第10話 ただの門番、ユーリカベーに襲撃される

〈――ユーリ波動を感知、対象を捕獲します〉


 双子に怪しい影が迫る。

 怪しい影は3メートルぐらい縦に伸びたかと思うと、その姿をさらした。


〈ユーリ共同体発見。ユーリ共同体発見。ユーリ共同体発見〉


「ゴーレムだと⁉」


 鉛色のゴーレムが、俺たちの前に突如あらわれた。

 ゴーレムは全身泥だらけで表面にヒビも入っている。外見はボロボロだが、全体的にすらりとしたデザインで動きも洗練されていた。


 ゴーレムはすぐさま胸部装甲をひらき、両腕を双子に伸ばす。


〈ユーリ共同体、確保します〉


「「きゃああ⁉」」


 双子がゴーレムの胸部装甲に収納される。

 ゴーレムは大事そうに胸部装甲を閉じると、まるで興奮したみたいに目を光らせた。


〈少女が互いを想いあう姿。ユーリ波動いい。ユーリ波動いい。ユーリ、素晴らしいい〉


 な、な、なんだこいつ⁉

 いやそれよりもこんな怪しい存在、どうして接近されるまで気づかなかったんだ⁉


 俺がロングソードを抜くと同時に、サクラノが駆けていた。


「サクラノ! 二人を傷つけるなよ!」

「はい! 奴めの足を狙います! 狡噛流……鎧砕き‼」


 サクラノは犬のように低姿勢で疾走して、力強く抜刀する。

 鋼を断ちきりそうな重く、素早い斬撃だったが、鉛色のゴーレムはそれ以上に早く動いてみせた。


「⁉ こやつ、早い⁉」


〈敵対行動確認。最上位コマンド『ユーリの邪魔する者は死あるのみ』が選択されました。排除します〉


 鉛色のゴーレムは長い両腕をふりまわす。

 風が巻き起こる強烈な一撃をサクラノは紙一重で避けて、その隙をハミィが狙った。


石散弾ロックショット‼」


 ハミィは大きな石を蹴りあげる。

 そして自らも上空に跳ねあがって、大きな石を球技みたいに蹴り飛ばした。

 バラバラになった石の欠片が、鉛色のゴーレムの下半身にふりそそぐ。点ではなく面攻撃を狙ったのだ。


〈高機動モード移行〉


 ギュイイインッと歯車が高速回転したような音がする。

 鉛色のゴーレムはあっというまに範囲外に逃れる。そして肩の装甲がバカリとひらいた。


〈ミサイルで迎撃します〉

「か、火炎魔術⁉ きゃっ⁉」


 長細い筒みたいなものが十数個、肩の装甲から射出されて、ハミィに向かい飛んでいく。

 が、光の矢がすべて射抜いた。


 メメナだ。少女は魔導弓をかまえながら叫ぶ。


「怪我はないか!」

「あ、ありがとう、メメナちゃん!」


 ハミィは着地しながら礼を言った。


 くっ、なかなかに速いゴーレムだ!

 ゴーレム系は気配を感じとりにくい分、動きが遅かったりするのだが、素早い個体は珍しいな。下手な攻撃は双子が傷ついてしまうかもしれないぞ。


 俺はロングソードを抜いまま様子をうかがう。

 肝心のゴーレムは胸部装甲を愛おしそうにさすっていた。


〈ユーリすばらし、人生の宝。宝を傷つける奴、許しまじ〉


 よくわからんが、今のところ双子を傷つける気はないみたいだ。

 アリスとクリス、巫女の力が目的なのか? 


「なんだって、こんな場所にゴーレムが……」

「せ、先輩……。ゴーレムは魔素が無機物にとりついた存在なの……。ゴーレムにとって主人の命令こそが喜びで、生きる目的。主人をなくして彷徨いつづける、はぐれのゴーレムが世界に何体もいるらしいわ……」


 そういえばハミィの故郷には似たような存在がいたな。


「あいつは優先すべき目的があって二人を捕まえたわけか」

「うん……。あの様子ならすぐには傷つけないと思う……」

「……よし! みんな! このまま囲むようにして距離を詰めよう!」


 逃げ回るのならば逃げ道をふさぐだけだ。

 じっくりと追いつめて、双子が傷つかないよう破壊しようと思ったのだが。


〈難敵と認定。任務達成のため、ステルスモードを起動します〉


 鉛色のゴーレムが、うっすらと背景に溶けこむよう消えはじめる。

 そして、完全に姿が消えてしまった。


「姿が消えただと⁉」


 俺がそう叫ぶと、圧を感じたのでロングソードをかまえる。

 すぐに重たい打撃がロングソード越しに伝わってきた。


「ぐっ⁉」


 姿を消す魔術だと⁉ いや技術か⁉ 

 気配は……ダメだ。察しにくいゴーレムの気配がさらにうすまっている。目や耳を凝らしても見つけられない!

 この妙な術のおかげで俺たちに近づけたのか⁉


「ふむ、あやつの正体がわかったぞ」


 メメナは周囲を警戒しながら告げてきた。


「知っているのか、メメナ⁉」

「他の族長とのうわさ話で耳にしたことがある。あやつはおそらく古代ゴーレム『ユーリカベー』じゃ」

「古代ゴーレム『ユーリカベー』⁉⁉⁉」

「古代の者は、乙女と乙女との絆で発する『ユーリ波動』なる万病に効く力を研究していたらしいのじゃ。本来ユーリカベーはユーリ波動を感知すると姿を消して壁となり、乙女たちを見守る存在らしいのじゃが……」

「メメナ! その話、どこまで真面目に聞けばいい⁉」


 真面目も真面目じゃよーと返された。


 うぐぐ……古代人の悪ふざけみたいな存在がどうやら暴走したみたいだ。

 ユーリ波動を確保するために双子を捕まえたようだが、暴走した存在ならばどこに連れていかれるかわかったもんじゃないな。


 俺は気配を探ろうとしたのだが。


「くるっ⁉」


 圧を感じたのでロングソードをふるう。

 ガインッと腕らしきものを弾いたが、すぐに気配がかき消えた。


 隠密特化型か!

 気配だけじゃなく、音を殺せる機能があるらしい。

 本体の強さはさほどだ。範囲攻撃をしかければ倒せるだろうが双子を傷つけかねない。じっくり気配を探ろうにも、ちょくちょく攻撃をしかけてくるな。


 どうする、どうすれば……。

 待てよ? 乙女と乙女との絆を見守る存在なんだよな……?

 俺の直感がピピーンッと働いた。


「サクラノ! ハミィ! 二人に任せたいことがある!」


 二人は真剣な表情で応えてくれたので、俺はちょっと申し訳なく思った。


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ここまでお読みいただきありがとうございます!

連載再開したので察していた方がいらっしゃると思いますが……。


好調につき、続刊決定しました!

応援してくださった読者さまのおかげです!


書籍版は文章全体を磨きあげて、微Hアップです。

素敵なイラストと合わせ、web版既読の方でも楽しんでいただけるよう執筆してまいります!

続刊がでたその際はお手にとっていただけると幸いです!

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