが。


「ハ、ハミィ……ウサギの姿で目立っちゃった。お母さん……ごめんなさい……」


 ウサギに身をやつした己がどうしても許せなかったのか、ハミィは素手で地面に穴を掘りはじめている。


 周りの人たちはどうしたらいいのか固まっていた。

 俺もどうすればいいのかわからなかった。


 ……あとはメメナか。

 すごく可愛い子だけど、まだ子供だし……さすがに祭りで選ばれることはないか。


 そう思いきや。

 銀髪。容姿端麗の美しいエルフ。物怖じしない胆力。


 注目を集めないわけがなかった。


 メメナバニィは堂々と恥ずかしることなく、それはもう愛らしくふりふり踊っていた。


「兎の村で飛び跳ねる。皆が尻を突きだし飛び跳ねる♪

 兎の目はどうして紅い。どうして耳が二つある♪

 ぴょんしゃんぴょんしゃん。

 可愛い可愛い兎様。いとしやいとしや兎様♪

 ヴァニーバニーバニースーツ。魅惑蠱惑のバニースーツ♪

 みんな大好きバニースーツ♪」


 メメナは俺に向かい、ウィンクを決める。

 いいや、その場にいた誰もが自分に視線を向けたと思えるような、角度バッチリ計算つくされた極大パフォーマンスだった。


 そして、地割れのような大歓声が起こる。

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