第4話 ただの門番、占ってもらう
「いい仕事ないかなー……」
雲がうっすらと空に広がる、昼下がり。
俺は小さな町アガーサを歩きながら求人を探していた。
仲間と朝のうちに別れてからずっと探しているが、もう昼だ。よさそうな仕事がない。町の通りの貼り紙にも日雇いの仕事はなかった。
スルからのクエストはけっこーな実入りになった。
ただ消耗品の補充や装備の修繕などでお金を使ってしまった。
あと、みんなの疲労が少しずつ溜まってきている。
みんな鍛えているとはいえ、さすがに野宿つづきは精神的な負担が大きい。というわけで、この町でしばらく休養をとることにした。
ついでに当面のお金を稼ごうとしたのだが、仕事がない。
「はあ、ギルドハウスを使えればなあ……」
とりあえず宿泊費が浮く。
他には冒険者ギルドから特別サービスを受けられたりと、なにかと便利なんだよな。
自由都市地方は冒険のメッカだ。主要路の町にはだいたい冒険者ギルドがあって、ギルドハウスもあったりする。
この町アガーサもそうだ。
ただギルドハウスは有名冒険者パーティーが使う。
俺たちのような知名度の低い冒険者パーティーは宿に泊まるしかないわけで、だからまとまったお金を得るために町でクエストを受けたりする。
「……まあ、考えることは全員同じか」
俺は小さく息を吐いた。
冒険者ギルドに依頼はなし、全部受理されたあとのようだ。
メインのモンスター討伐すらない。
雑魚でもモンスター被害にはどこも困っているのか、お金にはなるんだよな。メメナたちがギルド員とうまく交渉している(なんかゴニョゴニョと話している)ので、報酬も上乗せされているみたいだが。
接客とかで小銭を稼ぐわけにもいかないし、ここは我慢して野宿か……?
元流浪の民だったスルに、コツは聞いてはいるが。
『野宿のコツ? そっだねー。慣れ8割に、諦め2割をまぜこぜした精神?』
……慣れていても大変なことには変わりなさそうだった。
次の町で探すのも手かなーと、考えていたときだった。
「――そこのモブっぽいお兄さん」
ここで反応すればモブだと認めたことになるだろう。
けれど最近では逆にそれはもはや個性ではないか、ある意味目立っているのではないかと思うようになっていた。
「俺のこと?」
声の方角に視線をやる。
うす暗い路地裏の奥で、老婆が机にちょこんと座っていた。
あれ……。何十メートルも離れているのに間近で声が聞こえたような……?
俺は不審に思いながらも路地裏に足を踏みいれ、ゆっくりと奥まで進んだ。
「…………えーっと、俺に声をかけてきたのは」
「ひーひっひっ、アタシで合っているよ」
ローブで顔がよく見えない。ひどくしゃがれた声だ。
机には水晶玉やら得体のしれない呪具やらが置かれている。
「占い師か?」
「そうともそうとも。アンタついているねえ……タダで占ってやるよ」
タダほど怖いものはないんだが。……妙な雰囲気のある老婆だな。
やってきた路地裏が人の気配がぜんぜんなくて、背後の通りまでそこまで離れていないのに世界から切り離されたように思えた。
「お婆ちゃんさ、きちんと許可をとって商売している?」
「商売じゃないさ、占いはアタシの趣味。面白い
「……占いねえ」
正直、これぽっちも信じていないのだが。
「アンタ、人間関係で悩むことが多いだろう?」
「⁉ す、すごい! どうしてわかったんだ⁉」
ずばり言い当てられて、俺は前のめりになる。
「わかるさ。アタシともなればそれぐらい簡単にわかる。占いでいろんな人間を視てきたからねえ……。つまるところアンタの悩みは恋愛……冒険……職場」
「っ⁉」
「そう、職場で大変なことがあったんだね」
俺は驚きのあまりあとずさった。
モブすぎるせいで顔や名前をなかなか覚えてもらえず、人間関係には苦労してきた。
つい最近では職場で貴族の子弟とトラブルを起こして、王都を出るはめにもなった。
なにもかも当たっている!
「そ、そうなんだよ! 兵士長っ……上司にも迷惑をかけちゃってさ……!」
「ひーっひっひっ……いくら仕事とはいえ、理不尽な目にあったようだねえ……」
俺はコクコクと高速でうなずいた。
怖い! 怖いぐらいに当たっているぞ⁉
すると老婆は俺の身なりでも観察するように、ジロジロと見てきた。
「それで……今は、お金に困っているわけだね」
「っ⁉⁉⁉」
俺は大口をあけて立っていた。
心が読まれたのかと思うほど、俺の過去と現在をずばり言い当てられたからだ。
「す、すごい……どうしてわかるんだ?」
「言ったろう? アタシは占い師、それもとびきりすご腕のね」
「だ、誰にでも当てはまることを言っているんじゃとも思ったけど……」
「それにしては正確すぎる占いだと思わないかい?」
そう、怖いぐらいに正確すぎるのだ。
職場のトラブルやお金に困っているだとか、わかりようがない。俺はそんなにわかりやすい人間じゃないはずだ。
「さあさあ……信じてもらえたところで、アンタの未来を視てあげようかね」
「いや、それは……」
「気にならないかい? ひひっ!」
気になるといえば気になるが。
俺の無言を了承と受けとめたようで、老婆は水晶玉に手をかさじてムムッーと目をこらしていた。
そして「ほう……ほう……」とつぶやきながら語りかけてくる。
「アンタは苦難の中にいるようだね……。それもとびきりの苦難……。こんな暗雲はそうそう見ることはできないよ……」
真の魔王探しの旅のことだろうか。
老婆は言葉をつむぐ。
「だか暗雲はつづかない……アンタはもうすぐ光に出会うだろう」
「希望ってことか?」
「いや……この光は……そう、黄金だよ。まばゆいばかりの黄金の光さね。アンタは……とある館でその光に出会うようだ……」
「館?」
「その館に必ず訪れることになる……そこでアンタは莫大な富を得る」
老婆はバッと顔をあげて、俺を見つめてきた。
人間の欲望を見透かすような油断のならないギラついた瞳だった。
「ひーっひっひっ……喜びなよ、アンタもうすぐ大金持ちさね」
「俺が大金持ち……」
「大金持ちになったそのときは、わずかばかりの……ほーんのわずかな、占いの報酬をもらえばいいさね……。ひーひっひっひっ!」
占いによっぽど自信があるのか、老婆はもう報酬を得たような表情だ。
大金持ちになった俺か。想像できないや。
王都の一等地に真っ白な家を建てて……毎日のんびり読書やひなたぼっこ。庭でバイオリンなんて弾いたりさ。いや楽器は弾けないけどさ。
……まー。今は真の魔王を探しているが、一兵士の生涯が身の丈にあっているか。
困っている人を助けたり、悪人を捕まえたりするのが俺の日常だ。
というわけでロングソードを抜く。
「で、アンタは何者だ?」
「ひっ⁉⁉⁉」
「邪悪な気配を感じるんだが?」
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